90.タリクとカタリナ
ラフニール王国の公爵令嬢であり第五騎士団副団長でもあるカタリナ・ハービッツが、海の向こうのオルディスに嫁ぐことは未来視で確定していても、実際は一悶着も二悶着もあるに違いないと考えていたシャルロッテだったが、カタリナが黒竜のパートナーに選ばれてしまったのではもう誰も引き留めようがないのだと納得した。
「なるほどね」
シャルロッテがつぶやきながら見ている視線の先には、無言で足早にカタリナの元へ向かうタリクがいる。
カタリナにドラゴンのパートナー選びのことを説明してくれるんだろうと思っていたら、タリクはさらに飛躍した行動に出た。
いきなりカタリナをぎゅうぎゅう抱きしめると
「私と結婚してください」
とプロポーズしたのだ。
オルディスには、ドラゴンのリーダーの乗り手が竜騎士団長に就任するという決まりがある。
タリクによれば、例えそれが外国人であっても女性であっても絶対らしい。
黒竜がこのまま大きくなれば群れのリーダーになるのは間違いなく、ということは、カタリナは近い将来オルディスの竜騎士団長になるということだ。
きっとさぞや麗しい竜騎士団長になることだろう。
しかも、お飾りではなく、本物の団長に。
おめでとう、タリク。
いつかカタリナに拳で顔面を殴られる日が来るけど、どうかちゃんと幸せにしてあげてちょうだいね。
シャルロッテは苦笑しながら、情熱的なタリクと戸惑うカタリナに拍手を送ったのだった。
「どうしよう、突然求婚されても困る」
山小屋で夕飯を食べながら対峙しているカタリナが、ただの「女子」になっている。
その様子が何とも微笑ましくて、思わずにんまりしてしまうシャルロッテだった。
生まれたドラゴンの子供はオルディスに渡すことが決定しているから、黒竜のパートナーに選ばれたカタリナも当然一緒に行くことになる。
黒竜の炎を真正面から受けて、毛先が少し焦げただけで済んだカタリナが黒竜のパートナーであることは明白な事実だ。
こちらに残るのなら、黒竜も残ると言ってきかないだろう。
白竜のように操りでもしなければ。
「彼は、黒竜のことがなくてもカタリナのことを連れて帰りたいと思っていそうな雰囲気だったわよ?」
「ええっ!それはどういう意味で…」
それをわたしが言うのは野暮でしょう!と思いながらも、カタリナにしっかり自覚を持ってもらうためにシャルロッテは笑顔で告げた。
「だって、とっくに相思相愛だったじゃない。カタリナはタリクのことが好きなんでしょう?向こうだって同じ気持ちなのは誰が見ても明らかだったし」
カタリナの顔が、「ボン!」という音が聞こえそうな勢いで真っ赤になった。
カタリナの立場を考えると、ただ好意を持っているというだけで自分の国へ連れて帰るわけにはいかないという葛藤がタリクにもあったはずだ。
しかしカタリナが黒竜のパートナーに選ばれたことで、堂々と彼女を連れて帰国できる大義名分ができたのだ。
感極まって抱きしめながらプロポーズするのも納得だ。
「なあ、シャルロッテ。もしかして、こういう未来が見えていたのか?」
翌朝、諸々の報告をするために一旦王城へ戻ることになったカタリナが、ふと思いついたように聞いてきた。
「ふふっ、実はその通りよ。カタリナは赤ちゃんを抱っこしていたわ。幸せになってね」
拳で夫を殴る件はひとまず内緒だ。
一晩考えて吹っ切れた様子のカタリナが、大輪のバラが開くような最上級の笑顔を見せる。
「ありがとう、もちろんだ」
青竜のアーロンの背にタリクと共に乗り、王城に向かって飛び立つカタリナを笑顔で見送るシャルロッテだった。




