73.一目惚れ
シャルロッテは王城の2階の窓から、仲睦まじく顔を寄せ合う白竜と青竜の様子を見下ろしていた。
「あの子たち、恋人同士なのかしら」
「ドランゴンって、恋愛したり結婚したりするの?」
ハルもシャルロッテの横に並ぶようにして中庭の様子を眺めている。
よくわからないけど…と前置きして説明した。
黒竜が生まれ変わって代替わりしているのに対し、白竜は産卵するらしいということ。
産卵には番が必要で、それはつまり人間でいうところの恋愛や結婚に相当するのだと思うということ。
この情報は、魔導研究所の書庫に所蔵されているドラゴンの研究書に書かれていたということ。
ハルは黙って頷きながらシャルロッテの説明を聞いた後、俺もその本を読んでみたいなとつぶやいた。
最上階の天文台が見事に破壊された石造りの魔導研究所内にある書庫や蔵書がいまどうなっているのかは不明だ。
でも、あの人間離れした金色の司書が、今日も普通にカウンターに座っていそうな気がしてならない。
「後で行ってみましょうか」
「そうしよう」
顔を見合わせて頷き合った。
それはいいとして…。
問題はカタリナの件だ。
見たからには必ず実現する。
だから、カタリナがタリクと結婚して子を設けるのは必至なのだ。
「タリク・アシュレイ様は、年齢はおいくつなのかしら。ほかに奥様がいたりしないわよね?」
「たしか、俺やカタリナと同じ24歳じゃなかったっけな」
ハルは顎に手を当てて考えるような仕草をしながら言った。
ええぇぇぇっ!
あの貫禄で24歳!?
それが本当なのだとしたら、あなた人生何度目ですかと聞いてみたい。
口には出さなかったものの、シャルロッテの考えていることはしっかり顔に出ていたらしい。
ハルがプッと笑う。
「俺と一緒で、プライベートでは意外と年相応なのかもしれないけどな」
いや、年相応に冗談を言ったり笑ったりしている彼も姿も全く想像できない…。
そして、カタリナとの結婚の経緯が全くわからない。
まさか和平のための政略結婚…?
そんなことを考えていたら、中庭にタリクが現れた。
自分の竜の様子を見に来たらしい。
青竜に何か話しかけている表情はとてもやさしげだった。
―――っ!
シャルロッテは思わず、ハルの袖を掴んだ。
なんと、カタリナまで中庭に現れたのだ。
見張りの騎士たちと会話を交わし、タリクのほうに視線を移すカタリナと、その気配を感じてゆっくりと振り返るタリク。
シャルロッテとハルは、「男女が突然恋に落ちる瞬間を見た」――と、この時の出来事を後々思い出してそう語ることになる。
そう、つまりそれは、俗にいう「一目惚れ」というやつだ。
しかも両者ともにそうだったのだ。
シャルロッテは駆け出していた。
ハルもそれを追って一歩踏み出したところで思いとどまった。
王太子が行くと、畏まった雰囲気になって邪魔をしてしまうかもしれない。
カタリナがまさか恋をする日が来るとはな。
嬉しさとおかしさと、そしてほんの少しの寂しさと、複雑な気持ちのまま心の中で呟いたハルバートだった。
「カタリナ!」
およそ巫女とも王太子の婚約者とも思えないような俊足で王城の廊下を走り、階段を駆け下りて中庭へ向かったシャルロッテは、まだカタリナとタリクのふたりがそこにいることを確認してホッとしつつ、声を掛けた。
「シャルロッテ様、そんなに急いでどうされました?」
王太子との婚約が発表されてから、カタリナはシャルロッテに敬意を払う言葉遣いをするようになった。
それが不満なシャルロッテは、わずかに頬を膨らませつつも、オルディスの要人がいる前では致し方ないと内心ため息をつく。
「カタリナはここで何をしていたの?」
「見張りの騎士に伝言を伝えに来たら、オルディスの騎士団長代理殿がいらしたので、ご挨拶と少々世間話を」
タリクをちらりと見たカタリナは、頬をわずかに染めてはにかむように笑い、それを見たタリクも、先ほどの交渉の席でのムズカシイ顔は何だったんですか!と叫びたくなるほどの甘い微笑みを見せた。
見てしまったからにはふたりの結婚は不可避だ。
そうであるならば、ふたりの仲を上手く取り持って幸せに満ち満ちた気持ちで結婚に至ってほしいと思って現場に急行したシャルロッテだったが、その必要はなかったかもしれない。
見ているこっちが恥ずかしいんですけどっ!!
微笑み合うふたりを交互に見ながら、シャルロッテは心の中で盛大に叫んだのだった。




