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COLORS~魔王を倒す救世主たちに、正義の心がありません~  作者: 水嶋りこ
3章 紅茶の流儀

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30.美学

采牙が持参した茶器をテーブルに並べていると、ジェレンがふいに立ち上がった。

ゆっくりと戸棚へ向かう。


扉を開けると、中には大小さまざまな紅茶缶が整然と並んでいた。

金属の缶、陶器の瓶、木箱。ラベルには細かな文字が並び、どれも几帳面に揃えられている。


「茶葉も用意しましたけど」

采牙が言うと、ジェレンは振り返りもせずに答えた。

 

「悪いけど、君を信用していないんだ」

軽い口調だった。

「《植物》の能力者で、組織のお気に入りで、魔王のスパイ?そんな君が持参する茶葉を飲むほど、僕は勇者じゃない」

 

その言葉に、采牙が小さく微笑む。

「奇遇ですね。僕も実験棟の研究員の淹れてくれるお茶は不安だったんです」


「どっちも何も入ってねーよ。どうでもいいから、早くしろ」

ソファに座ったまま千弦が口を挟んだ。

心が読める千弦の一言に、あっさりと采牙が引き下がった。

 

「では、ジェレンさんにお任せします」

 

「紅茶の種類がすごいわね。好きなの?」

茜が戸棚を覗き込む。

 

「まぁね」

「おすすめは?」

「ヴァイオレクシア・セプテントリオンかな」

「……呪文?」


茜を無視して、ジェレンが一つの缶を取り出す。

蓋を開けると、かすかな花の香りがふわりと漂った。

 

「極北の高地で採れる、紫色の花の香りを持つ紅茶だ」


慣れた手つきでポットを持ち上げる。

まずポットへ湯を注ぎ、ゆっくり回す。

続いてカップにも湯を注ぎ、温める。

その動きは正確で、しかしどこか楽しそうでもあった。


「リラックス効果がある。落ち着きのない君たちにはぴったりだよ」


温めた湯を捨て、茶葉を計量してポットへ落とす。

そして静かに熱湯を注ぐと、ジェレンはふいにその場を離れた。


「手伝うわ」

茜がポットを持ち上げてカップに注ごうとした、その時。

戻ってきたジェレンが茜の手を止めた。

 

「君は茶葉を殺す気か?」


「茶葉を、……殺す?」

 

殺すと言う言葉は、最近山ほど聞かされた。

『味方を殺すな』『敵を殺せ』

千弦からは『自分を殺せ』


色々言われてきたが、茶葉は初めてだ。


「そうだよ。紅茶は蒸らすのが大切なんだ。いきなり淹れたら風味が死ぬ。それはもう——紅茶じゃない」


ジェレンは静かにポットの蓋を閉じた。

その仕草が、妙に丁寧だった。


彼が持ってきたのは砂時計だった。

すでに裏返っており、砂は半分ほど落ちている。

細い砂が静かに流れ落ちていく。

落ちていく砂を、京が面白そうに覗き込んでいた。


「長ぇよ。飲めれば味なんてなんでもいいだろ」

千弦がぼやく。

 

お茶会はなかなか始まらないが、ジェレンは気にする様子はない。


「美味しいものを、美味しく味わう。世界の命運なんかより、僕には大事なことだからね」


砂が最後まで落ちきってから、ジェレンはポットを持ち上げた。


蒸らし終えた紅茶を、ゆっくりとカップへ注ぐ。

琥珀色の液体が細い筋になって落ちていく。

部屋の空気に、やわらかな花の香りが広がった。


「文句は飲んでから聞くよ」



テーブルにカップを並べると、勝手に部屋を見て回っていたカラーズ達が自然と集まってくる。


一口、紅茶を口に含む。

ふわりと花の香りが広がった。

口の中でやさしく甘い余韻がほどけ、あとからほんのりとした温かさが胸に落ちる。


「……美味しい」

茜が思わず呟く。


「紅茶と思えんな」

ダンザが驚く。紅茶なんてなんでもいいと思っていたはずなのに。


その反応を見て、ジェレンの口元が綻んだ。

静かな満足の笑みだった。

 

「だろう?」

自分のカップを持ち上げる。


香りを一度確かめるように軽く息を吸い込み、ゆっくり一口飲む。


「お茶を淹れる時間すら待てない——そんな人生なんて、ごめんだね」

静かな声だった。


「……そういえば、朱嶺って“あの引きこもりをなんとかしろ”って言ってなかった?連れ出さなくていいのかな?」

茜が首を傾げる。


采牙が肩をすくめた。

「ダメなら屋外で第二回ですね」

 

「君たちと二度もお茶会しろって?最悪だな」

ジェレンが肩をすくめる。


「最悪なのはこっちだ」

千弦が紅茶を含みながら嫌そうな顔をする。

しかし背もたれに体を預け、完全にくつろぎモードだ。


輪になって親睦を深めるなど、絶対に似合わないメンバーだ。

リーインも、ダンザも、千弦も。

なのに、なぜか全員がテーブルを囲んでいる。



「で。君たち、いつからそんなに仲良くなったの?」

カップを持ち上げながらジェレンが尋ねる。


「全然仲良くないから!」

真っ先に茜の声が響いた。


「手を組んでいるだけだ。魔王を倒すためにな」

ダンザは苦々しい顔をしている。


「僕は魔王様が幸せになるためです」

采牙は淡々としているが、言っている内容はおかしい。


「私は魔王なんて、どうでもいいけど」

リーインが微笑む。


「……よくそれで手を組めたね?」

ジェレンの言葉に返事はない。


采牙が小声で囁く。

「これっていつ条件クリアなんですかね」

「さぁな。お茶飲んでればそのうちだろ」


雑談を交わしながら、昨日の伝承の様子をジェレンに伝えた。

魔族幹部と休戦協定を結んだことも。

 

「……ふぅん。朱嶺の予言書が未来の記録、ね。非現実だけど、筋は通るな」

ジェレンが軽くため息をついたそのとき。


京の周りの空気がふっと揺れた。

 

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