2023/07/08
4635.
「みずきさん、とうとう気付いてしまったのですね」
「ええ」
「美々香さんのお兄さんの好みが“凛々しい剣のお姉さん”であることに・・・!」
「ええ・・・!」
4636.
「まさか、お兄さんがそんなことになっていたなんて。年下のプリンセスキャラに現を抜かしていたあのお兄さんはどこに行ったの?」
「そっちはそっちで問題があるの思うのですが・・・それで、わたくし呼び出してどうすると言うんですの? 正直、あまりお力にはなれないと思いますけど」
「まず、質問に答えて欲しいの。なるとするなら、年上のお姉さんか剣士のどちらがいいと思う?」
「どちらかになれると本気で思ってるんですの?」
4637.
「え、だって、剣は世界サバ・フィル・ハーモニーなら海賊と伝手があるでしょうし、歳も数年程度ならいける薬を作ってるでしょう?」
「当家を何だと思っているのですか。剣なら何とかなりますが薬の方は無理ですわよ」
「え、嘘!? そっちが本命だったのに!」
「みずきさんの方こそ嘘でしょう?」
4638.
「信じられない・・・天下の世界サバ・フィル・ハーモニーともあろうものが、歳を取れる薬を開発してないなんて」
「開発しているのは若返りの方の薬で、それも難航しているのです。そうやすやすと出来るものではありませんわよ」
「そう・・・じゃあ剣士になるしかないのね」
「それも簡単ではありませんからね?」
4639.
「“簡単じゃない”ということは、無理でもない。つまり私は、凛々しい女剣士になるしかないのよ。お願いだから手伝って」
「無茶を言わないでくださいまし。だいたい、みずきさんが世界最強格の女剣士になれたとして、涼太さんの心を揺さぶられると思いますか? 年下という最大の問題を解決していないのに」
「大丈夫よ。世界のどこかに、1日で1年分の修行ができる場所があるから。そこで2日過ごせば最強の剣士にも年上にもなれるわ」
「さっきの薬の話は何だったんですの?」
4640.
「え、そりゃ、だって、その修行場所、どこにあるか分からないし」
「そんな状態で先ほど“大丈夫”だと言ったのですか?」
「ん? そりゃ、だって、世界サバ・フィル・ハーモニーなら何とかなるでしょう?」
「もうわたくし帰ってもよろしいですか?」
4641.
「待って! 待って待って。今のは冗談だから」
「全部冗談であって欲しかったですわよ。なんならみずきさんが涼太さんのお嫁さんになりたいと仰っていることさえも」
「それは一歩たりとも譲れないわね」
「それに限らずこれまでの会話でみずきさん一歩も譲歩などしておりませんからね?」
4642.
「譲歩ならしたわよ。お兄さんの年上になることを諦めたわ」
「・・・それで、剣ですわね? 剣もですが、修行の場も提供できますわよ。実際に海賊船で1年も過ごせば剣の腕も上達し、それなりに凛々しい女性になることでしょう」
「え゛、でもそしたら1年もお兄さんに会えないじゃない」
「お願いですから少しは譲歩する姿勢を示してくださいませんか?」
4643.
「うーん・・・あっちもこっちも手詰まりね・・・」
「そもそもが、年上になるか剣士になるかですからね・・・」
「あ、そうだわ! 若返りの薬は作ってるんでしょう? それをお兄さんに飲ませれば私の方が年上になれるわ!」
「開発に難航していると言ったはずですが・・・それに、涼太さんがみずきさんより年下になったら美々香さんよりも年下。仮に結婚できたとしても義理の妹になってしまいますわよ?」
4644.
「そ、んな・・・! 答えはないの・・・!?」
「諦めてはどうです。これはご本人には失礼ですが、あまり涼太さんが素敵な殿方とは思えませんわ」
「そこは問題じゃないの。美々香の義姉になれるかどうかが全てなの。そのためなら何だってするわ」
「だったら1年間海賊船に乗ってくださいませんか?」
4645.
「待って。待って待って。海賊船はナシで。ほら、私、普通の高校生だし、こんな軟弱な体だし。海賊になるよりはお兄さんより年上になる方がよっぽど現実的よ」
「そちらの方がよほど不可能だとわたくしは思うのですが?」
「この際、可能か不可能かなんて関係ないの。目的を達成できるなら」
「みずきさんの辞書で“不可能”という言葉はどう説明されているのですか?」
4646.
「こうなったら、最後の手段しかないわね・・・」
「これまでの手段も相当に無理のあるものだったのですが」
「コスプレするわよ。その、凛々しい女剣士キャラに」
「急に現実的な手段を持ち込まないでくださいませんか?」
4647.
「だってしょうがないじゃない。サバ令嬢さんがあれも無理これも無理って言うから」
「海賊になるのを無理と言ったのはみずきさんですからね?」
「こうなったら意地でも凛々しい女剣士になりきってお兄さんを振り向かせてやるんだから。あとサバ令嬢さんにはプリンセスの方のキャラになってもらいましょう」
「なんかわたくしもやる流れになってるのですがもう色々と疲れて思考が回らなくなってきましたわね・・・」
4648.
