2023/10/14
4766.
「しかし、なぜ人はコンプライアンスを求めるようになってしまったのか」
「え、まだその話続けるんですの?」
「当然だろ? 人はコンプライアンスに生きる生き物なんだから」
「わたくしはそうではありませんけれど」
4767.
「すごいわね、大企業の社長令嬢がこれを堂々と言ってのけるなんて」
「フッさすがだ。まぁコンプライアンスなんて邪魔臭ぇだけだしな」
「全くだ。バイトの身でしかない俺ですら体感してしまうレベルだからな」
「あれ・・・実はこの中でバイトすらしたことないのって私だけ・・・?」
4768.
「どうだみずき、お前もコンプライアンスの窮屈さを味わいたくなってきただろ?」
「味わいたいか味わいたくないかで言えば味わいたくはないけどね?」
「心配すんなよ、そのうち嫌でも味わうことになるから」
「それだけは分かってるのが切ないわね・・・」
4769.
「よし本題に入ろう。ズバリ、なぜ人はコンプライアンスを求めるようになってしまったのか。ズバリズバリ! 私はネット社会が犯人だと思っている!」
「一理ありますわね。当家はともかく、ネットの声というものに邪魔をされている責任者は多いでしょうから」
「炎上ひとつで不買運動、謝罪会見、総辞職・・・くっくっく、名ばかりの役員で無駄に報酬もらってる奴が引きずり下ろされる瞬間は最高だぜ!」
「きっと、美々香みたいな奴がネットで騒ぎ立てるんだろうな」
4770.
「だが、バイトをしてみて気付いてしまった・・・コンプライアンスというものは、末端従業員を苦しめる!」
「けっ、自分に返ってきてんなら良い気味だぜ」
「なのに、何故なくならないんだ! 無駄に騒ぎ立てて責任者を追い詰める奴が! 1人2人を引きずり下ろすことはできても、他にも山ほどいる責任者が警戒して下々の民にアレやコレやを押し付けてくるではないか!」
「どうせいつまでも親のすねかじりしてるニートでしょ? 安全圏から、責任者を叩くと同時に下々の労働者を苦しめることもできる・・・美々香だって玉の輿に成功したら同じことをするはずよ?」
4771.
「いいことを言うじゃないかみずき。これは、玉の輿に対するモチベーション爆上がりだな」
「そこに至るまでの労働環境も少しは気にしたらどうなんですの・・・現役のニートさんの行いで数年もあれば労働環境なんて随分と悪くなりますわよ?」
「サバハーモニーはそうはならないんだろ?」
「美々香さんは雇いませんけれどね」
4772.
「とか言いながら傘下の牛丼チェーンで働かせてくれてんじゃん?」
「牛丼屋さんで玉の輿に乗れるとはとても思えませんけれど」
「そこはさ、ほら、サバハーモニー社員を融通してくれよ。年収1200万でも我慢してやるからさ」
「年収1200万がどれほどの優良物件か分かってるの美々香は?」
4773.
「いや1200万とかザコだろ。下手すりゃ共働きさえも必要になる。悠々自適な主婦生活、もといニート生活を送るには最低でも2000万はなきゃな?」
「なんでわざわざ“ニート”って言い直したんだよお前・・・」
「憧れの職業なのでしょう、きっと」
「そもそもニートって職業なの・・・?」
4774.
「とは言えど、確かにいつまでも牛丼屋じゃ玉の輿は無理だし、私が働きに出る頃には今より労働環境が悪いのか・・・牛丼屋もサバハーモニーに買われるまでは大変だったんだぞ? マニュアル通りにやんなきゃ火傷した時に教育受けさせられるし、マニュアル通りやって火傷したら余計面倒な手順が追加される・・・どうすれば良かったんだよ私は!」
「働かなきゃ良かったんじゃないの?」
「そうなるだろうが!! だからニートを目指すんだよ!! ちなみに私は、火傷しても黙ってて自分の家でやらかしたことにしてたぜ」
「それは今でも続けてくださいね? 業務上災害を報告されると面倒なので」
4775.
「ほらな? 火傷とか手ぇ挟む程度のものなら、揉み消した方が得策なんだよ。なんなら骨折すらその日は耐えて自分の家でコケたことにしてやるぜ」
「その意気です美々香さん。耐熱手袋の義務化や階段のひとつ飛ばし禁止なんてルールを増やしたくはありませんからね」
「私、コンプライアンスって実は大事なんじゃないかと思えてきたわ・・・」
「奇遇だな、俺もだ」
4776.
「言うて年に一度はどっかの事業所で消火器使う事態になってるサバハーモニーが怪我人程度でルールを増やすのか?」
「ルールを増やすか、お役所をお金で黙らせるか二択に迫られます。こちらとしても無用な出費は避けたいですから、絶対に報告なんて上げないでくださいね?」
「全部カネで解決してきてんじゃねぇか・・・まぁサバカレーうどん専門店で働く身としてもルールを増やされたくはないが」
「なんだか、コンプライアンス強化の声がかえってコンプライアンス無視の精神を呼び起こしてる気がしてきたわね・・・」
4777.
「その通りだみずき。世は、コンプライアンスを求めすぎた。コンプライアンス遵守を徹底させようとする行いそのものが最早コンプライアンス違反! いやコンプライアンス・ハラスメントと言ってもいいだろう!
人々がコンプライアンスを求めなければ、揉み消す必要もなく労災認定されて治療費を会社からもらえるはずなんだ! 働いた分だけ残業申告できて収入も増えるはずなんだ! 情報漏洩もバリバリオッケーで個人情報も企業秘密も知りたい放題なはずなんだ!!」
「最後のはおかしくない?」
「おかしくないですわよ? 同業他社や、あまり関係のない業種に送った密偵から得られる情報も非常に有益ですし、名だたる人物はもちろん一般庶民の個人情報も使い道はたくさんありますから」
「だめだ、サバハーモニーからすれば私たちにとっての常識がおかしいんだ・・・」
4778.
「分かっただろ? コンプライアンスは悪だって。ニートはともかく、将来就職するであろう普通の若者ですらネットでの批判に興じるなんて、自滅もいいトコだぜ」
「まぁ当家の場合、当家の都合のいいように社会を動かすためにチンピラにお金を渡して炎上騒ぎを起こすこともありますけれど」
「それは“普通の若者”じゃないだろ・・・」
「いやそれよりも聞き捨てならない発言があったと思うんだが?」
4779.
「別にサバハーモニーがサクラ使うなんて今更驚くことでもないだろ」
「というか、過去にチンピラを使ってどんな風に社会を動かしたのかが気になるわね」
「業務上災害や情報漏洩、集団食中毒などのトラブル1つから問題に発展しやすくして、あらゆる組織がコンプライアンスに力を入れざる得なくなり本来の生産活動とは関係ないところに労力を割かせて当家が1人勝ちできるようにしました」
「「「 ぜ ん ぶ サ バ ハ ー モ ニ ー が 悪 い ん だ !! 」」」




