2022/08/21
3457.
「よっ、こい、せと。ふぅ~っ、やっと戻って来れたよ」
「なっ、か、母さん! 何で戻って来たんだよ!」
「ここがアタシのうちだからだよ」
「親父がダウンした途端実家に帰っといてよく言うぜ」
3458.
「せっかく帰って来たのに悪者扱いかい? これでもアンタらの生活費の負担にならないように留守にしてたんだよ」
「いや母さんもバイトなりパートなりすれば良かっただけの話だかんな」
「なんでアタシが生活費を稼ぐなんて真似しなきゃいけないんだい」
「そういやコイツ私の親だった」
3459.
「2ヶ月いない間によくもまあ部屋をこんなに散らかしてくれたもんだね。掃除はしてないのかい」
「そんなのする訳ないだろ。金にならないし、やんなかったところで飢える訳でもない。掃除は家事の中で最も価値がないもののひとつだ」
「こんな体に悪い空間で過ごして風邪でも引いたら意味ないだろうに」
「そんなんカビだらけのボロアパートに住んでる時点で一緒だろ」
3460.
「仮に母さんの理論、つまり掃除をしなければ体調を崩しやすくなり余計な出費が増える、が正しいとしよう。だとすると、多少家賃が高くても綺麗なところに住んだ方が良いとは思わないか?」
「思わないね。だってアンタら風邪引かないじゃないかい」
「自分の理論自分で崩すなよ・・・」
「アンタもさっき言ってたろう。目の前にいるのはアンタの親だよ」
3461.
「お、母さんじゃないか。何で戻って来たんだ?」
「アンタら揃いも揃って2ヶ月ぶりに会った母親にかける言葉じゃないからね」
「勝手に2ヶ月も消えといてよく言うぜ・・・」
「こうでもしないとアンタらは働きもしないだろう」
3462.
「それで、父さんはどこだい? 謝罪の1つは聞かないと気が済まないんだけどね」
「親父なら仕事だぞ。よりにもよって復帰初日が日曜日になった」
「復職明けが休日になるなんてことあるのかい?」
「あるんだな、親父の会社では」
3463.
「なんだい、拍子抜けだね」
「まぁいいさ。せっかくだから親父の復職祝いでもしようぜ? そうすりゃ謝罪の1つぐらい聞けるかも知れないだろ?」
「どうだか。そんなことより掃除をするよ。こんな汚い場所じゃ食事なんてできやしない」
「おっと私今からバイトだった」
3464.
「こら、美々香待ちな! ・・・ちっ。しょうがない、涼太やるよ」
「おっと俺も今からバイトだった。掃除なら母さん1人でやってくれよ。俺も美々香も汚い部屋でメシぐらい余裕だからな」
「そうかいそうかい。それじゃあ食卓をクモの巣で飾り付けして、スペシャルゲストにナメクジとカエルを連れて来てあげるよ」
「・・・掃除します」