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11話 穏やかな日々

バルド師匠との特訓が始まり、もうすぐ1年が経つ。

雪解けも終わり、春がやってきた。

そろそろ、森の中での訓練もできるかもしれない。


バルド師匠との訓練は、主に体術がメインだった。

剣は騎士団の訓練で毎日素振りはしてるけど、対人をするにはまだ小さすぎて相手がいないのだ。

それに技を覚えるにしても、もっと体幹を鍛えて大きくなってからのほうがいいのではないかという話になった。


なので、私の最近のルーティーンは、

早朝にお姉様含め騎士団のみんなとランニングをして、素振りをひたすらする。

終わったら、朝ごはんを食べて、バルド師匠のところに行く。


もちろん、バルド師匠のところに行くまではダッシュで行く。これも訓練のひとつ。

ウォーミングアップが終わったところで、本格的にバルド師匠と体術の訓練をする。

最初は転がされてばっかだったけど、最近はだいぶバルド師匠の攻撃が見えるようになってきた。


それにしても、この体は本当に優秀で、

訓練はめちゃめちゃきついけど、教えてもらったことはすぐ吸収できるのだ。

この体に産んでもらったことをお母様に感謝した。

まあ、魔法は使えないけどね。


小さいころからやりすぎても体に支障がでるとのことで、二日訓練したら1日休むというサイクルになった。

この世界も日本と同じで、1週間は7日なのでわかりやすくてありがたい。


休みの日はカタリーナ叔母様からきた課題という名のバイトで、服や小物のデザインをやっている。

お姉様たちのドレスのデザインをしてから、叔母様からちょくちょく依頼がきてる。

勉強にもなってお小遣いにもなるなんて最高である。



そんな日々を過ごしてたらとある夕食時にお父様から話があった。

「1ヶ月後くらいに王都から第二王子のエリアス・ルシアン・カランドール殿下がうちにやってくる」

「視察とかですか?」

リヴィアお姉様が尋ねた。


ちなみに、カイエルお兄様は今年の春からカランドール王立魔導学院に通っている。

カランドール王立魔導学院も全寮制なので、今ここにはいない。


「いや、療養だな。」

「どこかお体の具合が悪いのですか?」

「そういうわけではないようなのだが、根も歯もない噂が消えなくてな、少し心が弱ってしまい、籠りがちになってしまっているようなのだよ」

なるほど、精神的なやつか。

それなら、わたしの光魔法は関係なさそうだな。


「なんで、またうちにくることに?まさかセレナの治癒魔法目当てとかじゃないですよね?」

お姉様が怪訝そうな目でお父様をみている。


「セレナの魔法のことはレオニス陛下にも話していないからバレてはいないはずだ」

「それなら安心しました」

「お姉様、私の治癒魔法は精神的なものには効きませんよ?」

「セレナの魔法は計り知れないからね〜」


お姉様はこういってるけど、さすがに無理よ。たぶん。


「エルナード領はこれから暖かくなり過ごしやすくなるし、貴族の目も少ないので療養にいいのではないかと、陛下から相談があったのだ」

「そういえば、お父様、陛下と元々ご学友でしたっけ。つまり押し付けられたのですね」

「そ、そんなことはない。相談の上、お願いされたのだ」


それを世間では押し付けられたと言う。


「まあ、来ることは決まっているのですし、急いで部屋など準備せねばなりませんね。何部屋用意すればいいのでしょう?」

お母様がパチンと手を叩き、お父様に聞いた。


「3部屋で大丈夫だ。エリアス殿下と側近と護衛ひとりだ」

「え、王子がくるのですよね?少なすぎませんか?」

「どうも、信用できるものが少ないみたいでな。側近も護衛も腕が立つそうで問題はないみたいだ」

「まあ、こちら的にも人数が少ないのはありがたいですね。明日からさっそく用意したいと思います」

「よろしく頼む」


王子ってもっとずらずらと護衛とかつけてるものだと思ったけど意外だな。

そういえば、何歳なんだろう?


