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COLORS~魔王を倒す救世主たちに、正義の心がありません~  作者: 水嶋りこ
1章 最低な救世主たち

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1.秘薬の儀式

ここは大魔導機構オルディア。

魔導士たちの唯一にして絶対の巨大機関であり、国家を超えた超法規的組織である。


その一室に、二人の魔導士の姿があった。


「そろそろ、時間だな」

漆黒の髪と瞳を持つ男が呟く。

 

——“黒の勇者、ダンザ“


黒に近い髪や瞳なら、いくらでもある。

しかし、彼の纒う“黒“はそれとは明らかに違う。


光を吸い込むのではなく、弾く黒。

艶も影も均一で、どこにも揺らぎがない。


例えるなら、磨き上げられた黒曜石。

触れれば冷たく、硬く、刃物のように鋭いのに、なぜか視線だけは離せなくなる。


二十二歳。五人のカラーズの中で最年長だ。

長身に引き締まった体躯は、明らかに戦い慣れた戦士のそれである。

憮然とした表情で、その眼光は鋭い。


「あいつらからの返事は?」

低く短く、ダンザが問う。


「伝令は出しましたが……三人とも来る気はないようです」

答えたのは、緑の髪と瞳を持つ青年だった。


——”緑の勇者、采牙(サイガ)”


まだ十七歳だというのに、立ち姿には不思議な落ち着きがある。

身長は平均的で線も細い。

しかし弱々しさは一切なく、むしろ研ぎ澄まされた刃のようだった。


髪も瞳も澄んだ緑。磨かれたエメラルドに似た色合いだ。

光を受けるたび、内側から静かに輝く。


後ろ髪は三つ編みにされて背へと流れている。編み髪が、静かに揺れた。



穏やかな笑みを浮かべている。

けれど、その瞳は一切笑っていなかった。

感情を排し、常に正確に状況を測る目だ。


「……またか」

ダンザが舌打ちする。

「あいつらには規律も忠誠もない。勇者の自覚もな」


采牙は肩をすくめる。

「だからこそ“選ばれた”んですよ。魔王の血に」


「俺に対する嫌味か?」

「いいえ。運命に対する皮肉です」


彼らは〈朱嶺の予言書〉に記された救世主、カラーズ。

その予言書によれば、特別な色と力を持つ六人の救世主が誕生するという。


彼らは予言された六人のうちの二人だ。


「……最後の儀式ですね。六人目が、誕生するといいのですが」


采牙が視線を窓の外へ向ける。


カラーズを生み出す秘薬は残りわずか。

今回が最後の儀式となる。

 

すでに誕生しているカラーズは五人。

欠けている色は、”赤”。


 

「誕生する」

ダンザは断言した。

「〈朱嶺の予言書〉が外れたことはない」

 

「……そうですね」

采牙が頷く。


八百年前に記された、誰も魔王を知らない時代に書かれた書物。

四百年前の魔王襲撃から現在に至るまで、世界は予言書通りに進んでいる。


二人は立ち上がると、儀式の間へ向かった。

 


◇



儀式の間は、重い空気に包まれていた。


テーブルの上には十本の小瓶が置かれ、その奥に十人の候補者が並んでいる。


この中から救世主を選ぶのは、人ではない。秘薬だ。

選ばれれば、圧倒的な力を得て、英雄として讃えられる。

しかし、候補者たちの顔に希望はない。


うなだれる者。

怒りを滲ませる者。

祈る者。

諦めたように静かな者。


儀式の場で、幾度となく繰り返されてきた光景だった。



その中で一人だけ、驚きと好奇心を浮かべて、ダンザと采牙を見つめる者がいる。

采牙と同じ年頃の娘だ。


カラーズの持つ色を初めて目にした者たちが見せる、驚く表情。

宝石のようだと褒め称えるときの、見惚れるような視線。


それも采牙は飽きるほど見てきた。

しかし、儀式の場で見たことは一度もない。


「……っ」

采牙の呼吸が、止まる。


ローブのフードから覗くその顔に、見覚えがあった。


彼女はただ、采牙の緑の髪と眼を興味深そうに眺めている。

目が合っても何かを思い出す様子はない。



当然だ。

言葉を交わしたのは、一度だけ。

知り合いと呼べる仲ではない。

采牙が一方的に知っているだけだ。


だが——

胸の奥が、わずかに痛んだ。


「どうした?」

ダンザの問いに、采牙は首を振った。

「いえ、なんでもありません」


采牙は視線を落とし、資料を確認する。


カラーズに、候補者を決める権限はない。

候補者は、儀式の場で初めて知らされる。

 

(本当に……組織は、容赦がないですね)

心の中で呟いた。



候補者の名は、茜。


魔法の発現は半月前。

彼女は魔導士になったばかりだ。


聖剣フェルメリアの試験に送られ、落ちた直後にカラーズの儀式へ。

駒としては、理想的な流れだ。



だが。

『驚いたわ!この場所、私だけしか知らないと思っていたのに』

花を背に笑う姿が、鮮やかに蘇る。 


『この場所は、他の人には内緒ね!』



采牙の指先が、わずかに強く資料を握る。


ほんの一瞬。

ほんの一瞬だけ。

“選ばれないほうがいい”と、思ってしまった。


すぐにその感情を押し殺す。



(こんなところで、あなたに会うとは思いませんでした。——王女)


魔導士になる前の彼女の身分は、


”トウラ王国、第一王女”。


争いとは無縁の国で、大切に育てられた姫だった。


 

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