2023/11/25
4848.
「なぁ、有働」
「え、何? 話しかけないで」
「何でだよ! 休憩時間ぐらいいいだろ!」
「どうしてせっかくの休憩を満月君との話に潰さなくちゃいけないの?」
4849.
「いやっ、お前っ、休憩だからに決まってるだろ?」
「ハッキリ言って、満月君と話すと疲れるから休憩にならないんだけど」
「俺は休憩になるんだ。だから付き合え」
「ふざけてるの?」
4850.
「冗談はこれくらいにして、本題に入ろう」
「ジョークだけで終わってくれた方がまだマシなんだけど」
「それこそ冗談じゃない。俺が意味もなく話を振ると思ってるのか?」
「思ってるわよ。満月君の話99%以上無意味じゃん。イレブンナインの純度よ」
4851.
「なんだよイレブンナインって」
「99.999999999%、って感じで9が11個並ぶほど100%に近いってことよ。バイトとは言え世界サバ・フィル・ハーモニー系列に身を置く者でありながらそんなことも知らないの? 小学生からやり直して」
「絶対小学生で習わないだろ今の! あとなんでサバハーモニーの常識みたいになってんだよ」
「え、常識でしょ? サバは魚類。イレブンナインは9が11個」
4852.
「いやそれを同列で語らないでくれないか?」
「なってないわねぇ。そんなことじゃキャリアアップなんて望めないわよ? 一生バイトのままでいいの?」
「それは良くないがサバハーモニーの正社員になることはもっと良くないと思うんだ」
「え・・・満月君が急にまともなことを言い出したんだけど・・・」
4853.
「おいふざけるな。俺はいつだってまともだ。不出来な妹とは違ってな」
「ぶっちゃけ傍から見てたらよくできた兄妹だよ。血は争えないんだなって」
「おい今の絶対悪い意味で言っただろ!」
「今の皮肉を理解するだけの脳ミソはあったみたいだね。言葉には気を付けないと」
4854.
「ナメやがって・・・てかお前サバハーモニーのヤバさを知っておきながらキャリアアップなんて目指してんのかよ」
「当たり前じゃん。日本トップクラスの年収なんだし。裏では文字通りに裏金回しまくってるぐらい何のことはないわ」
「お前も十分ヤベぇよ・・・」
「そんなこと言ったら裏金の先なんて大体お役所なんだし、公務員になっても一緒だよね」
4855.
「裏金は、渡すも悪だし受け取るも悪。だったらさ、法律を守んなきゃいけないはずの公務員よりは民間企業の方がいいじゃん?」
「民間企業も法律は守らないといけないからな?」
「え・・・満月君そんなこと意識しながら生きてるの? 本当に苗字満月なの?」
「ウチの家系を法律ガン無視上等みたいに言わないでくれないか? 妹だけだから」
4856.
「第3冷凍貯蔵施設に送られたことあるクセによく言うよね」
「だから正式名称で呼ぶな。あそこは冷凍庫、あるいは冷凍収容所だ。幹部ですらそう呼んでる。あとあれは不慮の事故だ。俺が崇のヤツにそそのかされてコンビニクレーム入れに行ったら崇の罠で殴り込む先を間違えてハーモニーとの事業提携の話をオジャンにしただけだ」
「よくわかんないけど世界サバ・フィル・ハーモニーと小売大手の事業提携をオジャンにしたなら重罪だよね。ちゃんと法律の勉強してる?」
「絶対法律関係ないだろ今の話!」
4857.
「何を言ってるの? 世界サバ・フィル・ハーモニーで働いてるなら、サバが法なの。私たちが守るべきは国が決めた法律じゃなくて社則なの。それが全てなの。サバを前には日本国憲法ですら意味をなさないの」
「企業は国に属してると思ってたのは俺の間違いだったのか?」
「間違いじゃないわよ、建前上はね。だけど、サバの素晴らしさをより多くの人に届けるという理念より法律を優先することは、間違いなの。だって、法律さえ破ればもっとサバの素晴らしさを届けられるかも知れないって時に、良心と葛藤するなんてバカみたいでしょ?」
「ほんとに正直に法律守るのがバカみたいに思えてきたぜ・・・」
4858.
「分かるでしょ? ここでは、いかにサバに貢献するかが全てなの。事業提携の話を潰しておいて生きて帰って来れたのはお嬢様の恩情よ。同じ学校で良かったわね。普通なら高校生だろうと永遠の無償奴隷労働よ」
「マジであの2週間地獄だったからな?」
「“冷凍庫”なのに?」
「お前ぶん殴るぞ?」
4859.
「とにかく、高収入に目が眩んで世界サバ・フィル・ハーモニーに身を置くのも、それ相応の覚悟ができた人だけなのよ。いかにして頭をプッツンさせて“サバの素晴らしさを届ける”に全てを注ぐことができるかなのよ」
「もしかしてサバハーモニーって頭プッツン集団なんじゃないのか?」
「当たり前でしょ? それができた人だけが入って来るんだから。ま、一部ガチの精神操作に掛かって洗脳されちゃった人もいるけどね」
「あの服部家のように・・・」
4860.
「ところで、私に何か話があったんだっけ?」
「ああ、もういい・・・駅前にできたカフェの話題でも振ろうと思っただけだしな・・・何より、疲れた・・・」
「分かったでしょ? ワケわかんないことばっか言う人と話すのは疲れるの。 さ、休憩終わるし頭切り替えて死んだサバと見つめ合いに行くわよ」
「頭切り替えに・・・なんねぇよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!! プッッツンンンンンン!!!」