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異世界では「マーケティング」スキルが最強でした~追放された元45歳コンサルのビジネス知識、異世界だとチート級⁉︎寂れた食堂から国家の危機まで救ったら王家にも頼られまくってます(最愛の恋人もできました)  作者: 鈴城幻司
番外編:絶対味覚の休日 ~フィン・ラウルと市場の囁き~

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第四章:路地裏のパンと、心の滋味

スパイスの次は・・・


刺激的なスパイスの余韻を舌に残しながら、フィンは市場の喧騒を離れ、目的もなく王都の裏通りを散策していた。新しい発見は、時として予期せぬ場所にあるものだ。


ふと、彼の鼻が懐かしいような、素朴で温かい香りを捉えた。それは、パンが焼ける香りだった。香りの元をたどると、そこには、古びているが清潔に保たれた小さなパン屋があった。看板には「森のパン屋」とだけ、掠れた文字で書かれている。店構えは地味で、客の姿は見当たらない。しかし、店の中から漂ってくる香りは、間違いなく「本物」のそれだった。


(この香り……質の高い石臼挽きの小麦粉。そして、おそらく自家製の天然酵母。……間違いない、ここは昔ながらの製法を守っている店だ)


フィンは、吸い寄せられるように、その店の扉を開けた。カラン、と小さなベルが鳴る。店内は狭く、年季の入った木の棚に、飾り気のない、しかし見るからに美味しそうなパンが数種類、丁寧に並べられている。店の奥のカウンターには、優しい笑顔の老夫婦が立っていた。


「いらっしゃい」


おじいさんが、穏やかな声で迎えてくれた。


フィンは、棚に並んだパンをじっくりと眺めた。派手な総菜パンや甘い菓子パンはない。あるのは、どっしりとしたライ麦パン、丸い形のシンプルな白パン、香ばしく焼き上げられた硬焼きパン、そして、上にたっぷりとチーズが乗せられたパン。


(この硬焼きパン……表面の焼き色、気泡の入り方……完璧だ。そして、このチーズパン……使われているチーズは、おそらく地元の農家から直接仕入れているものだろう。濃厚で良い香りがする)


フィンは、迷わず硬焼きパンとチーズパンを一つずつ買った。おばあさんが、温かい手でパンを紙袋に入れてくれる。その手の温もりに、フィンはなぜか、少しだけ胸が熱くなるのを感じた。


店を出て、近くの小さな公園のベンチに腰掛け、早速買ってきたパンを味わうことにした。まずは、硬焼きパンから。手で割ると、ミシリ、と心地よい音がする。外側はパリッと硬いが、中はしっとりとして、密度が高い。一口噛みしめる。


(……うまい……)


言葉にならない、滋味深い味わいが口の中に広がった。小麦そのものの、素朴で力強い香り。噛めば噛むほどに、じんわりと滲み出てくる自然な甘み。塩加減も絶妙だ。これほどまでに、素材の味をストレートに感じられるパンは久しぶりだった。


次に、チーズパンを口にする。


(これも……素晴らしいな。パン生地の旨味と濃厚でコクのあるチーズの塩味、そしてオーブンで焼かれたことによる香ばしさ。全てが完璧なバランスで調和している。チーズの質も、やはり最高だ)


フィンは、夢中でパンを頬張った。それは、先ほどの陽炎の実の串焼きのような、刺激的で斬新な美味しさとは違う。毎日食べても飽きることのない、心と体に優しく染み渡るような、温かくて誠実な味だった。


(こういう味が、全ての基本なんだよな……流行りの味も大切だけど、こういう変わらない本物の味を守り続けている人がいる。それは、本当に尊いことだ)


そして、フィンはふと気づいた。かつて、自分の「絶対味覚」は、食事を苦痛なものに変えていた。普通の人が美味しいと感じるものでも、素材の僅かな欠点や、調理の些細なミスを敏感に感じ取ってしまい、心から楽しむことができなかった。しかし、今はどうだ? 陽炎の実の刺激的な味も、この素朴なパンの滋味深い味も、どちらも「美味しい」と感じ、その違いを分析し、理解し、そして純粋に楽しんでいる自分がいる。


(変わったんだな、俺も……)


この変化をもたらしてくれたのは、間違いなくケインさんとリサさんだ。彼らが、俺のスキルの価値を認め、それを活かす場所を与えてくれた。そして、何よりも、俺という人間を、ありのまま受け入れてくれたからだ。フィンは、胸の奥から込み上げてくる温かい感謝の気持ちと共に、パンの最後の一口を、ゆっくりと味わった。


人は変われる。


続きは、一時間後です。

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