2023/10/28
4827.
「ん? お前は・・・明星か。どうした、こんなところで」
「谷崎先生・・・! 奇遇ですね。どうしたもこうしたも、カレーうどんを食べに来ただけですよ」
「ここは良いよな。サバフレークが入ったカレーうどんが380円。公務員の味方だ」
「公務員が貧しいこと言わないでくださいよ・・・」
4828.
「・・・どうした? さっきから厨房の方を気にして」
「しーっ、静かに。見てください、あそこに美々香のお兄さんがいるんです」
「満月の兄だと? 確かにいるな・・・ここでバイトしてたのか。それがどうかしたのか?」
「説明不足でしたね。あっちの女も見てください。お兄さんのバイト仲間で、お兄さんをつけ狙う悪い虫です」
4829.
「“悪い虫”って・・・とても満月兄に気があるようには見えないが?」
「何を言ってるんですか。女は気のないフリをして気を隠すものなんです」
「明星は隠してるようには見えないが?」
「隠す人種もいるんです。あの地球人のように」
4830.
「そもそも、満月兄のどこがいいんだ? あの満月の兄だぞ」
「そこが一番重要なんじゃないですか。“美々香の兄”でなければ、あの人に価値なんてありません」
「全く意味が分からんのだが・・・」
「男の人には分からないのかも知れませんね。仕方のないことですが」
4831.
「お待たせしましたー、って、あれ? 確か満月君の妹さんの友達の・・・」
「明星みずきです。ライバルとしてどうぞよろしく」
「ライバル? 何の?」
「いえ、あなたがそういうスタンスを取るのなら、別に」
4832.
「?? まいっか。それじゃ、ごゆっくりー」
「ええ、ゆっくり拝見させていただきますよ、あなたが変な気を起こさないようにね」
「やだなー、サボったりなんてしませんよー?」
(やっぱ満月君の知り合いって変な子多いなー)
4833.
「じゃ、私カレーうどん来たんで先生代わりにあいつを見張っててください」
「何でだよ。というか全く満月に気なんかないだろあの様子じゃ」
「で・す・か・ら、男の人には分からないでしょうけど、あれは絶対狙ってますって。だって下の名前が恋を紡ぐと書いてコムギですよ? バイトにも恋を紡ぐために来てますって」
「その理屈で言ったら学校でも恋を探していいだろあの子は」
4834.
「とにかく、あの女を見張っててください。もし不純異性交遊があるなら、教師として見過ごせないでしょう?」
「今日は休みなんだが」
「公務員が何を言ってるんですか」
「公務員を週末に働かせるな」
4835.
「まぁ、カレーうどんが来るまで暇だから構わんが」
(明星と話すのも疲れるし・・・)
「ふむ、さすがはサバハーモニー系列なだけあって安定して美味しいわね」
(何を普通に味わってるんだこいつは・・・)
4836.
「うん、しょっ」
サササッ。
(あの有働とかいう娘、かなりテキパキと仕事をこなすな。優秀だぞあれは。一方の満月兄は・・・)
「あー、だりー」
4837.
(あれは、最低限だけをこなして時間の経過を待ってるな。我が校の生徒ながら情けない。見ちゃおれん)
スッ、サッ、スパッ。
「よーしいっちょ上がりー。次―」
(あの娘、魚をオロすことさえお手の物か。他校生徒なのが惜しい。いやしかし世界サバ・フィル・ハーモニーの系列で活躍できるなら・・・)
4838.
「先生、どうです? あの女がお兄さんにちょっかい出したりしてないですか?」
「ああ、真面目に働いてるぞ。その満月兄よりも、よっぽどな」
「そうですか、なら良かったです」
「自分の意中の相手が仕事で負けてるを少しは気にしろよ・・・」
4839.
「ほい、はい、ほいっ♪」
(それにしてもあの娘、本当に凄いな。明星が心配するまでもなく、満月の兄なんかに寄り付くはずがない)
サッ、スパッ、ソアッ!
(くっ、ここまで来ると民間企業に取られることすら惜しい・・・教師として活躍する道を選んではくれぬだろうか)
4840.
ガラララッ。
「警察でーす」
「なんだと?」
「警察? あらゆるところに賄賂を贈ってるはずのサバハーモニー系列店にガサ入れなんてあるはずがないのに」
4841.
「あらゆるところに賄賂を贈ってるからガサ入れが来たんじゃないのか?」
「・・・あなたですね? 飲食店の女子高校生従業員をじっと見ているという中年男性は。通報がありました。署までご同行願えますか?」
「は・・・!? いや、ちょっ・・・!!」
「谷崎先生・・・谷崎先生ーーーーーーーーー!!」