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85.タージンの手記(4)

 ゆっくり時間をかけてタージンの手記を読み終えたタリクは深いため息をついた。


「ありがとうございました。ドラゴンを崇めながらも戦場に駆り出す葛藤に関しては個人的には共感しますが、やはり私には反論したい気持ちの方が大きいですね。逃げた言い訳をしているだけじゃないかと思ってしまいます。本当は殴ってやりたいところですが、本人はすでに他界していて全て過ぎたことです。真実がわかっただけでも大きな収穫です」


 公用語がわからないということになっているシャルロッテは、公用語でそう語るタリクの言葉に反応していいものか、横に座るサイラスを見た。


「タリクさんがね、『ありがとう、わかりました』だってさ」


 サイラス先生…通訳が雑すぎます。


 心の中でため息をつきながらシャルロッテは手記と一緒に持って来た勲章をタリクに差し出した。


 それを手に取ったタリクは、それがオルディスの竜騎士団長が身に着ける勲章だと説明し、返してもらってもいいかとサイラスに聞いている。


「返しちゃってもいいよね?」

 サイラスの問いにシャルロッテは頷いた。


 黒竜が生まれたら、次の竜騎士団長は正式にタリクが就任するのだろうか。


 ふと好奇心がわき、シャルロッテはローズヒップティーの湯気でくもってしまったメガネのレンズを拭くフリをしながら、わざとらしくならないように未来視の左目を開放した。


「……―――っ!!」


 シャルロッテの左目は、見たいものを見せてくれるわけではない。


 いま見えたタリクの未来は、高官たちの前で何かを話そうとしたタリクの体が突然震え始め、ほうほうのていでその場から離れると、誰もいない場所で身をよじって苦し気に笑い始めるというものだった。


 なるほど「おしおき」が発動している場面だったかと気の毒に思いながらメガネをかけ直したシャルロッテは、サイラスに、おしおきについてしっかりとタリクに説明するようにと耳打ちしたのだった。


 見てしまったからには、いくら釘を刺したところでこれは将来必ずタリクの身に起こる出来事だ。

 タリクが祖父である元竜騎士団長のその後のことをオルディスの高官たちにどう伝えるつもりなのかはわからないが、残念ながらこのサイラス・ドリュクの研修室で読んだ手記の内容を、ここ以外の場所で語ることはできない。


 そしてきっといつか、タリクから「こんなことがあった」と聞かされたカタリナは大笑いするだろう。 

 だとしたら、そんなに悪いことではないかもしれない。


 思わず口元を綻ばせるシャルロッテを、タリクが不思議そうな顔で見ていた。



 カシム村の山の雪が完全になくなり、白竜が番と共に巣作りを始めたのはこの二週間後のことだった。


「アーロンによれば、夫婦交互に抱卵するようです。産卵数や抱卵期間がどれぐらいになるかは未知数ですが、青竜と同じであれば卵は2、3個、孵化までは30日から40日ですが、山頂の気温を考えるともう少しかかるかもしれません」


 カシム村へ向かう馬車の中で、タリクとカタリナが並んで座り、シャルロッテはその正面に座っている。


 ドラゴンでひとっ飛びといかなかったのは、長期滞在になるかもしれないため荷物がそれなりにあったことと、シロちゃんに負担をかけさせないためだ。


 シャルロッテはこの馬車の中で、顔には出さないものの内心非常に動揺していた。

 タリクとカタリナが楽しそうに語り合っている様子にあてられているわけではない。

 言葉がわからないフリを続けていることでもない。


 シロちゃんが気安く「ロンちゃん」なんて呼んでいるから、わたしまでそう呼んでいたけど、ロンちゃんて…ロンちゃんって、アーロンっていう名前だったの!?


 白竜の番の名前を初めて知ったことだった。




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