10話 師匠ができる
「グランツ様、こんにちはー」
「おじさん、遊びにきたよー」
「おお、セレナにスノウよく来たな」
今日は、グランツ様のお家に遊びにきたのだ。
とあることをお願いするために。
「お菓子焼いてきたの、一緒に食べませんか?」
「いいな、お茶を入れるからそこに座れ」
セレナは持ってきたクッキーとパウンドケーキを広げた。
「うまいな、このクッキー。味がプレーンとチョコで分かれてるのか、初めて見たな。」
「ふふふ、これ、私が焼いてきたんですよー」
所謂アイスボックスクッキーっていうやつね。
遠い記憶を辿って作ってみたけど、どうにかなるものね。
「令嬢が厨房に立っていいのか?」
「うちの家はそこらへんゆるくて。王都だとそうもいかないのかな?」
私は前世を思い出す前からよく厨房であれこれお願いして作ってもらったりしていた。
今思えば、前世の記憶をしっかり思い出してはいないが、うっすら記憶があったのかも。
一時、プリンがどうしても食べたくて試行錯誤したんだよね……。
「そうだなー、王都の令嬢は厨房には立ち入らんだろうな……」
「そうなんだ、つまんないね」
「お嬢は良くも悪くも令嬢っぽくないな。と、今更だがセレナ様と呼ぶべきか?」
「お嬢でもセレナでもいいよ。様はつけなくて大丈夫。私もバルドさんって呼んでいいですか?」
「いいぞ。で、お嬢は今日どうしたんだ?」
「あ、そうそう。バルドさんに試したいことがあって」
「試したい事?」
「そう、バルドさんのその脚のこと」
私はバルドさんの脚を見た。
「その傷ってどうやってできたものか聞いていいですか?」
「この傷か、これは王の護衛をしてるときにやってしまったものでな」
バルドさんは脚を撫でながら言った。
「そうじゃなくて、もっと詳しく。剣で切られたとか魔法にあたってとか」
「それを知ってどうするんだ?」
「いいから、話してください」
「むむ、そんな楽しい話でもないぞ?あの時は賊が襲ってきてな。人数がかなりいて乱闘になってしまい、剣で捌いていたのだが、遠くから弓で脚を射られてしまってな。賊は片付いたのだが矢を射られたまま戦ってたせいで、その後、治癒師に治療してもらい傷は治ったのだが、なぜか走れなくなってしまったのだよ」
んー、靭帯を損傷してしまったのかな。
あとは傷を負った状態で戦って肉離れとかも起きてたかもな。
「こんなこと聞いてどうする?」
「ん?治せそうなら治そうかなと思いまして」
「は?言っただろ、傷は治癒師に治してもらったと」
「でも、脚がうまく動かないんですよね?」
「まあ、歩けはするから大丈夫だ」
「私ならどうにかできるかと思ったので、とりあえずやってみますね」
私はバルドさんの脚に手をかざして目を瞑った。
靭帯を治すイメージと筋肉の修復と……。
「よし、これでどうでしょう?」
バルドさんはおもむろに立ち、思い切り跳ねてみた。
「痛みがない……!少し曲がってた膝も伸ばすことができるようになっておる!」
「よし!成功!やったね!」
「さすがセレナ」
スノウも横で尻尾を振っている。
「嬢ちゃんの治癒魔法、フェンリルを治してたのを見てるときからやばいとは思ってたけど、自分で体験してみてその思いがさらに強くなったわ。」
「バルドさんの怪我に関しては、私、騎士団の人たちのケガをたまに治していて、いろんなケガがあるので勉強したんですよね。その成果がでたのかも!」
実際はその経験で魔力の使い方はよくなったけど、この世界での医療知識ってまだまだ前世の私の世界から比べると劣ってるんだよねー……。
まあ、言えないんだけどね。
「なるほどな……とりあえず、もう諦めていた脚を治してくれて感謝する!お礼はいくら払ったらいい?」
「いやいや、私が勝手にやったんで、お金はいらないですよ」
