15話 エリアスとスノウ
ーエリアス視点
今日は我ながら大人気ないことをしてしまった。
セレナティア嬢はきっと何も知らなかったのであろう。
それなのに私は……。
後悔しつつも、今まで受けてきた怪訝な視線が頭にちらつく。
明日、謝らないとな……。
♢♢♢
僕が色が見えないことに気づいたのは、3歳の頃だった。
メイドがいつもどちらの服がいいか聞いてくるけど、僕的にはどちらも一緒じゃないかといつも思っていた。
その疑問をお母様に聞いてみたのだ。
「お母様、聞きたいことがあるのです」
「あら、なあに?エリアス」
「メイドが毎朝どちらの服がいいか聞いてくるのですが、いつも両方同じ色?を持ってくるのはなぜなのでしょうか?」
「同じ色?」
「はい、両方薄い色だったり、濃い色だったりするのですが、僕には違いがわからなくて」
お母様が目を見開いて、メイドにハンカチを数枚持ってくるように指示をした。
「エリアス、この2枚のハンカチがあるけど、どんな色に見える?」
お母様が両手にハンカチを持っている。
「どっちも濃い色に見えますけど違いがわかりません」
「じゃあ、こっちは?」
お母様は何度かハンカチを見せてきたけど、
僕には違いがわからなかった。
しばらくして父も駆けつけて、さらに医師と教会の大司教も来た。
「んー、これはエリアス殿下は色の判別ができていないのかもしれません」
医師が僕の目を照らしながら確認した。
「色がわからないということですか?」
「そうですね、きっと濃淡はわかります。でも色はわからないようです。つまりモノクロで世界が見えているような状態ではないかと」
「そ、それは治るのでしょうか?」
お母様とお父様が顔を青くして医師に聞いている。
「きっと先日の誘拐事件で後頭部を強打した時の後遺症だと思うのですが、すでに傷は癒えていますし無理でしょうな」
「大司教の治癒魔法でも無理なのか?」
父が大司教のほうを見た。
「もう一度やってみたいと思いますが、きびしいかなと……」
大司教が手を目に当てて、治癒魔法をかけてきた。
「エリアス殿下、何か見え方の違いはありますでしょうか?」
僕は首を振った。
「やはり厳しいようですね」
「そんな、エリアス……」
母は目を潤ませて、僕を抱きしめてくれた。
記憶上、ずっとこの景色の中にいるから、
何が悲しいのか僕にはまったくわからなかった。
ただ、それから王宮内で良からぬ噂が立った。
『エリアス殿下は女神ルメリアーナに見放された』
そこからいつの間にか王子の目は呪われているという根も葉もない噂が王宮に広まり、王都まで広がった。
どうやら、教会の下の者達が言い出したようだ。
そこからお父様や医師、大司教が噂を否定してくれていたけど、
なんの効果もなく、僕が出席したパーティーでは貴族達は皆、遠巻きに怪訝そうな目でこちらを見ていた。
それから僕はなるべく外に出ることをやめ、
部屋に引き篭もることに決めた。
♢♢♢
父はそんな私を心配して、今回の療養を提案してくれた。
王都にいるよりは楽に空気が吸えるかもと思ったけど、
結局自分で種を蒔いてしまった……。
カリカリ
そんなことを思っていると窓から音がした。
ベッドを降りて外を覗くと、
いつもセレナティア嬢と一緒にいる白い犬がいた。
スノウと言っていたかな?
アッシュウルフと言っていた気がするが、それにしては真っ白で大型犬にしか見えない。
「こんな時間にどうしたのだ?ご主人様の部屋はここではない……」
窓を開けた途端、スノウが飛びかかってきて、
仰向けに倒され、肩を押さえられ乗っかられた。
「っつ……急になんだ?」
「おい、お前、なんでセレナに迷惑をかけるんだ?」
は?犬が喋っている?
