2022/09/25
3876.
「緊急告知!」
「いきなり何なの?」
「兄のバイト先に、奴とタメの女子がいた」
「はぁ!? なんでもっと早く言わないの!?」
3877.
「つい最近私も知ったんだ。あいつ、何も言わなかったクセして」
「早速その女を成敗しに行くわよ。後に続いて!」
「なんで成敗しに行くんだよ」
「だって新しく現れた女よ? 排除以外にどうしろというの?」
3878.
「いやもっと平和的解決を考えろよ。普通に考えて、そんじょそこらの女子がウチの兄になびくとは思えない」
「美々香のお兄さんなのに?」
「そんな理由でなびいたのはお前しか見たことないんだが?」
「だからと言ってこの先現れないとは限らないでしょ?」
3879.
「でも確かに暴力での解決は良くないわね・・・それじゃあ意地でも私より悪いところを見つけるわよ!」
「なんでそんなみみっちい真似しなきゃいけないんだよ」
「だって安心が欲しいから」
「残念だが“明星崇の妹”よりも悪い要素は存在しないんだ」
3880.
「何はともあれ、どんな会話してるか、いやそもそも会話があるのかは気になるな。行ってみよう」
「だから最初からそう言ってるじゃない」
「覚悟はできてるか? 年上好きのあいつが揺らぐほどの可愛い奴かも知れないんだぞ?」
「そんな人がサバカレーうどん専門店で働くとは思えないから大丈夫よ」
3881.
「私の調査によると、その女子高生は有働というらしい」
「どんな調査をしたのよ・・・」
「兄が非番の日に乗り込んだ。なんせ、380円でカレーうどんだからな」
「普通に食べ行ってんじゃないわよ」
3882.
「でも始めたての頃に行った時にはいなかったわよね? そんな女」
「そん時は女の方が非番だったんだろう。だがその後の調査により、この曜日ならいることが明らかになった」
「だからどんな調査をしてるのよ」
「週3ぐらいで行ってた。なんせ380円だからな」
3883.
「そして今日、いよいよ2人が揃ってる日に乗り込むことになるのだ!」
「曜日変えながらお兄さんのいない時に通うって結構面倒なことしてたのね・・・」
「そうでもしないとみずきを連れて来て修羅場にできないだろう?」
「もしかしてそれは修羅場にしても良いって言ってるの?」
3884.
「ほどほどにな。ヤツがどんな反応をするか、楽しみだぜ」
「このドアを開ければ、いよいよね・・・」
カランカラン。
「らっしゃーせー。って、美々香・・・!」
3885.
「フッ。よく来たな兄よ」
「いや来たのはお前の方だが。というか崇妹も一緒か」
「当然です。お兄さんあるところに私あり、ですから」
「2ヶ月ぶりぐらいに来といてよく言うぜ」
3886.
「で、噂の女子高生はどこだ?」
「噂って何だよ」
「知ってるんだぜ? お前の同僚に、同い年の女がいるということをな!」
「な、にっ・・・!」
3887.
「お兄さん、やっぱり・・・。私というものがありながらどうして・・・!」
「偶然女子がいただけなんだが?」
「そもそもみずきにそんなこと言う権利ないからな」
「じゃあ何で連れて来たんだよ」
3888.
「またお兄さんの周りに女が増えた・・・サバ令嬢さんに続いて、ついにバイト先でも・・・!」
「お前の周りって地味に女っ気あるよな。だがお得意のコミュ障を発揮したりしてないだろうなァ?」
「最初のうちはマジ会話かなかったぞ。だが、サバと見つめ合う日々に耐え切れず40歳以下のやつは俺たち2人を残して辞めたんだ・・・」
「マジかよ。若手のホープじゃんお前ら」
3889.
「てか、いくら同い年の話し相手がいなくなったからってお前と喋るとか有働ってのも結構病んでんじゃないのか?」
「それは否定できない。毎日何時間も死んだサバと見つめ合ってみろ。人と喋って気を紛らわせたくもなるぞ」
「つまりお兄さんは、相手が弱ってるところに漬け込んで自分のものにしようと」
「そんなつもりは毛頭ねぇよ」
3890.
「心配しなくても、あいつにその気はないぞ」
「つまり、お前はみずきを受け入れる方向で心の準備を進めていると」
「そんなつもりもねぇよ」
「はぁ? だったら“心配すんな”とか言うなよな」
3891.
