27.報告
オルディア本拠地。
白い石造りの廊下は冷えきったように静かで、ダンザの足音だけが響く。
戦闘から帰ってきたその足で、ダンザは報告へと向かった。
会議室では、幹部数名がすでに着席している。
その視線が、ダンザに集まった。
「空より一名の少年が落下。“予言者・朱嶺の友人”を名乗った」
淡々と、報告が室内に響く。
「続けて『予言の続きを伝えるから、全員仲良くしろ』と発言。魔族幹部が結界に捕縛、その後我々も交えて事情聴取を行った」
椅子に座る幹部たちは、眉ひとつ動かさない。
ダンザは続ける。
「少年の主張は以下。——このまま戦えば魔王が復活する。魔族と魔導士が手を取り共存するのが平和への道。”過去から来た者”ではなく、朱嶺の生まれ変わりを名乗る男からの伝言とのこと。その男は転移魔法の使い手で、組織非所属。魔族側も把握していない」
そのまま詳細を報告する。
予言の続きと称する内容は抽象的だったこと。
『カラーズと魔族は死ぬが、魔王だけ生き残る』
『茜が発狂し殺戮に走る』程度の、不確実な発言であること等。
一拍置き、はっきりと告げた。
「危険思想の持ち主と判断し、その場で粛清した」
報告を聞き終えた幹部たちの表情は、驚きも、疑念も、興味すら浮かばなかった。
「……時を越える魔法など存在しない。初めから妄言だろう」
「危険思想を口にした段階で粛清は当然だ。むしろ生かしていた方が問題だ」
少年の扱いは、完全に“報告事項のひとつ”でしかなかった。関心の対象ですらない。
「それより問題はカラーズだ」
苛立ちを隠さない声が、ダンザに向けられる。
「報告によれば、茜は戦闘に参加せず、お前たちは五名がかりで幹部二名を相手に逃した。勇者がその程度の働きでどうする」
「連携不足も甚だしい。まとめる気はあるのか?」
京の話など、誰ひとり話題にすらしない。安堵しながら、ダンザは飛び交う叱責を受け流す。
連携不足、茜の戦闘放棄に対する叱責などいつものことだからだ。
だが——
「茜には聖剣フェルメリアの適性試験を再度受けさせろ」
その言葉は、初めてだった。
ダンザの眉がわずかに動く。
「……試験に落ちて、適性なしと判断されたはずでは」
「カラーズとして覚醒した今は別だ。魔力の量も質も変わっている。試す価値はある」
「もし使い手になれば、茜の意思に関わらず戦闘に従事させられる。戦わぬ勇者など無価値だ」
「以上だ。すぐにカラーズのまとめ直しに着手しろ」
反論を許さない命令が飛ぶ。
ダンザは一礼して部屋を出た。
彼らの理屈はダンザにも納得のいくものだ。そこに不満はない。だが——
『茜。
聖剣フェルメリアの使い手になり、殺戮マシーンと化して発狂する。最後は采牙に殺される』
彼の語った伝承の真実味が増す。それはそのまま、絶望的な未来が真実であることを示している。
ダンザは深く息を吐いた。
采牙の部屋をノックし、入る。
書類を読んでいた采牙は顔も上げずに言った。
「報告、どうでした?」
「京の件は怪しまれていない。茜にフェルメリアの試験を受けさせることが決まった」
采牙が手を止め、顔を上げた。
「……彼の言った通りですね」
「それから、連携不足で叱責された。『カラーズをまとめろ』という命令だ」
「連携を取れ、ですか。……オルディアにしては最高の命令ですね」
采牙の口元に小さく笑みが浮かぶ。
「あぁ。これで俺たちが集団行動しても怪しまれん」
「そもそも、勇者が集まって怪しまれる現状が異常なんですけどね」
二人は短く視線を交わす。
ダンザが真剣な面持ちで告げた。
「——明日、お茶会を決行する」
采牙が頷く。
そしてカラーズの元へ、伝令を送った。
◇
本を読んでいたジェレンが、気怠げな仕草で伝令を開く。
「今日はよく来るな」
これで今日、三度目の伝令だ。
一通目は
〈未来から来た少年が、最悪の史実を告げました。カラーズはそれを事実と判断。彼は未来の魔導士から知識と技術を託されています。オルディアに秘密で匿うことにしたので協力してください〉
というものだった。
『詳細は直接話をしたい』
と書かれていたが、めんどくさそうなので無視。
二度目は
〈その少年を組織から隠すために、ジェレンさんの部屋に置いて欲しい〉
という要求。
こちらももちろん無視。
そして今——
〈明日の二十二時にカラーズ全員でお茶会をしましょう。場所はジェレンさんの部屋です〉
興味なさそうにしていたジェレンが、初めて体を起こす。
「なにこれ?」
〈追伸:不在の場合は、カラーズの総力を持ってドアを破壊します。ご了承ください〉
三通目は、伝令という名の脅迫状だった。