びっくりして喋れないでいると
「聞いてるのか?」
怪訝そうな声でスノウが聞いてきた。
「ああ、聞こえている。人間の言葉を話せるとは思わず驚いてしまった」
「あっそ、それはどうでもいいんだけど、なんでセレナにキツく当たったの?セレナは何もしてないよね?」
「……それはその通りだ」
スノウがこちらを睨みながら言ってきた。
「自分だけが不幸、みたいな顔してさ」
「そ、そんなことは……!」
「あるでしょ?せっかくこっちに来たのに引きこもってさ、セレナが気を遣ってパーティー?まで開いてくれたのにあの有様でさ。そんなんならさっさと王都に帰れば?」
「私だって帰りたいが今はまだ無理だ。呪いの噂が落ち着くまでは……」
「あんたがそんな陰気な顔してたら、ずっと無理だと思うけどね」
「陰気……」
この犬、普段は猫を被っていたのか?
人のことをズケズケと言ってきてなんなんだ。
「セレナを見なよ。みんなに優しくて明るくてさ、あんな前向きで優しい女の子いないよ?」
「それは彼女が皆から大切に育てられたから……」
そうだ、彼女は周りから愛されているから、私とは違う。
「あんたは違うの?両親だって侍従だって心配してくれて手助けしてくれてるんじゃないの?」
「そうだけど、周りは違う」
「周りの目なんてそんな大事なの?セレナは周りの目なんて気にせず、自分の将来に向かってめちゃくちゃ努力してるよ」
「それはセレナティア嬢は陰口を叩かれたりしたことないから」
そうだ、私はずっと色が見えなくて不自由をしてきたのだ。セレナティア嬢とは違うのだ。
「あんた、王子のくせに何も知らないんだね」
「何がだ?」
スノウは呆れたような目で見てきて、
私の上から退いた。
「あんたの侍従だかに聞いてみなよ、そしてさっさとここから出ていって」
そう言って、スノウは窓をバンと開けて出て行った。
「エリアス様、何かありましたか!?」
音に気づいて、護衛のセドリックが入ってきた。
床に座っている私に気づいて慌てている。
「いや、なんでもない。セレナティア嬢の犬が遊びに来ていたんだ」
「あの真っ白な」
「そうそう、夜で暇だったのかもね」
私はそう言って立ち上がりベッドに座った。
「あのさ、ロウェルを連れて来てもらってもいい?」
「ここにいますよ」
ドアから顔を出してきたロウェル。
「お前も来てたのか」
「まあ、主に何かあったら大変なので、それで私に何が御用でしょうか?」
「二人に聞きたいのだが……その……」
「セレナ様のことですか?」
私は思わず、バッと顔を上げてロウェルのほうを見た。
「なんでわかって」
「いやー、昼にあんなことがありましたし、気にしてるのではないかなと」
「……二人はセレナティア嬢の噂を知っていたりするのか?」
「ああ、あの『魔法が使えないグランフェル家の出来損ない』ってやつですか?」
「『欠陥令嬢』とかも呼ばれていませんでしたっけ?」
二人が顔を合わせて言った。
は?出来損ない?欠陥令嬢?何を言っているのだ……。
私は思わず絶句してしまった。
「もしかして、エリアス様はご存じではなかったのですか?」
コクンと頷いた。
「エリアス様は周りと関わらないようにしていらっしゃったし、情報も入って来なかったのだろう」
あの子は貴族なら誰でも使える魔法が使えないなんて……。
「あの子を見たら、魔法が使えないなんて思わないだろう。明るくて優しくて……」
「私としては何かが欠けているお二人なら分かり合えるところがあるのではないかと期待していたのですが、エリアス様がそもそも知らないとは盲点でした」
ロウェルがズケズケと言ってくる。こいつは小さい頃からずっと一緒で私に対する物言いがひどい。
「……明日、セレナティア嬢に謝ろうと思う。そして、もう少し話をしてみたい」
「それはとてもいいことですね。さて、もう本日は遅いのでお眠りください」
そういって、ロウェルはベッドに寝るよう促した。
明日、ちゃんと謝ろう。
そして、なんでそんな明るくて前向きでいられるのか、聞いてみよう。
GW期間の連続投稿は今日で終わりです。
明日からは2〜3日ごとに1話ずつアップできたらと思ってます。
引き続きよろしくお願いします!