「というかお兄さん、もしその有働って人に“その気”があったら流されてたってことですか?」
「当たり前だろ?」
「何でですか!」
「むしろ何でダメなんだよ」
3892.
「ちょっと満月君、いつまでお客さんと話し込んでるの?」
「あぁ悪い、すぐ戻る」
「ちょっと待ったぁ! そこの女従業員・・・お前が有働だな?」
「そうだけど・・・もしかして、妹さん?」
3893.
「よく分かったな有働。こいつが妹の美々香だ」
「うん、なんかもう、ね」
「おいおい、既に私の存在を教えてたのかよ。まぁ、出来の良い妹がいてツラいって話したくなる気持ちは分かるがな」
「出来の悪い妹がいてツラいって話したんだよ」
3894.
「おいおい、それが人に家族を紹介する時に言うことか?」
「いやむしろ自分の家族を超優秀とかいって自慢する奴の方がいないだろ」
「いるだろ。その家族が実際に超優秀だった場合はな」
「何でお前は自分が超優秀って前提で話をしてるんだ?」
3895.
「ところでキミぃ。こんなヤツのどこが良くてサバと見つめ合う仕事なんて続けてるんだ?」
「いや別に満月君いなくても続けてるけど」
「何だと・・・!? だって、年齢が2倍以内のヤツみんな辞めちまったんだろ? だったら残る理由は、コイツに気があるか時給2000円かのどっちかじゃんかよ」
「何で普通に後者だと思わないの? あなたこの人の妹でしょ?」
3896.
「あともうひとつ、大事な理由があるよ。それは、家から近いこと!」
「それは一理あるな」
「一里もないよ? 200メートルぐらいだよ?」
「私が悪かった。謝るぜ」
3897.
「分かっただろ有働? こんな奴が妹にいる俺が可哀想だってことが」
「まぁどっちもどっちオブザイヤーだけど、とりあえず普通にタメ語使われてんのはイラッとくるよね」
「おっと失礼。悪いね有働サン、私らはそんな高尚な教育を受けてないんだよ」
「ほんとに可哀想な兄妹ね・・・」
3898.
「ところで有働さん」
「え? あぁ、えっと・・・妹さんの友達?」
「はい。 あなたですね? 美々香のお兄さんに思わせぶりな態度を取ってるとかいう同僚女性は」
「ねぇさっきの話聞いてた?」
3899.
「あなた、このバイトを続けてる理由が、お兄さんがいるからか、時給2000円だからか、家が200メートルだからって言いましたね」
「1個目は捨てて?」
「もし仮に、時給2000円はそのままに家が離れたら、あなたはこのバイトを辞めますか?」
「うーーん、距離次第だけど・・・1キロ超えたら辞めちゃうかな」
3900.
「じゃあ家を私と交換しましょう」
「何でそうなるの!?」
「だって2キロは離れてますから」
「そういう問題じゃないでしょ!?」
3901.
「何を言ってるんだい有働サン? まず、みずきはなんとコイツのことを狙ってる」
「ほんとに“なんと”なんだけど」
「この前提を認めてもらうとして、そうすると、できればコイツから女を遠ざけたい。だが有働サンは、家が近いことを理由にこのバイトを続けている。しかし店を移動させるなんてことはできない。つまり、住む場所を交換するしかないということだ」
「なんで“住む場所を交換することもできない”にならないの!?」
3902.
「え? いちいち教えなきゃ分からない? 建物を移動させるなんてどんな労力になるよ。でも、住む場所を交換するだけなら建物の移動は要らないだろ?」
「なんで普通に家交換するのを選択肢にしちゃうのって話なんだけど?」
「だって、物理的にはできるから」
「物理以外に色んな問題があるでしょ!?」
3903.
「おい兄。この有働ってヤツ根本的に頭悪いぞ。何とかしろ」
「え、私がおかしいの?」
「私は別に住む家の場所や外観・内装がガラリと変わっても構わんぞ? どうせボロアパートだし」
「それ聞いたら尚のこと交換なんてしたくなくなったんだけど」
3904.
「安心しなよ。みずきんちは普通に良さげなマンションだから」
「そういう問題でもないオブザイヤーなんだけど・・・じゃあそのマンションの200メートル以内に時給2000円のバイトがあるの? 高校生で」
「まず、運が悪いとエレベーターのタイミングが合わず外に出るのに5分かかるけどそれは含めなくていいか?」
「却下!!」
3905.
