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星降る屋上アイドル部―屋上で歌うと流れ星が落ちるらしいので、女子高生アイドル部を作ることにした  作者: 明石竜


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第十四章 最後の流れ星

 期末テストも終わった十二月の中旬、屋上の伝説の続きを知ったのは、偶然だった。

 岸本先生に呼ばれたのは、放課後の音楽室だった。二曲目の仕上がりを確認したいという話だったから、わたしは一人で向かった。

 先生は音楽室の窓際に立っていた。外を見ていて、わたしが入ると振り返った。

「座りなさい」

 わたしはパイプ椅子に座った。先生が向かいに座った。

「二曲目、聴かせてもらった。録音のやつ」

「どうでしたか」

「いいわよ。一曲目より重さがある。あなたたちが変わった分、曲も変わってる」

「ありがとうございます」

「ただ」

先生が少し表情を変えた。

「一つ聞きたいことがある」

「何でしょう」

「最近、部員の様子が少し変わったと思う。何かあった?」

 わたしは少し考えた。先生には話してもいいかもしれないと思った。顧問だし、ここまで一緒に来てくれた人だし。

「思い出が消えている話、先生は知っていますか?」

 先生が少し目を細めた。

「屋上の話ね」

「先生も知ってたんですか?」

「この学校に長くいると、いろいろ聞く」

先生は穏やかな声で言った。

「願いが叶う代わりに、大事な記憶が一つ消える」

「はい」

「あなたたちも、そうなってる?」

「全員、何かが消えています」

 先生は少し黙った。

「怖い?」

「怖いけど、続けることにしました。みんなで話し合って」

 先生は頷いた。責めるでも、止めるでもなかった。

「先生、屋上の伝説の、続きはありますか?」

 先生が少し動いた。

「続き?」

「願いが叶って、思い出が消える。それだけじゃなくて、何か他にも伝わっていることがあれば」

 先生はしばらく窓の外を見た。それから言った。

「一つだけ、聞いたことがある」

「何ですか」

「最後のライブで歌うと、消えた思い出が一つだけ戻る」

 わたしは息を止めた。

「最後のライブ、というのは」

「アイドル部が終わるとき。部が解散するとき」

先生は穏やかな声で言った。

「最後に全力で歌うと、消えたものが一つだけ戻ってくる。そういう話が、昔からある」

「昔から、って、以前にも同じようなことがあったんですか」

「詳しくは知らない。わたしが聞いたのも、ずっと前に同僚から聞いた話だから」

先生が少し首を傾けた。

「本当かどうかは分からない。でも、あなたたちが本当に流れ星を落とせるなら、あり得ない話でもない」

 わたしは少し考えた。

「でも、最後のライブをしたら、アイドル部は終わるんですよね」

「そういうことになる」

「なんで終わるんですか?」

「さあ」

先生は首を振った。

「伝説にそこまでの説明はない。ただ、最後のライブをすると、それが終わりになる。昔から、そう伝わってるらしい」

 沈黙が来た。

 わたしは手を膝の上に置いて、少し考えた。

 最後のライブで歌えば、消えた思い出が一つだけ戻る。でも、アイドル部は終わる。

 それは、どちらを選ぶかという話だ。

 思い出を取り戻すために終わりを選ぶか、終わりを先延ばしにして続けるか。

「先生は、どう思いますか?」

「わたしの意見は関係ない。あなたたちが決めることよ」

「でも、聞かせてほしいです」

 先生は少し間を置いてから言った。

「終わるものは、いつか終わる。終わり方を自分たちで決められるなら、それは悪いことじゃないと思う」


 その夜、わたしは一人で考えた。

 先生から聞いた話を、どう四人に伝えるか。

 最後のライブをすれば思い出が戻る。でも部は終わる。

 全員に関わることだから、一人で決められることじゃない。でも、伝え方を間違えると、みんなが傷つくかもしれない。

 でも、隠すのは違う。あのとき約束した。消えていく記憶に気づいたとき、一人で抱えないで。これも、一人で抱えてはいけないことだった。


翌日の練習後、わたしは四人を引き止めた。

「みんなに話がある」

 四人がわたしを見た。

「昨日、岸本先生から聞いた」

 静かな屋上で、わたしは話した。

 最後のライブで歌うと、消えた思い出が一つだけ戻ること。

 でも、そのライブをしたら、アイドル部は終わること。

 話し終えてもしばらく、誰も何も言わなかった。

 夕日が低くなっていた。風が吹いて、ましろちゃんの前髪が揺れた。

 最初に口を開いたのは、凛ちゃんだった。

「思い出、戻るんだ」

「一つだけ、戻るかもしれない。確かじゃないけど」

「でも可能性はある」

「ある」

 凛ちゃんは少し空を見上げた。

「ひかりは、どう思う?」

 いきなりそう聞かれて、わたしは少しだけ言葉に詰まった。

「寂しい、とは思う」

「終わるのが?」

「うん。それに、どの思い出が戻るかも分からないし」

 言いながら、自分の声が少し硬いことに気づいた。

 凛ちゃんはわたしを見たまま、言った。

「あたしは、まだ終わりたくない」

その言葉のあと、誰もすぐには何も言えなかった。怒っているわけじゃない。責められたわけでもない。それなのに空気だけが少し痛かった。ましろちゃんが小さく息を呑む音がして、玲奈さんは視線を落としたまま指先を握っていた。

