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30.帯同の許可(1)

「詳しく説明してくれ」


 サンダースの申し出にシャルロッテは首をかしげながら言った。

「ブッシュモスキート討伐への帯同を認めていただけたら説明します」


「説明を聞いてからだ!」


 シャルロッテは隣に座るロックウェルを見てから、メガネを外し、無言のまましばらくサンダースの顔を見つめた。

「情報は、そんなに安売りしてはいけないって、サイラス先生に言われているんです」


「くそー、サイラス、サイラスって、おまえはサイラス・ドリュクの何なんだ!」

 サンダースが頭をかきむしり始めた。


「何なんだって、愛弟子ですけど」


 そこでようやく、サンダースはあることに思い当って、ハッと顔を上げシャルロッテを見つめた。

「未来視の能力を持ってるサイラス・ドリュクの後継者…が、あんたなのか?」

「はい、一応そうみたいです」


 サンダースはまた頭をかきむしり始める。

「なんだよそれ、最初っから断れない案件じゃねーか。わかったわかった、はい認めますぅ」

 棒読みのように「認めますぅ」と言ったサンダースは、パッと好奇心の塊のような表情になって、シャルロッテに尋ねてきた。

「で、俺にどんな未来が見えた?」


 シャルロッテはメガネをかけ直しながら答えた。

「安売りするなと言われているので詳しいことは教えられません。ただ、あなたがとても部下想いだってことはわかりました」


 すると、サンダースはにんまりと笑ったあとガッツポーズをして何やらはしゃぎだしたのだ。

「そうか!そうか、そうか。そうだよなあ。俺、団員をかばって死ぬんだな?くぅ~っカッコイイじゃねーか!最高だぜ」


 サイラス先生もそうだったけど、男の人はみんなそういうカッコイイ最期に憧れるのだろうか。

 残念ながら、そんなカッコイイものではない。

 飲み屋でぼったくられて高額請求された若い団員にかわって支払いを肩代わりしているサンダース団長の姿が見えただけだったのだが、今はそれを言わないほうがよさそうだと判断したシャルロッテだった。


「それで、さきほどの作戦のことですが」

 話しやすくなったところでシャルロッテが話を元に戻すと、サンダースもはしゃぐのをやめて真面目な顔に戻る。


「ブッシュモスキートのメスは、人間の体臭の中でも足の臭いが一番好きなんです。くっさーい足の臭いをかぐとメロメロになって、フェロモンを出してオスを呼び、交尾を始めるんです。その無防備な交尾中に倒せばラクかと。オスも退治できますし」


 するとサンダースがげらげら笑い始めた。

「うはは、交尾中に殺すとか、巫女様はなかなか鬼畜だなー」

 

「念のため、囮役の騎士様も武器を用意しておいたほうがいいと思いますが、たぶん襲われることはありません」

「なぜそう言い切れる?よそで交尾を終えて足の臭いに誘われてやって来るメスは、まっすぐその囮役の血を吸いに来るんじゃねえのか?」

「図鑑には、メスは一生に一度だけ交尾すると書かれていますが、そんなことはありません。足の臭いでメロメロになったメスは、オスをとっかえひっかえしながら交尾に没頭するんです。吸血は後回しです。ですから交尾中に倒せば問題ありません」


 サンダースの瞳が意地悪く光る。

「なぜそう言い切れる。実践したことがあるのか?」


「ありますよ。何度も」

 にっこり笑って言うシャルロッテに、サンダースだけでなくロックウェルも驚いて彼女のことを見つめた。


 カシム村の山の木こりにとって、それは常識だった。

 夏の山には普通の蚊だけでなく、魔物のブッシュモスキートも出没することがある。

 交尾を終えて血に飢えたメスはしつこく追いかけてくるので、一旦目を付けられると仕事どころではなくなってしまうのだが、それを回避する手段があることを師匠から弟子へ、親から子へと語り継がれているのだ。


 ブッシュモスキートのメスに追いかけられたときは、ブーツを脱ぎ、靴下も脱いで、その靴下をブッシュモスキートの目の前でぶんぶん振り回した後、できるだけ遠くへ投げること。

 するとブッシュモスキートはわき目もふらずその靴下を追いかけていき、その場でオスを呼んで交尾に耽り始めるから、その隙に逃げればいい。


 シャルロッテもタージンにそう教えられた。

 シャルロッテの靴下は効果が弱いようであまり効き目がなかったのだが、タージンの靴下は効果てきめんだった。


「ですから、足の臭い人と、ついでに臭い靴下も集めておけばいいかもしれません」


 シャルロッテの説明を聞き終えたサンダースは、ニヤニヤ笑っていた。

「おもしろいな、やってみようじゃねーか。ただし、ブッシュモスキートの産卵する池がある森は危険がつきものだ。別の魔物がやって来ることもある。だから巫女様の護衛は俺らにはできない。それでいいか?」


「巫女様の護衛は、うちのハービッツ副団長があたるので大丈夫です」

 ロックウェルが口を挟むと、サンダースはくつくつと笑う。

「ちょうどいいな、ハービッツ家のお嬢ちゃんは虫が大の苦手でどうせ役に立たねえからな」 


 サンダースは視線をシャルロッテに戻した。

「で?ふたつ目の情報を聞かせてくれ」


 シャルロッテはゆっくり口を開いた。

「今年ではなくもしかすると来年か、もっと先の可能性もあるんですが、カタリナが参加するブッシュモスキート討伐で、いつかキラーマンティスに遭遇します」

 


実際には、蚊は足のニオイの強い人ではなく、足の常在菌が多い人のところへ集まるらしいです。

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