「それはダメだ。治癒師でも治せなかった脚を治したんだ。ちゃんと対価はもらうべきだ」
バルドさんは私の目をしっかり見て言った。
「んー、実はバルドさんにお願いしたいことがあって今日は来たんです」
「なんじゃ?わしができることならやろう」
「いやいや、話聞いてから返答してくださいよ!」
「嬢ちゃんからそんな理不尽なお願いこないだろうと思ってな!」
私は一呼吸置いて言った。
「バルドさん、私の師匠になってください!体術と剣を教えてほしいんです!」
「体術と剣か、まあ、ワシの得意分野だから教えることは可能だと思うが、なんで習いたいのか聞いてもいいだろうか」
「バルドさんは、私のことってどこまで知ってますか?王都で噂になってるって聞いたことあるんですけど」
「ああ、あの魔法が使えない欠陥……いや、なんでもない」
「あ、それです。それ。私王都には行ったことないんですけど、「魔法が使えない欠陥令嬢」とか「辺境伯家のお荷物」とか噂が飛び交ってるみたいで」
「そんな噂、気にすることはないぞ!」
バルドさんが怒りながら言ってくれる。
「あ、気にはしてないので大丈夫です。みんな、暇なんだなーと思って。たかだか辺境にいる7歳の小娘が気になるなんて変ですよね」
「ん?いや、そうだな?」
「まあ、でも、そんな噂立っちゃったら将来結婚とか無理ですよね?できたとしてもろくなところじゃないと思うし、冷遇されそうじゃないですか!」
「お、おう」
バルドさんが私の勢いに軽く引いている。
「それなら、強くなってここでお姉様の補佐をしたいんです!それには力が必要なんです。もちろん、ここでは治癒が使えることはバレてるのでそこで重宝はされるかもしれませんが、それだけじゃなく戦える私になりたいんです!」
私は手をぐっと握った。
「治癒魔法使えることを広めれば、婿候補も引く手あまただと思うがな」
「そんな治癒魔法目当てで寄ってこられても嫌ですよ。それに教会に聖女候補とかにされたら最悪じゃないですか」
「聖女は嫌なのか?」
「嫌ですよ、いろいろ制限厳しそうだし自由に歩けなさそうだし、美味しいものも自由に食べれなそうだし、無料奉仕だろうし、いいこと一個もなくないですか?」
「聖女はたぶんそんな物欲ないだろうな」
バルドさん笑いをこらえるように言った。
「はい、私には向いてないです。物欲の塊ですから」
「まあ、理由はわかった。いいだろう、脚の礼もあるしな、わしが持ってる技術を教えてやろう」
「やったー!ありがとうございます!」
私は深々と頭を下げてお礼を言った。
「そういえば、嬢ちゃんは学校はアイゼン騎士学校に行くと聞いたが?」
「はい、カランドール王立魔導学院は卒業するのに魔法が使えないとダメなので」
「そういえば、そうだったな。治癒魔法使えると言えば問題なさそうだが、そうなると周りにバレてしまうしな」
「はい、なので騎士学校のほうに行こうかなと思いまして」
「騎士学校でも魔法が使えないといろいろ不便ではありそうだけどな」
「まあ、それはそうなのですが、あそこは魔法が使えない平民でも通えるのでどうにかなるかなって」
「僕がいるから大丈夫だよ!」
スノウがいきなり会話に入ってきた。
「おお、そういえばスノウがいたな」
「うん!僕なら生活魔法から攻撃魔法まで使えるからね!」
「生活魔法は本当に助かるなー、ありがとうスノウ」
私はスノウに抱きついた。
スノウはうれしそうに尻尾を振っている。
「じゃあ、明日からさっそく始めるか!まずはお嬢ちゃん……セレナの身体能力をみないとな。やるからにはビシバシいくぞ!」
「望むところです!よろしくお願いいたします!師匠!」
私は後日、あまりのスパルタに師匠にお願いしたことを少し後悔するのであった。