凛ちゃんは、わたしたちを順番に見た。

「思い出が大事なのは分かるよ。でも、今ここにあるものまで終わらせるって、そんなに簡単に決めていいの?」

 透子が、少し遅れて口を開いた。

「……簡単じゃないから、決められないんだよ」

 誰も遮らなかった。凛ちゃんはそのまま続けた。

「友達の記憶が消えてるのは本当だし、怖いのも本当。でも、正直に言うと、消えてしまったものより、今ここにあるものの方が、あたしには大事に感じる」

「今ここにあるもの?」

「ほしあま部。みんなと練習して、文化祭でライブして、星が落ちるのを一緒に見て。そういうの全部」

 凛ちゃんは腕を組んだまま言った。

「やっとここまで来たのに、ここで終わりって言われても、あたしはまだ無理」

 その言い方は明るかった。

でも、明るく言わないと揺れそうなのを隠しているみたいでもあった。

 玲奈さんが囁くような声で言った。

「わたくしは、少し違います」

 みんなが玲奈さんを見る。

「続けたい気持ちはあります。でも、それと同じくらい、これ以上失うのは怖いです」

 風が吹いた。玲奈さんは視線を落としたまま続けた。

「母との思い出が、どこまで抜けているのか、正直もう自分でも分かりません。写真を見て、あとから“ここにいたはず”と辿っている記憶もあります」

 凛ちゃんが少しだけ黙った。

「玲奈さん……」

「音楽は続けたいです。でも、そのために何かを削っていく形になるのなら、わたくしは一度立ち止まって考えたい」

 穏やかな声だった。でも、その言葉は、凛ちゃんの「まだ終わりたくない」と正面からぶつかる重さを持っていた。

 ましろちゃんが胸の前で手を握った。

「ましろは……最後のライブ、やりたいです」

 わたしはましろちゃんを見た。

「昔の夢が思い出せないの、ずっと気になってるから。戻るかもしれないなら、やってみたいです」

「今すぐ?」

凛ちゃんが聞いた。

「今すぐじゃなくても……でも、うやむやにはしたくないです」

 ましろちゃんは少し震える声で続けた。

「怖いまま続けるのも、何も決めないまま終わるのも、どっちも嫌です。ちゃんと最後を決めて、そのために歌いたいです」

 わたしは透子を見た。透子はずっと黙っていた。フェンスの向こうの空を見ていた。

「透子は?」

 透子はすぐには答えなかった。しばらくしてから、ゆっくりと言った。

「妹との約束の記憶が戻るなら、それは戻したい」

「うん」

「でも」

 透子は言葉を切った。風が吹いて、黒い髪が少し揺れた。

「終わるために歌うのは、まだ嫌」

 誰も口を挟まなかった。透子はそこで、初めてわたしを見た。

「最後のライブをしたら終わるんでしょ」

「……うん」

