16話 無いもの同士の話し合い
翌朝、私はいつも通り騎士団に混じって朝練をした。
訓練場の外周を30周ほどして、素振りを100回。
対人訓練はまだ体が小さいから免除されている。
ちなみにスノウも隣で楽しそうにいつも走っている。
「今日はこれからどうしようかなー。師匠の特訓ないし」
「僕はあったかくなってきたし湖に行きたいな!」
スノウが提案してきた。
夏も近づいてきて、今日は晴天で日差しがポカポカしていて気持ちがいい。
「久々にいいかも!そこでデザインを考えるのもありだなー。あ、でも、殿下に謝らないといけないんだった……」
「そんなに急いで謝らなくてもよくない?大体セレナは悪くないじゃん」
「まー、そうなんだけど、配慮には欠けていたかな、と思って。空気が読めていなかったことは反省したの」
「ふーん。人間ってめんどくさいね」
「ハハハ、本当だね」
スノウの言葉に思わず笑ってしまった。
「謝るのは夕方でもいいし、とりあえず昼間は気分を変えて湖に行こっか!」
「わーい、やったー!」
スノウが尻尾を全開に振って飛び跳ねた。
♢ ♢ ♢
湖に着いて、敷物を敷きサンドイッチと飲み物が入ったバスケットを置いた。
クッションも持ってきたから、お尻も楽ちん!
早速私は一緒に持ってきたスケッチブックと色鉛筆を出して、カタリーナ叔母様からお願いされているドレスのデザインを描き始めた。
「今回はどんなかんじがいいかなー」
お姉様のドレスのデザインをしてから、
叔母様のブティックには、体型や肌の色で自分にどんなドレスが似合うのか分からず悩んでいる人がたくさん相談しにくるようになったみたい。
それまでのドレスのデザインは、基本的に流行に沿ったものが一般的だったのだけど、私がお姉様やお母様に似合うドレスをデザインしてからは、自分を引き立てるドレスが一番良いという傾向に変わりつつある。
無理してみんな同じような格好をすることないよね!
私がウキウキしながら絵を描いていたら、
背後からガサっという音がして、瞬時に立ち上がり短剣を構えた。
「誰かいるの?」
私は臨戦態勢を取りながら茂みに向かって話しかけた。
これは人の気配だ。
「ま、待ってくれ。私だ、エリアスだ」
慌てたようにエリアス殿下が出てきた。
「え、殿下?なぜここに?まさか一人ですか?」
慌てて、剣を下げた。
「いや、少し離れたところにセドリックがいる」
殿下がちらっと後ろを見た。
少し離れた木のところにノルディス様が待機していた。
「そうですよね、一人じゃ危ないですよ」
「それを言うなら君もじゃないか?」
「あー、私は自分である程度戦えますし、従魔のスノウがいますので」
「なるほど、たしかにな」
エリアス殿下は隣にいるスノウを見て納得したような顔をした。
「それで、殿下はなぜこちらに……?」
なんて謝るかまだ頭の中でまとまってないのに気まずすぎる。
「君が湖に行っていると聞いて、その、いろいろ話をしたくて」
まずい、怒ってたりするのかな!?
これはもうとりあえず謝ったもの勝ち、かな?
「き、昨日はごめんなさい!」
とりあえず謝っとけ!
「え?」
「殿下のことを何も知らず、不躾なことを言ってしまって……」
「いや、君は何も悪くない。私が過剰に反応してしまっただけだ。君からは悪意や嫌悪も感じていなかったのに」
「それだけ触れられたくなかったということですよね」
私はしょんぼりしてしまった。
「それはそうだが、私も君のことを何も知らなくて、苦労もしてなさそうで幸せそうに見えて勝手にイラついてしまったのだ。本当に申し訳ないことをした」
そんな能天気に見えたのだろうか、私……。
まあ、ここでの生活楽しいし、みんな優しいし、
好きなこともできて何も不満もないし、そう見えても仕方ないかな?