「お父様、エリアス殿下はおいくつなのですか?」

「そういえば言ってなかったな。現在は9歳で冬には10歳のはずだ」


けっこう年近いんだ。

9歳で心が病んでるって、王宮ってそんなやばいところなんだな……。

まあ、私が行くことはなさそうだけど。


「リヴィアとセレナは年が近いし、仲良くやってくれると助かる」

「ちなみにどのくらいこちらにいる予定なのですか?」

「んー、そうだな、どのくらいで回復するかにもよるのだが、13歳にはカランドール王立魔導学院に通われると思うから、長くて2年くらいかもな」


2年も!長っ!

これ、仲良くなれなかったら最悪じゃん。

まあ、合わなかったら、私はバルド師匠のとこにでも避難しよーっと。


「私も来年には入学準備で忙しくなるだろうから、王子の相手はセレナに任せた」

「ええ、お姉様、ずるっ!」

「ずるくないしー。カランドール王立魔導学院に入学するのに勉強もしなきゃならないんですー」

「お姉様なら余裕だって、サイナス先生言ってたの聞いてるし!」

「剣と違って、魔法はまだまだなのよ」


お姉様、ずるー。

王子の相手なんて、面倒なことしかないじゃん。

しかも、同年代の男の子と話したこともほとんどないのに。


「はいはい、そこまで。とりあえずいらっしゃたら、みんなでお茶会でもしましょう。それで様子を見ればいいわ」

「「はーい、わかりました」」

お姉様と私はしぶしぶ返事した。


「それにしても、普通王子が来るっていったら、令嬢としてはもう少し喜ぶところじゃないのか?」

「まあ、うちの子は剣ばっかりで色恋とかにまったく興味ないようですしね」

お父様とお母様がやれやれと顔を見合わせた。


「私は将来、グランフェルを継ぐので王子には一ミリも興味ないですね。それに部屋に引きこもっているなら、細そうですし……私は自分より強い人がいいですね!」

お姉様がぐっと拳を握って答えた。


「私も将来は、ここでお姉様の補佐か、カタリーナ叔母様のところで働きたいので、王子には一ミリも興味がわきません……。それに聞いてると王宮ってとてもめんどくさそうで……」

私は顔に手を当てながらしみじみ言った。


「うちの子らは、なんでこんなマイペースに……」

「私とあなたの子ですもの、仕方ないんじゃないかしら?」


お父様とお母様は貴族だけど恋愛結婚だったらしいからね。

一家揃って、自分のしたいことを貫き通す遺伝子を持って生まれてしまったようだ。


「そういえば、スノウ」

お父様が、私の足元で寝ているスノウに声をかけた。


スノウは基本どこに行くにしても、ずっとくっついてくる。

訓練中はもちろん、寝る時も一緒、お風呂も一緒に入るし、食事も一緒に食べるわけじゃないけどベッタリだ。


お父様の言葉に、スノウは寝ていた体を起こした。

「なに?」

「さっきの話は聞いていたと思うが、王子が来たら王子たちの前では話さないように」

「なんで?」

「アッシュウルフは普通話さないからな」

「あー、話したらフェンリルってバレちゃうかもしれないからか」

「そうだ、今の王家が強引に奪うなんてことはまずないだろうが、噂になれば他の貴族がどう動くかわからん」

「わかった、気を付ける。セレナから強引に引き離そうとしたら殺しちゃいそうだし」


この子、さらっと怖いこと言うなー……。

1年ほど過ごして、この子って実は腹黒なのでは?と思うことがちらほらある。

私の前ではめちゃめちゃ良い子ぶってるけど。

今は寝起きで素がちょっと出ちゃってるし。

私が離れると、ツンッとして愛想の『あ』の字もない瞬間を何度か見かけて気づいた。

まあ、悪さしなければいいやと傍観してるけど。


「スノウ、いろいろ気使わせちゃうけど、よろしくね。王子がいないときはゆっくりおしゃべりしよう」

「僕はセレナのそばにいれたら大丈夫だよ!」

膝に顔を乗せて上目遣いしてくるあざといワンコである。

私もついつい撫でちゃうのがいけないんだけど。

いつも一緒にお風呂に入っているせいか、毛並みはツヤツヤでふわふわだからついつい触りたくなっちゃうんだよね。


とりあえず、王子の前では少し気を引き締めておかないとね。

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