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COLORS~魔王を倒す救世主たちに、正義の心がありません~  作者: 水嶋りこ
1章 最低な救世主たち

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10.魔族幹部

その時、空が裂けるような音が響いた。


轟、と天地を震わせる衝撃。

雷光が一直線に地を貫き、爆風が戦場を呑み込む。


眩い閃光とともに“何か”が地面を抉る。

土煙が晴れた先、二つの影がゆっくりと姿を現した。


ひとりは青年。年は二十歳頃。

上着のボタンは外れ、袖をまくり上げた着崩しの軍服を身に纏っている。


深い藍色の髪は、光の角度によって紫にも青にも、あるいは底知れぬ黒にも見えた。

まるで、色そのものが定まることを拒んでいるかのようだ。

金色の瞳が、静かにこちらを捉える。


もうひとりは、茜と同じ年頃の少女。

年若さを残した顔立ちに、同じく藍色に似た髪を持つ。

ゆるく波打つその髪を、左右で二つに結んでいた。

少女の瞳もまた、金色だった。

冷たく澄んでいるのに、不思議と温もりを感じさせる瞳だ。


青年と揃いの藍色の軍服を身につけていた。

裾には金の糸で波紋の刺繍が施され、夜の水面のように静かに揺れる。

その立ち姿は、幼さと静謐さを同時に纏っている。

年齢に似つかわしくないほど落ち着いていて、凛としていた。


二人とも獣のように鋭いわけでも、威圧的なわけでもない。

けれど感情の読めないその色は、人ならざるものを連想させる。

ふと、茜の脳裏をある記述がよぎった。


〈見るものによって色を変える闇色の髪〉

〈金の眼が向く先から、世界が削られる〉


魔王の姿。

その断片が、人の形を借りて目の前に立っているような錯覚を覚えた。



「……奴らか」

ダンザが低く呟いた。


青年は茜をまっすぐ見つめる。

雷光を纏いながらも、その眼差しは柔らかい。


「やぁ、はじめまして。赤の勇者さん」

目を細めて笑う。

「僕は茨雷(シライ)、こっちは澪(ミオ)。魔族の幹部をやってるんだ。よろしくね」


その言葉に、茜が強く剣を握りしめる。

だが、茨雷の声には殺気がなかった。


「今日は戦いに来たわけじゃない。お前たちが放ったあの者たちを回収に来ただけだ」


澪が一歩前に出る。

その声は静かで、まっすぐだった。


茨雷がそっと手を翳すと、雷の残光がゆらめく


「……何をするの?」


光に包まれて、魔族たちの姿が薄霞の中に消えていく。

 

「連れて帰るよ。回復させて、元の“魔導士“の姿に戻すんだ。化け物にされて仲間に殺されるなんて、あまりにも哀れだからね」


その声は穏やかだったが、茜の胸をざわつかせた。茨雷は茜の方に目をやって、ふと微笑む。


そしてダンザへと視線を戻した。


「もうこんなこと、やめたら?この子たちも襲われる村の人たちも、本当に可哀想だ。言うことを聞かない仲間を化け物にして、人を襲わせて、殺す。……それでも君たちは“正義の味方”のつもり?」


「今度は茜を“誘惑“するつもりか?」

ダンザの声は低い。

「戯言は聞き飽きた」


地響きが轟く。

それでも茨雷は一歩も引かず、淡く微笑んでいた。



「気が短いのは相変わらずだな、ダンザ」

澪が静かに言い、片手を掲げる。

「貴様は上に立つ器ではない。魔王様の寛大さを少しは見習え」


ふわりと、倒れ伏していた魔族たちの死体がすべて光となり、空へと吸い込まれていった。


「お前たちの戯言など、誰が信じるものか!」


ダンザの怒号と同時に、大地が隆起し、岩槍が無数に突き上がる。

茨雷と澪を貫こうとする刃の群れ。


しかし——

「やれやれ」

澪の瞳がわずかに光を帯びる。


次の瞬間、金属音が響いた。

彼女の前に現れたのは、鋼鉄の刃。

それが風のように舞い、岩槍をまとめて薙ぎ払った。


「戦いに来たのではない、と言ったはずだが?」

澪の声は静かだが、確かな威圧を放っていた。


「ねぇ。茜ちゃん、だっけ?君にいいことを教えてあげる」

茨雷が穏やかな口調で言う。


「魔王が手下を集めて人を襲わせている、というのは嘘だよ」

軽く、優しい声で。


「魔族を作っているのは、オルディアだ。魔導士が正義だと世界に知らせるために、“魔王の手下“を作り、人を襲わせ、それを倒しているんだよ」


そして、ゆっくりと倒れている村人へと視線を向けた。


「その証拠に、魔王様は四百年前に湖に沈んだ。なのに、魔族が人を襲ったのは百年前オルディアができた直後からだ。おかしいと思わない?」


「お前たちが放つ魔族を、私たちは”魔物”と呼んでいる」

そして澪が静かに後を続けた。

「魔王様は、手下を集めて襲わせるんじゃない。逆だ。お前たちが放つ魔物を拾って助け、家族と呼んでいる。それが、魔族だ」


「……」

茜が息を飲む。


「僕らの言葉が嘘だと思うなら、そこの白のお姉さんに聞いてごらん」

茨雷が穏やかに指を向ける。

「この魔族たちがどうやって生まれたのか。……リーインは知っているからさ」


名指しされたリーインは、涼しい表情を浮かべているが静かな殺気を纏っていた。


澪は茜をまっすぐに見つめていった。

「魔王様は人間が大好きだ。私たちも、できれば戦いなんてしたくない。……平穏に生きていたいだけ」


「……って言っても、だーれも聞いてくれないんだけどね」

茨雷の微笑は優しく、それでいて痛々しかった。


「じゃあね、茜ちゃん。また会おう」


瞬間、光が弾け、風が爆ぜた。

茨雷と澪の姿は、金の残光を残して消えた。



静寂が訪れる。


「魔族の戯言に耳を貸すな」

沈黙を破ったのは、ダンザの低い声だった。

「奴らはいつもそうだ。甘言を囁き、心を乱し、迷いと亀裂を生むのが目的だ」


茜は何も言えず、ただ空を見上げた。

先ほどまで雷が走っていた空は、嘘のように澄み切っている。

なのに、胸の奥では何かがざわめいていた。


——彼らの言葉は、嘘だったのだろうか。


退却の号令が響く。誰も口を開かない。

けれど茜の耳の奥では、二人の声だけが何度も反響していた。


リーインが静かに彼女の肩を叩く。


「……彼らの言っていたことは、全部“本当”よ」

「え……?」

「ダンザは、認めないけれどね」


風が吹いた。

焦げた匂いと、誰かの血の匂いが混ざる中で、茜の胸に新しい恐怖が生まれた。


世界は、思っていたよりもずっと、歪んでいる。

 

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