「じゃあ、それまではまだ歌える」

 大きな声じゃなかった。

「わたし、まだ歌いたい」

 大きな声じゃなかった。

でも、その場の空気をいちばん強く動かしたのは、その短い一言だった。

「思い出は戻したい。けど、今ここで終わるのは嫌だ。でも、このまま続けたら、また何か消えるかもしれない」

 気づいたら、わたしはそう言っていた。

 四人が一斉にこっちを見た。自分でも少し驚いた。

 凛ちゃんでも玲奈さんでもなく、わたしが先にそれを口にしたことに。

「ひかり」 

 透子がわたしを見た。

「それ、ひかりが言うんだ」

 責める声じゃなかった。でも、少しだけ距離のある言い方だった。

「止めたいわけじゃない」

「でも、止まりたいんでしょ」

「そうじゃなくて」

 うまく言葉にならなかった。

 わたしは何を守りたいんだろう。透子の歌なのか。みんなの記憶なのか。

 それとも、失いたくないこの時間そのものなのか。

「わたしは、みんなにこれ以上何か失ってほしくない」

 やっとそれだけを言った。

 透子は少し黙った。

「……ひかりは、歌いたくなくなったの?」

 その一言が、思ったより深く刺さった。

「違う」

「じゃあ、どうしたいの」

「それは……」

 言えなかった。続けたい、とも、ここで終わりたい、とも。

 凛ちゃんが、珍しくすぐには口を挟まなかった。

 玲奈さんも、ましろちゃんも黙っていた。

 屋上に風の音だけが残った。


 やがて玲奈さんが、穏やかに言った。

「今日は、結論を出さなくてもいいのではないでしょうか」

 その声で、ようやくみんなが少しだけ息をついた。

「無理に今決めると、たぶん誰かが置いていかれます」

「……そうだね」

 わたしは小さく答えた。

 凛ちゃんが腕をほどいた。

「じゃあ今日は保留。続けるか、最後のライブを目指すか、次までにちゃんと考えてくる」

「うん」

「ましろも、考えます」

「わたくしも」

「……わたしも」

 透子は最後にそう言って、でもわたしの方は見なかった。

 そのまま誰からともなく片づけを始めた。

 今日は歌わなかった。

 歌えば少しは戻るものがある気がしたのに、誰も「歌おう」とは言わなかった。

 夕焼けの屋上は、前より少しだけ広くて、少しだけ遠かった。


            ☆


 次の放課後、わたしたちはいつも通り屋上に集まった。

 集まった、というだけで、前みたいに自然に輪になれたわけじゃなかった。

 誰も遅刻はしなかったし、誰も欠けなかった。挨拶もした。玲奈さんは譜面を出して、凛ちゃんはスピーカーを置いて、ましろちゃんはペットボトルの入った袋をそっと隅に置いた。透子はフェンスの前に立って、風の向きを見ていた。