「そうだったのですね」
「ロウェルから聞いたのだが、君はその魔法が使えないと……」
「あー、そのことですか」
なるほど、私の王都での噂を聞いたのね。
「本当ですよ。私、生まれつき魔力はあるのに生活魔法も使えないんです」
「やはりそうなのか……」
殿下は悲しそうな表情をしてこちらを見た。
「とりあえず、立って話すのもなんですから、こちらの敷物に座りませんか?サンドイッチもたくさん持ってきたので、一緒に食べましょう!」
私は投げ出したスケッチブックと色鉛筆を片付けて、
殿下を敷物に招いた。
「いいのか?何かやっていたのではないか?」
「頼まれたドレスのデザインをしていただけですので、大丈夫ですよ」
「君はそんなことをやっているのか、多才なんだな」
「いえいえ、趣味みたいなものなんです」
殿下は驚いたような表情をした。
「デザイン画を見てみたいのだが」
「いいですよ!あまり絵は上手いほうではないのですが、どうぞ!」
私はスケッチブックを開いて殿下に渡した。
「色はわからないが、あまり見たことのないドレスのデザインがたくさんあるな」
「そうなんです、スタイルや肌の色からその人がどんなドレスが似合うか考えているので、結果的にみんな違うデザインになってしまうんですよね」
頬をかきながら私は答えた。
「いいな、パーティーはほとんど出ないが、ドレスはどれも同じものだと思っていた」
「あ、少し前まではみんな流行に合わせて同じ形を着てたみたいですよ」
「ふむ、そのイメージが強いのかもしれないな」
「でも、それじゃもったいないですよね」
「もったいない?」
殿下が不思議そうな顔をしている。
「はい、そのドレスが似合う人はいいですけど、それが似合わないからってその人に魅力がないわけじゃないじゃないですか」
「そうだな」
「自分が嫌いな部分も、見方を変えれば魅力的な部分かもしれないんです。私はそれに気づいてほしくてデザインをしているんです!」
「セレナティア嬢がデザインしたドレスを着られる人は幸せだな」
「そう思ってくれるとうれしいですね」
叔母様からお客様がとても喜んでくれたと手紙をもらうたび、すごくうれしくなる。
やっぱり、こっちの道に行くのがいいのかもな。
「……セレナティア嬢は魔法が使えないのに、なぜそんな前向きなのだ?周りの声とかも気にならないのか?」
殿下が思い詰めたように聞いてきた。
「気になりませんね」
「え?」
「だから、気になりません。無いものは無いし、他人の悪口を聞いても、なんて暇な人たちなんだろうと思います」
「暇な人たち……」
殿下がポカーンとした表情でこちらを見た。
「フフフ」
そして、笑い出した。
「たしかに、他人のことをアレコレ噂をしている奴らは本当に暇人だな」
「そうですよ!そんな人たちのことを気にしてたら時間がもったいないじゃないですか、それなら少しでも将来の自分のために使いたいです」
「将来のためか……考えたこともなかったな」
「殿下は将来どうなりたいのですか?」
「『どうなりたいか』か……」
「私は今のところ2つで悩んでいまして、1つ目はお姉様の補佐として騎士団に入る。2つ目が王都にある叔母様が経営してるブティックでデザイナーとして雇ってもらう。この2つですね」
私は指を一本ずつ出しながら答えた。
「令嬢なら結婚もあるのではないのか?」
「それは無理かなと。なんせ魔法が使えないので。そんな令嬢を欲しがる人なんて、滅多にいないと思うのですよね」
「あ……すまぬ」
殿下が慌てたように謝ってきた。
「全然大丈夫ですよ!結婚なんてしなくても、楽しく生活できる自信ありますから」
私はニコッと笑った。
「セレナティア嬢のその前向きな姿勢を私も見習いたいな……」
「今からでも全然間に合いますよ!せっかく王都から離れたんですから、自由に楽しみましょう!ここの湖とかとても素敵じゃないですか?空気が澄んでて」
私は深呼吸をした。
「そうだな、こんなに気持ちが軽くなったのは初めてかもしれない」
殿下も目を閉じて、スーっと息を吸った。
「何もないですが、空気はおいしいし、近くの村の人もみんな優しくて、我ながらエルナード領はいいところだと思っています」
私は笑いながら答えた。
「……できれば、セレナティア嬢と同じ景色が見られたら最高だったな。あ、すまぬ、つい。今のは気にしないでくれ」
殿下は目の前の湖を見ながら言った。
エリアス殿下の目って色盲なのよね?
それって先天性のものだよね。
それなら私でも無理だろうなぁ。
さすがに遺伝子レベルのものは……。
「あの、殿下って生まれた時から色盲……色がわからなかったのですか?」
「いや、自分では記憶にないのだが、2歳くらいまでは色にも反応していたらしい」
「え、そうだったのですか?」
じゃあ、何かしらの要因で色盲に?
「詳しく聞いてもいいですか?」
私は殿下のほうを向いて、目を合わせて真剣に質問した。




