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異世界では「マーケティング」スキルが最強でした~追放された元45歳コンサルのビジネス知識、異世界だとチート級⁉︎寂れた食堂から国家の危機まで救ったら王家にも頼られまくってます(最愛の恋人もできました)  作者: 鈴城幻司
番外編:絶対味覚の休日 ~フィン・ラウルと市場の囁き~

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第五章:隠れ家と、温もりの味

食事は苦痛ではなく、楽しむものです。


陽が傾き始め、街が夕暮れの色に染まる頃。フィンは、夕食をとるために、馴染みの場所へと足を向けた。それは、大通りから少し入った、目立たない路地にある、カウンターだけの小さな店だった。店の名前は「ひと息の灯 (ともしび)」。


この店を営むのは、マーサという名の穏やかで働き者のおばあさんだ。彼女は、「完璧な湯沸かし」という、一見地味なスキルを持っている。しかし、そのスキルは、どんな時でも、どんな用途にも、寸分の狂いなく最適な温度のお湯を沸かすことができるという、実は非常に高度なものだった。


マーサさんは、かつてはそのスキルの使い道が分からず、長年苦労してきたが、GPDPの相談窓口を訪れたことをきっかけに、ケインのアドバイスを受け、この「お茶と煮込み料理の店」を開いたのだ。彼女が最適な温度で淹れるハーブティーやコーヒー、そして、その完璧なお湯でじっくりと煮込まれた野菜や肉のスープは、派手さはないが、素材の旨味が最大限に引き出された、深くて優しい味わいで、フィンはすっかりその虜になっていた。


「あら、フィンさん。いらっしゃい」


店の扉を開けると、カウンターの中で仕込みをしていたマーサさんが、柔らかな笑顔で迎えてくれた。店内には、すでに数人の常連客が、静かに食事を楽しんでいる。


「こんばんは、マーサさん。いつもの、お願いします」


「はいよ。今日はね、市場でいいカブが手に入ったから、それも入れて煮込んでみたんだよ」


フィンはカウンターの端の席に座り、まず出された温かいハーブティーを一口飲んだ。


(……完璧だ。温度、抽出時間、ハーブの量……全てが寸分の狂いもない。だからこそ、この『月見草』の持つ、繊細で複雑な香りと、ほのかな甘みが、これほどまでに引き立つんだ)


彼は、目を閉じ、その優しい温もりが体に染み渡るのを感じた。ここは、彼にとって灯火亭とはまた違う意味で、心から安らげる場所となっていた。


やがて運ばれてきた、湯気の立つ煮込み料理の定食。大きなカブ、人参、じゃがいも、そして柔らかく煮込まれた鶏肉が、琥珀色の澄んだスープの中に浮かんでいる。付け合わせは、素朴な黒パンと、自家製のピクルス。フィンは、まずスープを一口啜った。


(……ああ、滋味深い……。野菜の甘みと、鶏肉の旨味が、完璧にスープに溶け出している。塩加減も、素材の味を邪魔しない、ぎりぎりの線。そして、このカブ……驚くほど柔らかく、それでいて煮崩れていない。これも、マーサさんの『完璧な湯沸かし』スキルがあってこそできる、絶妙な火加減なんだろうな)


フィンは、ゆっくりと一口一口を噛みしめるように食事を進めた。カウンター越しに、マーサさんと他愛ない言葉を交わしながら。店の最近の様子、新しく入った茶葉の話、街の噂……。フィンは、以前は苦手だった人との会話も、ここでは自然に楽しむことができた。自分の「絶対味覚」が、マーサさんの料理の素晴らしさを誰よりも深く理解し、それを伝えることで、彼女を喜ばせることができる。その事実が、フィンにささやかな自信と喜びを与えてくれていた。


「フィンさんの舌は、本当に確かだねぇ。あんたが美味しいって言ってくれると、おばあちゃん、すごく励みになるんだよ」


マーサさんは、皺くちゃの顔で、嬉しそうに笑った。


マーサさんのお店があったら

絶対、常連になる自信がある!


次回、フィン編のラストです。

一時間後によろしくお願いします。

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