 それなのに、何かが少しずれていた。

「じゃあ、この曲からやろうか」

 わたしが言うと、みんな頷いた。

 玲奈さんが音源を流した。前奏が始まる。何度も繰り返してきた曲だった。体が覚えているはずだった。

 でも、最初の一歩が少し遅れた。

凛ちゃんが半拍だけ先に出て、わたしが合わせる。ましろちゃんがそれを追いかける。透子の声は正確だったのに、正確すぎて、前みたいに自然に寄りかかれない気がした。

 サビまで歌って、止まった。

「……もう一回」

 玲奈さんは責める声ではなかった。でも、その穏やかさがかえってつらかった。

「ごめん、ちょっと早かった」

 凛ちゃんが言った。

「ううん、わたしも遅れた」

「ましろも、少しずれました」

 透子は何も言わなかった。フェンスの向こうを見たまま、短く息を吐いた。

 もう一度やった。今度は最初より揃った。けれど、前みたいに歌っているうちにひとつになっていく感じがなかった。声は合っているのに、その奥で少しずつ別のことを考えているのが分かるみたいだった。

 サビの終わりで、空に光が走った。

 一本。少し遅れて、もう一本。

「……見えた」

 ましろちゃんが小さく言った。

 でも誰も、前みたいに声を上げなかった。

 凛ちゃんだけが、無理に明るくするみたいに言った。

「今日は少なめだね」

 わたしは空を見上げたまま、「そうだね」と答えた。

 本当は、本数のことじゃなかった。たとえ五本落ちても、六本落ちても、今日は前みたいに喜べなかったと思う。

 練習を切り上げたあとも、誰からともなくすぐに帰る雰囲気にはならなかった。

 でも、残って話したい空気でもなかった。

 ましろちゃんが先に「お先に失礼します」と言い、玲奈さんが「では、また明日」と続いた。凛ちゃんは最後まで少し粘るみたいにその場にいたけれど、「また明日ね」と言って階段の方へ向かった。

 残ったのは、わたしと透子だった。

 前なら、こういう時間は嫌いじゃなかった。

 少し風が強くて、空がきれいで、透子が隣にいるだけで、ちゃんと放課後になっていた。でも今日は、何を言えばいいのか分からなかった。

 透子はフェンスの前に立ったまま、夕方の空を見ていた。

 追いかけて隣に立てばいいのに、それが前より少し遠かった。

「透子」

 呼ぶと、透子は振り向かなかった。

「……なに」

「さっき、ごめん」

 何に対しての「ごめん」なのか、自分でもはっきりしなかった。昨日のことか、今日のことか、それとももっと前から少しずつずれていたもの全部か。

 透子は少し黙ってから言った。

「ひかりが謝ると、余計に分からなくなる」

 やわらかい声だった。でも、そのやわらかさが、前より少しだけ遠かった。

 そのあと透子は、わたしを見ないまま続けた。

「今日は、もう少し歌ってから帰る」

「……そっか」

「先に帰っていいよ」

 前なら「一緒にいる」と言えたはずなのに、その日は言えなかった。

「じゃあ……お先に」

 透子は答えなかった。

 ただ、風の中で立ったまま、少しだけ顔を上げた。

 階段を下りる前に、一度だけ振り返った。

 屋上の真ん中に、透子がひとりで立っていた。

 最初に見た日の後ろ姿と、少しだけ重なった。

 歌うことが、あの子をひとりに戻してしまうのなら。

 でも、歌うことを奪うのも、違う気がした。

 答えはまだ出なかった。


 次の放課後も、わたしたちはいつも通り屋上に集まった。

 いつも通りのはずなのに、空気だけが少し違っていた。誰も明るく振る舞おうとはしなかったし、かといって重たい話を避けることもできなかった。歌えば星が落ちる。歌い続ければ、失くしたものが戻るかもしれない。けれどその先に、終わりが待っているかもしれない。

