20話 治療完了!
「セレナティア嬢、おはよう!」
なんかデジャブ……。
本日も訓練終わりに殿下からタオルを受け取った。
「お、おはようございます、エリアス殿下」
今日は治療から3日後なので来る理由はわかるんだけど、それとは関係なくここ毎日、訓練が終わると殿下が立っていて、タオルをもらいつつ一緒に朝食を食べる流れになってきている。
「ああ、最近朝起きて空を見るのが楽しみで早く目が覚めるのだ」
殿下が楽しそうに話している。
来た頃の根暗な雰囲気はどこにいったのやら。
「そういえば、今日で3日経ったので問題なければ治療しましょうか」
「ああ!お願いしたい!楽しみにしていたのだ」
「今日も湖でいいですか?」
「ああ、今日で君と同じ風景が見られるかもしれないと思うと楽しみだ」
そうか、今日無事治療が終われば、殿下と私と同じ風景を楽しむことができるんだ。
じゃあ、サクッと朝食を食べていきましょう!
♢ ♢ ♢
「さて、これで治療が終わりましたが、いかがですか?殿下」
湖の前で私は殿下の治療を終え、そっと頭から手を離した。
「これが本当の姿の君なのか。肌の色も髪の色もとてもキレイだ」
殿下が涙ぐみながら私の髪の毛を触った。
「ふふふ、初めまして殿下」
「ああ、本当のセレナティア嬢との初めての出会いだな」
「そうだ、今日は殿下にプレゼントがあるのです」
私は持ってきたバッグから銀色の手鏡を出して、殿下に渡した。
ちなみに銀色にしたのは、殿下の髪色に似ていたからだ。
「手鏡?」
「そうです。殿下が今、本当の私と初めて会ったようにエリアス殿下自身とも初めて会うのですよ」
「そうか、本当の自分」
そう言って、殿下は自分の顔を見た。
「私の肌は、こんな色だったのだな、こう見ると不健康そうだな」
「フフフ、初めての感想がそれって」
「ん?目の色が昨日と違う気がするのだが」
「え?見せてください」
殿下の目の色は、少しくすんだ紺色だったはずだけど。
「なんか目の中心が水色っぽいですね。私の目の色と似てる気が?」
「たしかにセレナティア嬢の瞳と少し似てる気がするな」
しかし、なんで色が変化を?
色盲からの治療で何かしら変化が起きてしまったのだろうか……。
「私にもちょっと理由がわからないのですが、治療したゆえの変化でしょうか?なにか違和感とか変な感じとかしますか?」
「いや、今のところ大丈夫だ」
「しばらく様子見ですね」
何事もないといいけど。
「セレナティア嬢」
しばらく風景を眺めていた殿下が真剣な眼差しでこちらを見てきた。
「どうしました?」
「この度は本当にありがとう。今までの私の態度などを考えると治してもらうに値しない奴であったろうに」
そう言って、頭を下げる殿下。
「ええ、ちょっと王族が簡単に頭を下げたらダメですよ」
「こんなことをしてもらって感謝しないなんてありえない。それに君に何をお礼したらいいのか……」
「お礼は大丈夫です。私、治療でお金とかもらっていないので」
「そうはいかん。こんなすごいことをやってのけたのだ」
「そうは言ってもなー……」
とくに欲しいものもないし、ドレスは自分でデザインしているし、食べたいものは自分で作るし、
本当に思い浮かばない。
「まあまあ、殿下。そんな急に言ってもセレナ様も困ってしまいますよ。ダリオン様の意見も聞いてからにしましょう」
今までずっと黙っていたロウェルが話に入ってきた。
ナイスアシスト!さすがロウェル様、わかっていらっしゃるわ。
「む……そうだな」
それに対して何か不服そうな顔をする殿下。
「どうかしましたか?」
「いや、私はセレナティア嬢と呼んでいるのに、なぜロウェルはセレナ呼びなのだ」
そこかい!
「ロウェル様が私にロウェルと呼んでくれとおっしゃいまして、それなら私もセレナと呼んでほしいと返した感じですかね」
「それなら、私もセレナと呼びたい!」
「ど、どうぞ」
そんな勢いよく言うことでもない気が……。
「私のことは、エリアスと呼んでくれ」
「それはー……王子ですしちょっと……」
「ロウェルはいいのに私はダメなのか……」
急にワンコのようにシュンとする殿下。
その顔、わざとやっているのではとたまに思うのだが。
「わ、わかりました。こっちにいる間だけでいいなら」
「ああ、それでいい!ついでに呼び捨てにしてくれ!」
「は?それは不敬すぎるのでは?」
この王子、何を言い出すんだ?
呼び捨てとかしたら、私が怒られるやつでは?
「友達なら呼び捨てだろう」
「いつの間に友達に?」
「違うのか?」
「え、いやー……違わないかな?」
「じゃあ、呼び捨てでタメ口にしよう!友達だからな!」
めっちゃ強引だな、王子。
「んー……わかりました。こっちにいる間だけ……だよ?」
「ああ、よろしく!」
そう言って、エリアスは手を差し出してきたので私は握り返した。
「殿下が呼び捨てでしたら、私も呼び捨てでお願いします。もちろんセドリックも」
「ええ、そんな年上の方を呼び捨ては……」
「いや、身分が一番上の殿下を呼び捨てにして私達が敬称がついていたら逆におかしいのでお願いします」
「えー……ロウェルさんで勘弁してください」
「はい、よろしくお願いしますね。セレナ様」
ロウェルは良い笑顔で答えた。
「そうだ、殿下……じゃなくてエリアス」
殿下と言った途端、ちょっと睨むのやめてほしい。
「なんだ?」
ちょうどお昼になったので、私達は持ってきた昼食を食べた。
今日はロウェルさんも一緒だったので、ロウェルさんがすべて用意してくれた。
さすが従者、手際が良い。
「色が見えるようになったし、色の勉強をしたほうがいいと思うの」
私はフルーツサンドを食べながら提案した。
ちなみに、このフルーツサンドは私考案で料理長にお願いして作ってもらった。
「色の勉強?」
「そう、エリアスは色がやっと見えるようになったところだし、どれがどの色か把握できてないよね?」
「そういえば、そうだな。色は見えるけど、どれが何色か全然わかっていないな」
エリアスは私が使っている色鉛筆を眺めていた。
「その状態で王都に帰っても大変だと思うんだよね。あ、すぐ王都に帰りたかったら戻ってから家庭教師か宮廷画家?あたりに教えてもらうのもありかなと思うけど」
「いや、すぐには帰らない。というか1、2年は帰らん」
エリアスが被せるように言ってきた。
「え、そうなの?せっかく目が治ったのに?」
「ああ、目が治ったことが広がれば、寄ってたかって手のひらを返してゴマをすってくるに決まっている。それで、急に自分の娘を婚約者にしようと躍起になるはずだ。そんな面倒くさいところギリギリまで帰りたくない」
「たしかに今まで忌避していたくせにそれをやられても萎えるよね」
貴族というか、王族って大変だな。
「色はセレナが教えてくれないか?」
「え、私が?」
「ああ、ドレスのデザインとかしているなら色には詳しいだろう」
「うーん、そうだけど。あんまり専門的なところまではわからないよ?」
「一般的なことで大丈夫だ」
「わかった、じゃあ、明日から少しずつ色を覚えよう」
こうして、私はエリアスに色について教えることになった。
とりあえず、図書室で色がついている植物図鑑あたりを見ようかな。




