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31.帯同の許可(2)

「おい、待て。いつかわからないけどって、ふんわりしすぎてないか?」

 サンダースが鼻で笑った。


 シャルロッテは、隣のロックウェルに尋ねる。

「キラーマンティスって、たまたま出会ってすぐに対処できる魔物ですか?」


「う~ん、まあ出会って向こうがファイティングポーズをとっているなら対処しないといけないから、連携とりながら頑張るしかないな。手ごわい相手だとは思う」


「そうですか。いずれカタリナが森の中でキラーマンティスにファイティングポーズで威嚇される日が必ず来ます。わたしの未来視は外れたことがないので。これ、カタリナにはまだ言ってませんので」

 カタリナに初めて会った日、「虫が苦手なんだ」と告白した彼女に見えた未来視はブッシュモスキートではなく、キラーマンティスだったのだ。


 今日カタリナに、ブッシュモスキートの討伐以外で森で昆虫型の魔物に遭遇することもあるかと尋ねたら、そもそも森に入る任務自体がブッシュモスキート討伐ぐらいしかないという答えが返ってきた。


「大きさは?」

 サンダースに聞かれて、あの時の未来視を思い返した。

「えーっと…カタリナが見上げるほど?」


「それは厄介だな」

「第五の訓練の中に対キラーマンティス戦を加えないといかんな」


 団長ふたりはシャルロッテそっちのけで、しばしキラーマンティスと戦うための訓練内容について話し合っている。

 ふたりの顔は、深刻ではなくむしろとても楽しそうで、騎士団の団長ともなるとずいぶんと肝が据わっているのだなとシャルロッテは感心しながらそのやりとりを聞いていた。



 その日の夜、第四と第五騎士団の宿舎では、入浴前に「最も足が臭い団員は誰だ選手権」が開催され、互いの足を嗅いでは悶絶するという壮絶な選抜メンバー選定が行われたという——―。


 

*******


「殿下、ハルバート様より伝言がございます」


 クリストファーは執務室の机に頬杖をついて窓の外をぼんやりと眺めたまま動かない。

「殿下?」

 従者が再度声をかけると、ようやく「なんだ」と反応した。


「ハルバート様より伝言です。3日後の第四、第五騎士団合同のブッシュモスキート討伐にハルバート様も同行したいとのことですが、いかがなさいますか」


「おまえは第五の所属なのだから好きにしろと言っておけ」

「かしこまりました」

 従者が頭を下げて、次に顔を上げたときにはクリストファーはイスから立ち上がり扉へと向かっていた。

「殿下、どちらへ?」


「巫女の様子を見てくる。おまえがそばにいると仰々しくなるからついて来るなら距離を取れ」



 

 ロックウェル団長とカタリナと3人でブッシュモスキート討伐の打ち合わせをしたのち、カタリナに魔導研究所のすぐ近くまで送ってもらって別れた。


 騎士団でずいぶんと時間を食ってしまった。

 午後も書庫で調べ物をしようと思っていたけれど、今からでは時間が中途半端になってしまうから、今日はもうサイラス先生のところへ帯同の許可をもらった報告をしに行こうか…シャルロッテがそんなことを考えながら魔導研究所の入り口をくぐると、目の前に大きな背中が見えた。

 誰かと話しているようだ。


 あの人は、今朝医務室でお話しした兄弟子のルーゼン室長?

 話している相手はもしかしてサイラス先生かな?と思って、少し横に回り込んで確かめたところ、目に飛び込んできたのは何とも予想外の燃えるような赤い髪だった。

 

 あ、まずい…と思った時にはすでに手遅れで、ばっちり目が合ってしまった。

 この冷ややかな目はハルではなくクリストファーのほうだろう。


「シャルロッテ、君にきちんと謝りたかった。大怪我を負わせてすまなかった」

 茶褐色の瞳をかすかに揺らしながら静かな声で王太子はわたしに謝罪した。

 サイラス先生に促されて仕方なく謝っているというより、随分と反省している声色に聞こえた。


「大丈夫です。もうすっかり良くなったんですよ、ね、ルーゼン室長!」

 気まずすぎて兄弟子に助けを求めながら、左手のてのひらをクリストファーの前に出して、指をわきわきして見せた。


 クリストファーは少しだけ笑うと、その左手をとった。

 指先にやわらかいものが触れて、それがクリストファーの唇だとわかってシャルロッテが固まっている間に

「また今度ゆっくり話そう」

という言葉をのこして、クリストファーは立ち去った。


 まだ感触の残る左手をもう片方の手で握りながら、シャルロッテは顔が紅潮していくのを感じていた。


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