「だ、そうだぞみずき。残念ながら有働サンの説得は困難だ。こうなったらお前もここでバイトを始めるしかないだろう」
「ここまでちっとも喜べない女子仲間が有り得るなんて思わなかったよ・・・」
「失礼ですね・・・どのみちバイトをするつもりはないですけど、今までの会話のどこに私を歓迎できない要素があったんですか?」
「全部だよ!!」
3906.
「てかそんなに満月君のことが良いなら何でここでバイトしないの?」
「だってサバと見つめ合う日々がツラすぎるって評判だから」
「身も蓋もないことを言わないで・・・」
「てかどんだけツラいんだよここのバイト」
3907.
「というか満月君も満月君よ。妹の友達なんて絶好の彼女候補じゃん。なんで1回ぐらい付き合ってあげないの?」
「それはな有働。お前がこいつの兄に会ったことがないからだ」
「え? えぇっと・・・もしかして、この子の兄貴が友達とか?」
「ご明察」
3908.
「考えても見ろ。こいつとくっついた暁にはあのヤローの義理の弟になっちまうんだぞ。それを受け入れろと言うのか?」
「・・・考えすぎじゃない?」
「よしじゃあ自分に当てはめてみろ。ここにいる2人なんか目じゃないぐらいのどうしようもない友達がいたとして、そいつの弟と付き合えるか?」
「あぁ~~、うぅ~~~~ん・・・・・・可愛ければイケるわ!」
3909.
「有働、お前・・・正気か!? そうか、ひとつ条件が足りなかったな。しかもそいつは、友達の弟かつ弟の友達なんだ。どうしようもないレベルの弟のなぁ!」
「だってウチの弟いい子だし。その前提は成り立たないよ。てか普通に考えて弟の友達ってのはプラス要素でしょ?」
「有働。お前はおかしい。なぜ妹なり弟の友達を普通に異性として見ることができるんだ?」
「きっと満月君がこんな妹がいるためにおかしくなったんだよ」
3910.
「おい黙って聞いてりゃお前ら、まるで私たちがどうしようもないみたいな言い方だなァ?」
「あぁー、うん、ごめんね・・・。ちょっと、会話が成り立たないから色々と合わない部分があるんだろうなって思ってただけで、それをこの満月君に分かりやすく伝えようとしただけだから、言葉の綾ってやつだよ」
「なるほどな。まぁコイツはバカだから仕方ない」
「美々香お前は黙ってろ」
3911.
「まぁでも1番気になるのは、こんな人のどこが良いのかってところよね。えっと、みずきちゃん? だっけ、ほんとに何で?」
「え、だって、美々香の兄なんですよ? この、満月美々香の」
「ごめんそれで何でこんなのと付き合いたいとか思うのかが理解できない」
「え、でも、さっきの有働さんの理屈で言えば、友達の兄って普通に恋愛対象になりません?」
3912.
「あ、う、なるかも、なるかもだけど・・・! 何回か会えば分かるでしょ? こいつはダメだって」
「1回も会わなくても分かりますよ? 美々香の兄と聞いただけで、多分ロクな男じゃないだろうなって」
「あ、うん、そうだよね? だったらさ、なんで?」
「だって美々香の兄だから」
3913.
「ダメだ・・・あたしの頭じゃ理解が追い付かない・・・!」
「有働サン。あなたは前提を間違っておりやすぜ。みずきは、ウチの兄と付き合いたいと思ってるワケじゃない。結婚したいと思ってるんだよ」
「ごめんもっと分からない!」
「どうしてですか? だって、結婚しなければこの人が美々香の兄である意味ないじゃないですか」
3914.
「なぁ、俺ってサラッと酷いこと言われてないか?」
「しょうがないだろ。お前の価値なんて私の兄であることしかないんだから」
「そこに価値を見出してるのも世界中でこの子だけでしょ・・・」
「胸を張れ、みずき。お前はオンリーワンだ!」
3915.
「はぁ、なんか頭痛くなってきた・・・ちょっとサバ切って心を落ち着かせてくるね」
「おい、あいつもう末期だろ。誰もが音を上げたサバと見つめ合う時間を心の支えにしてるぞ」
「というか有働さん、待ってください。注文がまだなんですけど」
「そんなの満月君に頼んでよ・・・あなたの愛しの“お兄さん”に」
3916.
「おい待て有働。実の妹とその友達のオーダー取るなんて嫌だぞ。お前がやれよ」
「お願いだから、1秒でも早く私をその2人から解放して・・・」
「2人とも有働のスマイルが欲しいってさ」
「あぁぁぁぁああああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」




