28.魔導研究所の書庫
「今日は、書庫で魔物のことを調べたいと思っています。主に今度の討伐対象のブッシュモスキートと、余裕があればドラゴンのことです」
今日サイラスはユーカリ茶を淹れてくれた。
スッキリさわやかなハーブティーといった感じの味だった。
当然のようにこれも、アンチエイジングらしい。何のことかいまだによくわからないけれど、サイラス先生の口ぶりから察するにお肌の若さを保つ効果があるのかしら?
「お昼はカタリナと一緒に食べて、午後もずっと書庫に籠る予定です。夕方、報告に戻ります」
うんうんと頷きながらシャルロッテの話を聞いていたサイラスが、封筒を2通差し出してきた。
「早速、第四と第五騎士団の団長さん宛に、討伐への参加を打診する紹介状を書いたんだけど、どうする?きみが直接持っていく?」
「そうします。ありがとうございます」
シャルロッテは封筒を受け取ると、ローブの内ポケットに入れた。
そしてシャルロッテは、書庫に案内してくれるというサイラスと手をつなぎながら研究所の廊下を歩いていた。
「あの…サイラス先生?」
「んー?」
「書庫まで案内していただけるのは大変ありがたいんですが…手をつなぐ必要あります?」
「んー?」
案内するのはこれが最初で最後だから周りをよく見て行き方を覚えるようにとサイラスに言われ、あちこち見回して目印を覚えながら歩いていたところ、すれ違う人たちが、自分たちの様子を見てギョッとしたり、二度見したり、遠くから指を指してヒソヒソ話していたりすることに気付いたシャルロッテだった。
「聞こえないふりしないでください、サイラス先生。師匠と弟子が手をつないで歩いているって、おかしくないですか?やたらとわたしのこと子供扱いしてるご様子ですけど、わたし小っちゃくても一応20歳ですからね?大人なんですよ?」
シャルロッテが抗議すると、サイラスはプッと笑った。
「さっきのこと忘れたの?大人が王城内でメイドコスプレして迷子になったりする?」
「も~~~~~ぉ」
結局、着替える機会を与えられず、お仕着せを着たままになっているし、迷子にならないように師匠に手を引かれているし、自分の矜持は一体どこへいったのだろうか。
落ち込みつつ到着したのは、大きくて分厚そうな扉の前だった。
「僕はここまでだ。書庫には司書がいるから、探したい本があるときは相談するといいよ。それと、万が一きみが迷子になった時のために、僕のピヨちゃんを貸してあげる」
サイラスはシャルロッテの右手の甲にちゅっと口づけた。
シャルロッテがその唇の柔らかさにドキっとしながら自分の右手を見ると、緑色の線の小鳥の文様が刻まれていた。
「これは?」
「伝えたいことがある人のことを思い浮かべながら、このピヨちゃんに伝言を話して、最後にちゅってすると、その人の元へ飛んでいくからね。そのあとまた手に戻ってきたら相手に伝わった証拠。わかった?カタリナに伝言があるときもこの子を使うといいからね」
「はい、ありがとうございます!」
お礼を言って、研究室へ引き返していくサイラスを見送ると、シャルロッテは重い扉を開けた。
扉の先には、どこにこんな奥行きが?と思うほどの広い空間と、高い天井まで届く大きな本棚と、その他の棚に並ぶおびただしい量の本があった。
これはたしかに、お目当ての本を探すのが大変そうだ。
シャルロッテは自力探索を早々にあきらめ、入ってすぐのカウンターにいた司書に声をかけた。
「おはようございます。シャルロッテ・アシスと申します。昆虫タイプの魔物の生態について書かれている本を閲覧したいんですが、おすすめの本を紹介してもらえますか?」
真っ白な顔に金色の髪と目を持つ無表情な司書は、コクリと頷くと石板のような板にペンで何かを書いて…と思ったら、カウンターの上にドサドサっと数冊の分厚い本がいきなり現れた。
「うわっ、魔法!?」
思わず大声を出してから、しまった静かにしないと!と慌てて口をつぐみ、「どうぞ」という感じで本を差し出す司書にお礼を言って受け取った。
書庫の奥行きがありすぎて、あまり奥へ行くと遭難しそうなイヤな予感がしたのでカウンターから一番近い机に座ることにした。
あの司書さん、ニンゲンなんだろうか!?
あの本の検索方法は一体!?
魔導研究所の書庫は謎に包まれている…ドキドキしながらそう思ったシャルロッテだった。




