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COLORS~魔王を倒す救世主たちに、正義の心がありません~  作者: 水嶋りこ
3章 紅茶の流儀

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29.はじめまして

二十二時。


カラーズ専用棟の一階最奥。

廊下の突き当たりにある扉の前に、六つの影が並んでいた。


采牙が静かに扉をノックした。

少しの沈黙。そして——

 

「ほんとに来たの?君たちとお茶会なんて絶対に嫌なんだけど」

 

重たい扉の向こうから、冷めきった声が返ってきた。


采牙は淡々と答える。

「伝令にも書きましたけど。このままだとジェレンさんは、魔導士に殺されるらしいですよ」

 

一通目の伝令には、ジェレンが迎える“最悪の史実”がすでに記されている。


扉の向こうで、小さく息を吐く気配がした。

 

「僕が魔王を封印しなければいいでしょ。全部無視して引きこもれば良くない?」

気怠げな声。


その言葉に、ダンザが淡々とかぶせた。

「わざわざ封印するために部屋を出た時点で、未来のお前は引きこもりを諦めてるんだ」


『無視して引きこもればいい』

ジェレンが本気でそう考えていたなら、史実でも引きこもったままのはずだ。

未来のジェレンは外へ出ている。

 

「どうせ諦めるなら、今諦めろ。俺たちとお茶会を開け」


扉の向こうで、明らかに嫌そうな沈黙が落ちる。

「君の口から“お茶会”とか、たちの悪い冗談としか思えない。嫌なんだけど」


「埒があかねぇな」

千弦が肩を回した。

「全員で結界破壊した方が早くねぇか?」


「やっぱりそれしかないですよね。ジェレンさん、《伝令》で伝えた通り、カラーズみんなであなたの結界を破りますね」

采牙が穏やかな声で続ける。


「私たちが力を合わせれば棟ごと吹き飛ばせるよ!」

茜が嬉しそうに剣を抜いた。剣先が光を反射し、部屋の扉に不穏な明かりが走った。


「十秒以内だ。それ以上は待たん」

ダンザが無慈悲にカウントを始めた瞬間。


バン、と乾いた音を立てて扉が開いた。

紫の髪の青年が、開いた本を片手に立っていた。

指をページに挟んだまま、心底うんざりした顔をしている。 


「お茶飲んだら帰って」

 

ジェレンは柔らかな癖のある髪を軽くかき上げ、眼鏡を指で押し上げながら深いため息をついた。



扉の向こうに広がっていた空間を見て、茜がぴたりと足を止めた。

 

「……広!!なにこの部屋!?え、ジェレンの部屋だけスイートルーム!?」

 

視界の先まで床が広がり、簡素な寮の部屋とは明らかに違う。


「簡易応接室を兼ねた共同談話室だ」

淡々と、ダンザが説明した。

「元々は来客用と会議用に使われていた。今は使用されていないのをいいことに、ジェレンが結界で封鎖して乗っ取った」


「乗っ取ったって言い方はひどいな」

ジェレンが即座に言い返す。

「カラーズの専用棟になった時点で不要になった部屋だろ。僕は有効活用しているだけだよ」


「それを乗っ取ったと言うんだ。カラーズのための談話室がなくなっただろうが」


「問題ないはずだ。君らに談話する習慣なんてないだろ」

ジェレンは呆れたようにため息をついた。


「今はその必要があるの。だから、談話室で集まるのは当然よね」

柔らかく微笑みながらリーインが部屋に入る。

「はじめまして、ジェレン。意外と若いのね」


「君より年上だけどね」

ジェレンは無表情のまま答えた。

彼は二十一歳。

この中ではダンザに次ぐ年長者だ。


「ジェレンって本当に紫の髪と目なのね」

茜が好奇心いっぱいの目で覗き込む。

 

ドア越しに会話した時とまるで違う態度に、ジェレンは露骨に疲れた顔をした。

「当たり前だろ。で、最近沈んでた赤の勇者と同一人物?」


「茜よ。よろしくね。誰も殺さなくていいんだって思ったら、開放感でいっぱいよ!」

明るい笑顔で茜が答える。


「まだ、未来は地獄だと言ってるだろう。お前は本当に……それでも勇者か!」

ダンザの怒号は変わらず響くが、茜は悪びれる様子はない。


最後に部屋に入った采牙は、扉を閉めるとジェレンの名を呼んだ。


「ジェレンさん。この子が未来から来た子です」 


采牙の隣に、ローブを纏った京がいる。

千弦の能力で周囲に人がいないことは確認済みだが、念のためローブで姿を隠して連れてきたのだ。


一通目の伝令に、京のことは記してある。


「もう喋っていいですよ」


采牙の合図で少年がぱっと顔を上げた。

フードを外すと、まるで光を撒き散らすような笑顔だった。


「おれ、京!朱嶺にいちゃんの友達で、未来からきましたっ!よろしくね、ジェレンにいちゃんっ!」

 

沈黙。

 

「よろしく」

興味の欠片もない声でジェレンは答えた。


カラーズは勝手に部屋を眺め、ソファにくつろいでいる。


「ねぇ、ジェレンのベッド……大きくない?」

「来客用だからね」


部屋の中央には大きなテーブルと、人数分以上の椅子。

ソファも並んでいる。

ここが“誰かの部屋”ではなく、“皆で使う場所”だったことが、一目で分かった。

 

ただ、部屋の雰囲気は、談話室の響きからはかけ離れていた。


静謐だった。

壁一面を埋める本棚には、きっちりと背表紙が整列している。

床にはほこり一つなく、誰かの生活の匂いがしない。

まるで時間さえ止まっているような静けさだ。


「引きこもりっていうから、ゴミ屋敷かと思ったのに。綺麗な部屋ね」


遠慮のない茜の言葉に、ジェレンは小さく息を吐く。

部屋から一歩も出ていないはずなのに、妙に身なりが整っていた。上質な生地の服には、染みひとつない。


「余計なお世話だよ」


その仕草やため息でさえ、どこか品があった。

 

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