 それを知ってしまった以上、前みたいに何も考えずに歌うことは、もうできなかった。

「……最後のライブのこと、今日もう一回ちゃんと話したい」

 わたしがそう言うと、みんながゆっくりと頷いた。

 最初に口を開いたのは凛ちゃんだった。

「わたし、やっぱりまだ終わりたくない。記憶のことが大事じゃないわけじゃないよ。でも、今ここにあるものまで急いで終わらせたくない」

 言葉はまっすぐだった。

 玲奈さんも、小さく息をついて続けた。

「わたくしも、考えは大きくは変わっていません。これ以上失うのは、やはり怖いです」

「ましろも……最後のライブはやりたいです。でも、昨日より少しだけ、急がなくていいのかもって思いました。ちゃんと納得して迎えたいです」

 三人の言葉が出そろって、最後に視線が透子へ向いた。

 透子はしばらく黙ったまま、フェンスの向こうの空を見ていた。

 わたしは待った。急かしたくなかった。

「妹との約束の記憶、戻したい気持ちは変わらない」

 透子が、ゆっくりと口を開いた。

「でも」

 少しだけ間を置いて、続ける。

「終わらせるための歌には、したくない」

 その一言が、胸に落ちた。

 やりたい。けれど、終わりのためだけにはしたくない。

 たぶんそれが、透子のいちばん正直な気持ちだった。

「……じゃあ、今すぐじゃなくていいんじゃないかな」

 わたしはみんなの顔を見ながら言った。

「最後のライブをやるって決めるのは、そのままでいい。でも、それを“今すぐ終わるための話”にしないで、もう少し先に置くの」

凛ちゃんがわたしを見る。

「先って?」

「三学期の終わり。春」

 言ってみると、その響きは思ったよりしっくりきた。

 冬の終わり。今のままじゃないけれど、全部が終わり切る前の季節。

「春の屋上で最後に歌うの、いいかも」

 凛ちゃんがぽつりと言った。

「最後って言い方はまだちょっとやだけど……でも、今決めるよりはずっといい。そこまでなら、ちゃんと続けられる気がする」

「わたくしは、その方がいいと思います」

 玲奈さんも頷いた。

「急いで決めるより、納得して迎えられる形の方が」

「ましろも、それがいいです」

 ましろちゃんが続ける。

「怖いまま決めるんじゃなくて、ちゃんと歌って、ちゃんと最後にしたいです」

最後に、透子が小さく言った。

「……春がいい」

 その声はとても穏やかだったけれど、今まででいちばん、前を向いているように聞こえた。

 わたしは四人の顔を見回した。

 まだ不安は消えていない。怖さだって残っている。

 でも、それでもみんなの気持ちは、少しずつ同じ方を向き始めていた。

「じゃあ、春にやろう。それまでにもう一曲、作れる?」

「作る」

 玲奈さんが言って、

「振り付けも考える」

 凛ちゃんが続いて、

「歌う」

 透子が短く言い、

「ましろも、全力でやりますっ!」

 ましろちゃんが少しだけ明るい声を出した。

 風が吹いた。冬の夕空に、一本の流れ星が落ちた。

 今日は一本だけだった。でもその一本が、今日見た中で一番大きかった。

 長い尾を引いて、橙の空をゆっくりと落ちていった。

 凛ちゃんが「あれ、なんか違う気がする」と言った。

「何が?」

「なんか、返事みたいだった。星から」

 誰も笑わなかった。おかしくなかった。むしろ、そうかもしれないとわたしも思った。

 決めたことを、星が聞いていた。最後のライブをやると決めた夜、星が一本落ちた。

 それだけのことだった。


 帰り道、透子がわたしの隣を歩いた。

「ひかり」

「うん」

「最後のライブが終わったら」

透子が少し間を置いた。

「幼なじみの記憶、戻ると思う?」

 わたしは少し考えた。

「分からない。でも戻ってほしいとは思ってる」

「なんで」

「その子のことを、ちゃんと覚えていたいから。大事だった記憶なら、なおさら」

 透子は少し黙った。

「……わたしも」

「何が?」

「ちゃんと覚えていたい。大事だったものを」

 透子の声は穏やかだった。でもわたしにはその言葉が、幼なじみの話だけじゃない気がした。

 確かめなかった。街灯の下を、二人で歩いた。

 冬の空気は冷たくて、息が少し白くなった。


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