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39.ほどけていくわだかまり

 異例づくめのブッシュモスキート討伐が終わり、騎士団の団員たちのシャルロッテを見る目が少し変わった。


 あの作戦の発案者であることや、サイラスから親し気に名を呼ばれていたことからして、ハービッツ公爵家のメイドというのは仮の姿で、どうやら魔導研究所所属の秘蔵っ子らしいという噂になっているんだとか。

 団員たちから一目置かれるようになったと同時に、よく話しかけられるようにもなった。

 もちろんそれは、第四と第五騎士団の団員に限ってのことだったのだけれど。


「よお、嬢ちゃん、今度一緒にメシ食いに行こうぜ」

「俺、来年は囮役になれるように、どうやったら効率よく足を臭くできるか考えているところッス」

「また朝練の見学に来てくださいね。高台に癒しのメイドがいないのが寂しくて」

 

 シャルロッテが話しかけられる度に「シッ、シッ!」とまるでハエを追い払うような仕草をして牽制してしているカタリナの姿があった。



「同じサツマイモのメニューでもね、魔導研究所の食堂だとたぶん今日は、サツマイモのレモン煮なの。でも、騎士団の食堂はもっとボリュームがあるずっしりしたサツマイモコロッケなのよね。わたしは、こっちのほうが好き」

 シャルロッテの熱弁を、カタリナは食事をしながらうんうんと笑って聞いている。


 この日のランチは、黒ゴマをたっぷり生地に練り込んだハードな黒ゴマパン、さつまいものコロッケ、オニオングラタンスープだった。

 気温が徐々に下がって来て、こういうスープが美味しい季節になってきた。

 そして、黒ゴマの香ばしさとサツマイモの甘味の相性が絶妙で、思わずうなってしまう。


 シャルロッテの食事が終わるのを待って、カタリナが口を開いた。

「今日からケヴィン・マクロードが復帰したんだ」


 シャルロッテは飛び上がる勢いで喜んだ。

「そう!それはよかった!すっかり元気になったのね?もしかすると、このまま騎士団を辞めてしまうんじゃないかと思っていたら…よかったわ」


 シャルロッテがブッシュモスキート討伐の前にケヴィンに声をかけて冷たくあしらわれてしまったことは、シャルロッテ本人から聞いてカタリナも知っていた。

 それでもシャルロッテは、健気にも討伐に帯同してケヴィンを助けた。


 あの討伐の後、ケヴィンの血まみれの姿だけでなく、キラーマンティスの出現もシャルロッテの未来視だったと知って、その精度の高さに舌を巻いたと同時に、シャルロッテのケヴィン・マクロードに対する愛情の深さも目の当たりにした。


「妬けるなあ、そんなにケヴィン・マクロードのことが好きか?」


 からかうように言うカタリナに、シャルロッテはうふふと笑いながら言った。

「もちろんよ。どんなに嫌われても、わたしはずっと大好きでいるんだから」

 そして飲みかけのミルクティーを一気に飲み干すと、トレーを持って立ち上がる。

食堂(ここ)にケヴィンが来る前に、わたし行くね。きっとわたしの顔も見たくないだろうから」

 

 もう騎士団の食堂で昼食をとらないほうがいいのだろうか…。

 シャルロッテに続いてカタリナも立ち上がった。

 食器を下げて、さあ出ようとしたところで、入り口から同僚と共に入ってくるケヴィンの姿が見えた。


 どうしよう!?とオタオタするシャルロッテに「目立たないようにバラバラに出よう」とささやいて、カタリナが離れていく。


 騎士団の制服を着てただ立っているだけで目立つ存在であるカタリナが、わざと大きな声で誰かに話しかけて目を引いてくれている隙に大柄の団員たちの影に隠れて死角に回り込みつつ、あと数歩で食堂から脱出できる位置まで来たところでシャルロッテは走りだそうとした。

 

「待って!」

 突然手首をつかまれたシャルロッテが驚いて振り返ると、すぐ近くに栗毛を揺らすケヴィンの顔があった。


 どうしよう、怒られちゃう?まさか、こんな大勢の前でまた「痴女」とか言われちゃう!?

 焦った表情のカタリナがこっちに駆け寄ってくるのが見えたとき、急に視界がふさがれた。


 ケヴィンに抱きしめられていると気づいたのは5秒ほど後のことだった。

「びっくりさせてごめん。そんな顔しないで。謝りたかったのと、お礼が言いたかっただけだから…シャルロッテお姉さま…」

 ケヴィンはわたしの髪に顔をうずめて、私にだけ聞こえるようにささやいた。


「あの子守唄で分かったんだ。お姉さまはもしかすると本当に生きているんじゃないかって。母上に全部聞いた。助けてくれてありがとう。それと、ひどいこと言ってごめんなさい」


 驚きと嬉しさで力が抜けて、足がフワフワしてしまったシャルロッテは、ケヴィンの首の後ろに両腕を回して抱き着いた。


「大きくなったわねケヴィン。あなたに再会できて、こんなにかっこよくなって、お姉ちゃんは嬉しいわ。立派な騎士様になってね」

 耳元でささやき返すと、さらにぎゅーっと抱きしめられた。

「はい、お姉さま」


 白昼堂々のいきなりのラブシーンを見せつけられ、カタリナをはじめ食堂にいた騎士たち全員が言葉もなく固まっていた。

 

「入り口でなーにイチャイチャしてやがる!ここは、いかがわしい店か!」


 互いに聞こえるようにだけささやきあってクスクス笑うふたりのイチャコラは、第四騎士団のサンダース団長がやって来るまで続いたという——。


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