2022/05/29
3141.
「あら田中君。休みの日に会うなんて奇遇ね」
「田中じゃなくて服部です」
「あらごめん。つい」
「全く、何度言えばわかるんですか」
3142.
「ごめんね。気を付けるから・・・って、まだ1回しか言われてないような気がするんだけど」
「あ、すみません。先日、満月さんからも同じ間違いをされたのでつい」
「美々香と同じですって? あなた人をバカにしてるの?」
「何で僕が怒られてるんですか」
3143.
「それで、何か用?」
「いえ、特に用はないですけど」
「じゃあ何で私のいる所に来たの?」
「単なる偶然ですよさっき“奇遇ね”って言ってたじゃないですか」
3144.
「ふーん。それじゃあ、偶然、何の用事もないのに、わざわざ私の前に姿を現したの?」
「偶然に“わざわざ”も何もないでしょう。意図して明星さんの前に姿を現した訳ではありません。こちらとしても想定外です」
「あ、そうなの? それならそうと早く言ってくれなくちゃ田中君」
「だから服部です。あと“偶然”だって最初から言ってましたよ」
3143.
「はぁ・・・それにしても何で僕は、田中って呼ばれてしまうんでしょうね」
「顔が“田中”だからよ」
「どういうことですかそれ」
「“どういうこと”って聞かれても・・・田中って呼びたくなる顔をしてるのよ、あなたは」
3144.
「そもそもあなた、関西弁使わないじゃない。それで服部を名乗ろうだなんて、おこがましいにも程があるわよ?」
「名乗るも何も本名が服部なんですが」
「じゃあ関西弁を喋りなさい」
「何でですか」
3145.
「明星さんは、日本中の服部が関西弁を喋るものだと思ってるんですか?」
「そうだけど、違うの?」
「違います」
「またまたぁ~、関西人の癖にジョークがへたっぴね」
3146.
「へたっぴも何もジョークじゃないんですが」
「それは有り得ないわよ。だってそれが本当なら、関西弁を使わない服部さんがいるってことになるのよ?」
「だからいるんですよそれが」
「え・・・嘘、でしょ・・・?」
3147.
「“嘘でしょ”って僕が言いたいんですけど」
「いやいやいや、待って待って有り得ない信じられない。あなたは服部だから関西人で、今のはジョーク。そうよね?」
「まず苗字と関西人は切り離してください」
「なんで?」
3148.
「待って。ちょっと落ち着かせて。突然のカミングアウトに混乱を禁じ得ないわ」
「こっちももう混乱寸前なんですけど」
「何? えっと、つまり・・・服部だからって関西弁を使うとは限らないし、そもそも関西以外にも服部さんは居るということ?」
「当たり前じゃないですか」
3149.
「そうだったのね。世界は広いわ」
「明星さんの世界が狭すぎるだけでは?」
「あら失礼なことを言ってくれるわね。私はこれでも常識人として通ってるのよ?」
「とても常識人と会話してる気分にはなれませんでしたよ僕は」




