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2023/10/09

4748.


「兄よ!」


「妹よ!」


「・・・せーのっ」


「「コンプライアンス!」」



4749.


「サバハーモニーがこれを軽視することで業績が伸びているものといえば?」


「決まり切ってるよな」


「・・・せーのっ」


「「 コ ン プ ラ イ ア ン ス !! 」」



4750.


「友よ!」


「何?」


「みずきもどうぞご一緒に? せーのっ」


「「 コ ン プ ラ イ ア ン ス !! 」」



4751.


「・・・黙って聞いていれば、当社がコンプライアンス遵守を放棄することで好業績を維持しているみたいな言い方はやめてくださいませんか? 否定はできませんが」


「じゃあせめて否定できるようになってから言ってくれないか?」


「嫌ですわよ。企業活動を犠牲にしてまで社会的倫理を守れだなんて、どういった倫理教育を受けてきたのですか?」


「お前らの方がどんな倫理教育を受けてきたんだよ」



4752.


「はぁ。これだけは言っておきますけどねぇ、美々香さん。コンプライアンスというものは、人類の発展を阻害するものでしかないんですのよ?」


「大企業の社長令嬢が何言ってんだよ」


「人間社会の真理です」


「まぁ合ってることは否定しないけどな」



4753.


「そうでしょう。当社の平均年収1200万というのも、冷凍収容所やインド洋漁船などで囚人をタダ働きさせていることで実現しているのですから」


「タダ働きさせられた俺としては身に染みるぜ・・・」


「冷凍庫は犯罪にならない程度のやらかしでも送られるからな。その上サバハーモニーともなれば警察署ともズブズブだからガチの囚人も大量に手に入るし」


「本当に倫理って、どこにあるのかしらね・・・」



4754.


「そんなことですか。庶民から見えないのも無理ないことですが、コンプライアンスなんて自己保身しか考えていない責任者が下々の構成員に押し付けているだけであって、当の責任者は下々からは見えない場所でアレやコレやとやっているものです」


「マジで従うのがバカバカしく思えてきたな・・・」


「ルールを作る側は特例として従わなくていいとされている世の中だからな」


「むしろサバハーモニーの方が潔くていいとすら思えてしまうわね・・・」



4755.


「当社は従業員の多少のコンプライアンス違反にも目を瞑りますからね」


「マジでふざけんなよ・・・」


「そんなものを気にしていたら、誇張抜きで開発スピードが半減してしまうんですもの。生産や営業の業績にしても無視できないほど落ちるでしょう。社員のモチベーションにも関わります」


「さすがは裏で、“めんどくさい縛りがなくて働きやすい”と評判になってる会社は違うわね・・・」



4756.


「多くの方にサバをお安く提供し、サバを愛していただくことが当社の理念ですから、長時間労働、情報漏洩、ボヤ騒ぎぐらい、年に一度なら何だという話ですわよ」


「こいつらのニクいところが、法律違反クラスの残業代も全部しっかり出してるんだよな」


「役所に怒られてもカネで解決してるから炎上したことすらねぇし」


「社員も近隣住民ももう分かってて放置してるところあるわよね」



4757.


「トラブルのリスクを徹底的に排除することに人員や予算を割くよりも、何かあった後でお金で解決した方が安上がりなんですもの」


「正直者がバカを見るとは正にこのこと」


「実際におバカさんだと思ってますわよ? 手間にならない程度の対策でも年に一度起こるかどうかというトラブルを、十年に一度にするためにウンウン唸って策を巡らせるだなんて」


「で、やらかすトコは徹底対策しててもやらかすからな。哀れなもんだぜ」



4758.


「わたくしに言わせれば必然ですけれどね。大抵のトラブルはケアレスミスから起こるものです。リスク排除を直球でやるような策なんて現場を無視した非効率なものですから、それで従業員がイライラ、その良くない精神状態のもとで余計に作られた手順を急いでやろうとすると、どうなるかは考えなくても分かることです」


「で、サバハーモニーはそこまで考えた上でコンプライアンスを無視してるのか?」


「まさか。単純に“コストの無駄”、これが全てですわよ」


「フッ、だろうな」



4759.


「ちょっとなんで美々香まで納得してるのよ」


「いや、実の兄が言うのもアレだが、美々香がコンプライアンスを重要視してたらその方が気持ち悪いぞ」


「心配すんなよみずきに兄も。天下の世界サバ・フィル・ハーモニーですらコンプライアンスは無視して構わんと言ってるんだ。今更私らもそれに乗っかって何になる?


「まぁ、当社以外の有象無象が同じことを言おうものなら非難を浴びることになるでしょうけれどね」



4760.


「少しぐらい感謝してくれてもよろしいんですのよ? この学校の食堂にしても、年に1人が食中毒になってしまうのを許容することでお値段を抑えられているのですから」


「オイ今なんつったよ」


「お気になさらず。集団食中毒にでもならなければ問題ありませんので」


「だからそれが問題発言だっつってんだろ?」



4761.


「何ですか美々香さん、先ほどは当社の方針に賛同頂けたはずですのに」


「いやフザけんな。テメェらが放置してるリスクが自分の身に及ぶってんなら話は別だ」


「ですが、年に1人の食中毒を十年に1人にしようとすると、お値段が30%ほど上がってしまいますわよ?」


「おいフザけんな! 上げすぎだろ!」



4762.


「先ほどから言っているではありませんか。リスクを減らすというのはそういうことです。年に10人から年に1人にするのは数パーセントで済みますが、そこから更に1桁となると、相当な手間になってしまうのです」


「おのれ、コンプライアンス・・・!」


「そう思っているからこそ、わたくしどもは年に1人の食中毒を許容しているのです。気付かれませんよ、1000人が通う学校の、お昼の1食だけですから。食中毒になったにしても、どこで食べたものが原因かなんて分かりっこありません」


「1000人いて年に1人って、いいバランスだったんだな・・・」



4763.


「考えてもみてくださいまし。年間の登校日数を300と考えても、1000人いれば30万食。そのうち1食だけがハズレなのですから、30万分の1ですわよ? 利用者の多いアミューズメント施設なら価格を吊り上げて食中毒を減らしますが、公立高校の食堂なんてこの程度で十分です。体質的に胃腸が悪い方などがいると対策しても無駄ですし、そういった方は食中毒を疑いませんからね」


「確かにそもそも腹壊す時は壊すしな。しっかし、何百万食と作って食中毒を一切出しませんって、めちゃくちゃ難しそうだな」


「特に、アルバイトで回しているところは雑なことをされる恐れもありますからね。当家の系列は時給が弾みますからそんなことはさせませんが」


「お前んとこはバイトに生魚すら調理させるじゃねぇか・・・」



4764.


「俺も日頃サバをサバいてて思うが、よく食中毒騒ぎにならんもんだぜ。マニュアル通りやってるとは言え、ちょっと生焼けで出しちまってないか心配になることあるんだよな」


「お前フザけんな?」


「実際にお腹壊したとして、たまたま行った外食が原因かは分からないでしょうからね。それこそ何人もなったりしない限りは」


「そう言われると逆に、集団食中毒とかなったトコは何やってんのか気になるな」



4765.


「どうせ、コスト削減のためとか言ってお粗末なことをしているのでしょう。省くべき手間を間違えると、当然そうなります」


「コンプライアンスを無視するにも、守るべきものとそうでないものを見極めろってことか」


「守らなくてもよいものまで含めて全部、優先度すら付けずに守らせようとするおバカさんが責任者にいるから、塵も積もってコストが嵩んでしまうのですよ」


「文字通り、ゴミみたいなルールを作ってな」

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