ガララララッ。
「こんにちは」
「よぅみずき、遅かっ・・・てお前どうしたその恰好!?」
「そっ、それは、まさか・・・校長先生・・・!!」
4649.
「え、どうしたんですか満月先輩。うちの校長は50代の男性ですが」
「バカ服部。これはとあるゲームのキャラクターなんだ。何故それが分からない!」
「いや知りませんよそんなの・・・」
「で、中身はみずきか・・・兄の好みをリサーチして来たワケだな」
4650.
「くっ、なんという完成度・・・くっ、おぉ・・・っ!」
「おいおいオイオイ? 想像以上に効いてんぞ? これイケんじゃね?」
「くっ、バカな・・・! 待て、相手は年下だ。相手は年下アイテハトシシタ相手は年下・・・しかも崇の妹タカシノイモウト崇の妹・・・」
「自己暗示に走りやがったぞこいつ」
4651.
「しかしこりゃ傑作だな。写真でも撮ってみずき兄に送ってやろう」
「待て美々香! 自分の妹のコスプレを見せられる兄の気分にもなってみろ!」
「だから送るんだろうが。あいつの歪んだ顔が目に浮かぶぜ」
「妹としてもそれは想像したくないわね・・・」
4652.
「あー・・・喋るとみずきだな。お前今日黙ってた方がいいぞ?」
「しょうがないでしょ。そもそもこのキャラクターの声聞いたことないんだから」
「せっかくだから今日1日それで兄のやつに接待でもしたらどうだ?」
「そのつもりよ。そのために着て来たんだから」
4653.
「待てやめろ崇妹! その姿であいつの妹に接待されたら俺のメンタルが滅ぶ!」
「そのためにやるんですよお兄さん。思考を停止させてもいいですからね」
「なんて恐ろしい奴なんだみずき・・・それで脳死させて婚姻届にサインさせるつもりか。にしてもどんな気分なんだろうな。絶対に結婚したくない相手が、好みのキャラの姿で接待してきたら」
「やぁめろぉぉぉぉぉ!! ちぃかづくなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
4654.
「なぁみずき、兄を誘惑する前に1つ聞いていいか?」
「どうしたの? 剣と衣装のことなら、サバ令嬢さんに用意してもらったものよ」
「それも気になっちゃいたが・・・なんなら背が高くなってんのも・・・あー厚底か。で、何よりも気になってることを聞くが・・・・・・胸には何を仕込んだんだ?」
「これから誘惑しようとしてる所でそれを聞かないで?」
4655.
「はぁ、はぁ・・・美々香のお陰で少し正気を取り戻せたぜ・・・これほど妹に感謝したことはない」
「友達にセクハラしたのを兄に感謝される日が来るとは思ってなかったぜ」
「ところで明星さん、その衣装を用意したというお嬢様は?」
「お待たせいたしましたわ」
4656.
「お、お嬢様・・・ぶフォぉっ!」
「服部ぃ! いかん! 刺激が強すぎて倒れた!」
「好みのお嬢様が、お嬢様どころかお姫様キャラのコスプレをして来たからな」
「わたくし少々服部君と距離を置きたくなってしまったのですが」
4657.
「くっ、サバ令嬢もかなりの完成度になってやがる・・・しかも、こっちは本来のキャラと同じく俺より年下! それを踏まえ敢えて成長前の段階のコスで来るとは・・・くっ! 中身がサバ令嬢でさえなければ・・・っ!」
「もう一度冷凍庫でのお仕事をしたいのですか?」
「いやお前コイツに恋愛対象外と思われて困ることあるのか?」
「言われてみればないですわね。しかし何故だかイラッときてしまいましたわ」
4658.
「まーそりゃ分かるぜサバ令嬢。どう考えてもモテなさそうな男に明らかに残念がられたんだから、そりゃイラッとくるわな」
「本当にそれだけなのよねサバ令嬢さん? 実はお兄さんを狙ってたりはしないわよね? そのキャラもお兄さんの好みの1つだし」
「わたくしにこの衣装を着るよう言ったのはみずきさんなのによくそんなことが仰えますわね?」
「というか何でサバ令嬢は断らなかったんだ?」
4659.
「何ででしょう・・・その、みずきさんが涼太さんにアプローチをかけるに当たり、この手段に至るまでに色々とありまして、思考が鈍ってしまいましたわ」
「何があったんだよ・・・てかみずきも、なんでサバ令嬢にまでコスプレさせたんだよ。最悪ライバルが増えるかもとか考えなかったのか?」
「え? ああ・・・それが、どうせ断られると思って冗談のつもりで言ったんだけど、サバ令嬢さんがあっさり承諾しちゃって・・・私も驚いてるところよ」
「本当に今日のみずきさん何なんですの!??」