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40.マクロード公爵家

 数日後、シャルロッテはマクロード公爵家の夕食の席に招待された。

 この日のために、カタリナとふたりでロゼッタではなく王都の高級店で上質な素材のワンピースを買った。

 桁違いのお値段に驚いて怖気づくシャルロッテに、ブッシュモスキート討伐を手助けしてもらった功績に対する謝礼を騎士団から出さないといけないからというカタリナの説得に負けて、支払いを任せることにした。


 選んだ光沢のある濃紺のワンピースは、上半身はシンプルなカットで、後ろからリボンを回してお腹でゆるく結ぶタイプになっている。スカート部分のドレープはたっぷりめ。

 このデザインを選んだのは、食事をたくさんとってもお腹のぽっこりが目立たない!というのが最大の理由だった。


 ワンピースを買った帰りには再び『銀のナイフ』に行き、今度はコンソメ仕立てのロールキャベツとロゼワインを堪能したふたりだった。


 ワンピースの代金は、騎士団の予算ではなく、カタリナとロックウェル団長のポケットマネーから出すことになっているのは、シャルロッテにはもちろん内緒だった。

 シャルロッテとサイラスがいなければ、あの場面で怪我人がたくさん出ていたはずだ。下手すると怪我だけでは済まなかったかもしれない。そのお礼だと考えると安いぐらいだった。

 当初の予定では第四のサンダース団長も賛同するはずだったが、ぼったくり店で支払いができずに困っていた団員を助けたとかで物入りなため、泣く泣く辞退となったのは余談だ。



 ケヴィンにエスコートされて馬車から降りると、マクロード公爵夫妻が出迎えてくれた。

「公爵様、お初にお目にかかります。シャルロッテ・アシスと申します。本日はお招きに預かり誠に光栄です」

「シャルロッテ、ようやく会えたね。待っていたよ」

 ロマンスグレーがしっくりくる初老のマクロード公爵が、包容力たっぷりの穏やかな笑顔で迎えてくれた。


 次に公爵夫人——お母様のほうを向くと、挨拶をする間もなくいきなり抱き着かれてしまった。

「シャルロッテ、ごめんなさい!お母さんを許してちょうだい。あなたに会って謝りたかった。来てくれて嬉しいわ」

「お母様……」


 玄関先で抱き合っておいおい泣き始めた母娘(おやこ)を、公爵とケヴィンが苦笑しながら屋敷の中へと誘導した。


 夕食の準備が整うまでの間、シャルロッテは母親とふたりっきりで話す機会を与えてもらった。

 母親から聞かされたのは、経歴を追うのが困難なほどに複雑になったところで、中等学院の卒業と同時にマクロード家に養子として迎え入れる準備をしていたことや、シャルロッテが行方知れずになったことを里親のリンド家がしばらく黙っていたせいで捜索が遅れて探し出せなかったということを聞かされた。

「あなたには辛い思いをさせてしまったわね。申し訳なかったわ」


 公爵様と長兄は、シャルロッテの素性も左目のことも知っているという。

 もしもリンド家からここへすんなり来ていたら、どんな5年間を過ごしただろうか。

 カシム村でタージンおじいちゃんや、雑貨屋のエレナに出会っていなかったら…。


「わたしのほうこそ、堪え性がなくて逃げ出してしまってすみませんでした。そんなことをしていなければ、もっとすんなり上手くいっていたはずだったなんて…。でもわたしのこの5年間があったからこそケヴィンを助けられたんだと思っているので、後悔はありません」


 わたしたちは再び抱き合って再会を喜んだ。



 マクロード公爵家の晩餐は、野菜中心の献立でとても美味しかった。

 領地で美味しい野菜がたくさん採れるらしい。

 デザートのスイートポテトも含めて、調理に使われた全ての野菜がマクロート公爵領のものだと聞いて、うらやましくなったシャルロッテだった。


 そして、コーンスープは母親の手作りだと聞かされた。

 コーンのつぶつぶを多めに残したコーンスープ。

 わたしの大好物を覚えていてくれたのね…。

 シャルロッテは嬉しくて、はしたないかしら?と思いつつもコーンスープをおかわりした。


 晩餐には公爵家の長男夫婦とその一人娘も同席していて、「シャルロッテさまは、ケヴィンお兄ちゃまの恋人なの?」とおませなことを聞いてくる子に、「いいえ、恋人じゃなくてお姉ちゃんよ」と答えると、一体どういうことだ?という顔をしていたのが可愛らしかった。



 楽しい晩餐が終わり、シャルロッテは別れ際に「差し出がましいことを申し上げてもよろしいでしょうか」と前置きして許可をもらった上で公爵に言った。

「領地の帳簿を抜き打ちで監査したほうがいいかもしれません」


 公爵様は顔色ひとつ変えずに、穏やかな微笑みのまま頷いた。

「御忠告ありがとう」


 そして次に、今のやりとりをおそらく聞いていたであろう、わずかに目を見開いている長男にも告げた。

「お嬢様のことですが…」

その言葉だけで、公爵とよく似た切れ長の目がひどくうろたえたのがわかった。


 大丈夫ですよ、可愛いお嬢様の死の宣告ではありませんから…と、心の中でクスリと笑いながら告げる。

「『虫歯が痛くなったら、黙っているより早く白状したほうが大好きなキャンディをすぐに食べられるようになる』とわたしが言っていたとお伝えくださいませ」


「ありがとう、必ず伝える。歯磨きもしっかりやらせるよ」

 長男はホッとした様子で笑った。



 その後、シャルロッテの未来視の精度の高さを身をもって実感したマクロード公爵家と、娘であるカタリナからの情報提供により、同じく巫女様の希少価値をいち早く察知して名乗りをあげたハービッツ公爵家との間で、壮絶な『巫女様との養子縁組大作戦』が水面下で展開されたことを、シャルロッテ本人だけはついぞ知ることがなかったという———。

 

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