21話 バルドとセドリック
ガサッ
帰ろうとしたところ、茂みから人の気配がした。
「誰だ!」
セドリックさんがエリアスの前に立ち、剣を構えた。
私も腰にある短剣に手をそえるが、この気配ってもしかして……。
「ん?なんじゃ、セレナいたのか」
肩にフォレストディアを担いで、バルド師匠が出てきた。
「やっぱりバルド師匠だった」
私は師匠に近づいた。
「やっぱり?」
「なんか知っている気配だなと思ったんですよね」
「おお、気配もわかるようになってきたか!」
師匠が頭を撫でてきた。
「セレナ、そちらの御仁は知り合いか?」
エリアスが聞いてきた。
「うん、私の師匠のバルド・グランツさんだよ」
「グランツ騎士団長!」
セドリックが剣を鞘に納めて、慌ててやってきた。
「ん?おお、懐かしいな。セドリック」
バルドはセドリックの肩を叩いた。
「騎士団長、なぜこんなところに」
「セドリック、ワシはもう騎士団長ではないぞ。隠居したただのジジイだ」
隠居したただのジジイがこんな筋肉ムキムキなわけないし、
肩にフォレストディアという鹿の魔獣を担いで軽々歩けるわけもない。
「師匠とセドリックさんは知り合いですか?」
「はい、自分が見習いの頃にバルド様が騎士団長をやっておられまして、いろいろお世話になっていました」
「セドリックは見習いの頃からかなり優秀だったが、今はエリアス殿下の護衛をしておるのか、立派になったな」
「ありがとうございます!グランツ様の指導のおかげです」
セドリックさんは嬉しそうに笑った。
いつも無表情のセドリックさんがこんなにうれしそうな顔をするなんて、
こんな一面もあるのだなとしみじみ思った。
「そろそろ説明してもらってもいいだろうか?」
エリアスが横から声をかけてきた。
「失礼しました、殿下。こちら元騎士団長のグランツ様です」
「ご挨拶が遅くなり申し訳ありません。バルド・グランツです。今は隠居してエルナード領に住まわせてもらっております」
師匠は胸に手を当てて騎士の礼を取った。
「セレナとも知り合いなのか?」
「うん、体術や剣術を教えてもらっているの」
「体術や剣術って、脚の方は大丈夫なのですか?」
セドリックさんが心配そうに師匠の脚を見ている。
「ああ、いろいろあってな、今はまったく問題無しだ。ひとりでフォレストディアを狩れるくらいには回復している」
ほれっと手に持っているフォレストディアを見せてきた。
「あの脚は当時、治癒師も治すまでに時間がかかり過ぎていて綺麗には治らないって……あっ」
セドリックさん含め全員がこっちを見てきた。
「ははは」
私は頬をかいて誤魔化した。
「なるほど、グランツ殿もセレナに世話になり、秘密を知るものということだな」
「『も』ということは、もしやエリアス殿下も?」
「ああ」
エリアスは嬉しそうに目を触った。
「ま、まさか」
師匠は目を見開いて驚いている。
「いやー、セレナは本当に規格外だな!」
「本当にな。しかし、この事はくれぐれも……」
「承知しております」
師匠はかるく騎士の礼をとった。
「それじゃあ、師匠、また明日、お家のほうに伺います!」
「ああ、また明日」
そう言って、別れた。
「セレナ」
エリアスが声をかけてきた。
「どうしたの?」
「明日グランツ殿のところに行く時、私もついて行ってもいいだろうか?」
「何か用事でもあるの?」
「いや、セレナがどういう修行をしているか気になってな」
「そんな大したことしてないけどなー。別に大丈夫だよ」
どうやら、明日はエリアスと師匠のところに行くことになりそうだ。
「みなさん、お忘れのようですが、明日は午前中にダリオン様含め今後の話し合いがありますよ」
ロウェルさんがにこやかに話してきた。
「そ、そうだった……。また懇々と怒られるんだろうなぁ」
私はため息をついた。
「私がお願いしたことだ。セレナが怒られることはないだろう」
「そうは言っても、最終的にエリアスの目を治すと決めたのは私だから」
「じゃあ、私も一緒に怒られよう」
「いや、王子に叱れる人なんているわけないじゃないですか」
ロウェルさんが的確なツッコミをした。
♢♢♢
「さて、皆集まったな」
翌日、朝食後にお父様の執務室で話し合いが始まった。
「だいたいのことはセレナから聞いていますが、結局、殿下の目はどうなったのでしょうか?」
「セレナ嬢の力で無事色がわかるようになった。ダリオン殿にも感謝と何か礼をと思っているのだが」
「いえ、あれはセレナが独断でやったことなので、私への礼は不要です。礼はセレナだけに」
お父様はエリアスからのお礼をスパッと断った。
「セレナ嬢、改めて礼を言う。あと治療費を払いたいのだが」
「お父様……」
私はお父様のほうを見た。
お金のことはわからないからお父様に丸投げである。
「お金は不要です。大きな金が動いたら怪しまれますし、それに今回はセレナが勝手にやったことなので」
「そ、そうです!前にもいいましたがお金は不要です」
私も慌てて、お父様の返答に同意した。
「では、今度何か個人的に贈り物をしてもいいだろうか?それなら日頃の感謝ということになるだろうし」
「いや、本当にいらな……」
「セレナ、あまり断るのも失礼にあたる。殿下の気持ちも汲み取ってあげなさい」
本当に必要ないからそう言おうとしたら、
お父様から嗜められた。
「……わかりました」
「なにかほしいものなどあるだろうか?」
何か欲しいものといってもなー……。
ドレスもいらないし、帽子も靴も叔母様がいろいろ送ってくれるし……。
……あ、そういえば。
「髪留めがほしいです!あまり飾りの入っていない」
「髪留めか。ん?飾りの入っていない?」
「はい、練習中に髪をポニーテールにするのですが、いい感じにまとめるものがなくて欲しかったのですよね」
「なかなか難しい注文だな」
エリアスが悩んでいる。
「殿下、近くの街に一緒に買いに行ったらよろしいのではないでしょうか?」
ロウェルさんが提案してきた。
「それはいいな!まだ街に出ていないしな。セレナどうだろうか?」
「お父様、よろしいでしょうか?」
「ああ、ついでに殿下を街を案内してあげなさい」
「わかりました」
どうにか解決したけど、なぜか一緒に街に行くことになった。
「さて、セレナの魔法のことですが、セレナからも聞いていると思いますが他言無用でお願いしたいのです」
「私はセレナ嬢の力を他に言いふらすことはしない。それはロウェルやセドリックにも命令してある。」
「そうして頂けると大変助かります」
「ただ、父……陛下と王妃、第一王子のフィリクスには治った経緯は話さなければならないと思う」
「それはそうでしょうね……」
お父様は悩ましそうに言った。
「私を信じてほしい。セレナに何か迷惑がかかることは絶対阻止してみせる」
エリアスとお父様がじっと見つめ合った。
「……わかりました。エリアス殿下を信じましょう。ただ何があっても教会にはバレないようにお願いします」
「教会に?」
「はい、教会がセレナの力を知ったら絶対に欲しがることでしょう。大司教にも治せない怪我などを治してしまう力があるのです。もしかしたら聖女として引き抜かれる可能性もあります」
「たしかに。教会ならやりそうなことだ」
エリアスも頷いた。
「教会に行くのは絶対に嫌なので、殿下お願いします!」
「ああ、何があっても君を教会から守ると誓うよ」
エリアスは真剣な顔で答えてくれた。
「しかし、殿下の目が治ったことは広めずとも徐々に広まってしまうかと……」
セドリックが悩ましそうに言った。
「そうだな……」
「でしたら、隠さずに年齢とともによくなったということにしたらどうでしょう?」
たしかにこれだと私のことはバレることはないし、誰かを巻き込むこともない!さすがロウェルさん!
「それですよ!殿下の目は元々怪我によるものですし、いつか治ったとしてもおかしくないかと」
私はロウェルさんの言葉に反応した。
「なるほど。ダリオン殿はどう思いますか?」
エリアスが父に伺う。
「そうですな。療養でこちらに来たのですから、こちらでの療養でストレスが無くなり、だんだん色が見えるようになったとしても、おかしくないかもしれませんな」
お父様もロウェルさんの提案に賛同した。
「では、その方向でいこう!」
皆が頷いた。
「そうなると学校に通うギリギリまでこちらにいたほうがいいのでは?」
セドリックさんがエリアスに聞いた。
「1年やそこらで治ったら怪しまれますよね?」
ロウェルさんも頷いている。
「ダリオン殿、本当は1年〜1年半くらいで戻る予定でいたのだが、学校が始まるギリギリまでこちらで過ごしてもよいだろうか?」
エリアスが2人の話を聞いてお父様に問いかける。
「問題もありません。何もありませんがゆっくり過ごしていただければと思います」
「ありがとう。よろしく頼む」
どうやら、エリアスはまだまだこちらにいるようだ。
お兄様は王都の学校に行っているし、お姉様は騎士学校に入るための勉強と訓練で忙しくてあまり遊んでもらえていなかったから、少し寂しかったんだよね。
遊べる人がそばにいることが実はめっちゃ嬉しい!




