2022/05/22
3112.
トントントントントントントントントントントントントントントントン。
「どうしたサバ令嬢。珍しいな、お前がそんな机をトントンして苛立ちを見せるなんて」
「失礼しましたわ。それが先ほど、授業を欠席してまで行った会合にて、とある団体から寄付の要請がありましたの。一旦返事を保留して調べたのですが、公表されている会計報告があまりにも酷く、よくもまぁこれで無心に来れたものだと呆れていたところです」
「私が呑気に授業も聞かず寝てる間にそんなことがあったんだな」
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「してお嬢様、どのような会計だったのですか?」
「服部でさえ把握してないのか」
「別に彼は当家の使用人とかではありませんから」
「そういやそうだったな・・・てかコイツ授業出てたな」
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「せっかくですからお話ししましょうか」
「よし、俺も聞こう」
「兄・・・! いたのかよ」
「俺もサバ部員だからな」
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「ジョン、ベンジャミン。端末を」
「服部ってホント何のためにいるんだろうな・・・」
「部員数の足しじゃなかったか?」
「なんだ、私らと同じか」
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「こちらが、先ほど無心に来た団体の会計報告です。インターネット上で公表されています」
「公表されてる会計報告が酷いってどういうことなんだよ」
「わたくしが聞きたいですわ。これを選挙管理委員会が普通に受理しているのが不思議でなりません」
「選挙管理委員・・・? うわこれ政党じゃん」
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「ニミカ党・・・ニッポンの、ミライを、カエルとかいうスローガン出してるとこだったか?」
「ああ、たまにネット記事で見るな。で? この会計報告にどんな穴があるんだ?」
「穴なんてものではありませんわよ。まず、こちらの“代表者の氏名”をご覧ください」
「ふむふむ・・・とりあえず、A氏としようか」
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「では、支出一覧に行きますね。サマリーは飛ばしまして、詳細に行きます」
「ふーん・・・って、なんかめっちゃ“講師料”出て来たぞ」
「定期的にセミナーをしているのでしょうね。入党すれば政治の勉強ができる、というのもウリにしてるようですから」
「で、講師料の支払先に同じ名前がいつくかあるから、1回ごとの支出が全部羅列されてるのか」
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「てか同じ名前多くね・・・? うわこれさっきのA氏じゃん!」
「そういうことです。自らが党員に向けて開いたセミナーで、外部講師を呼ばず自分で講師をやった際にも、自分個人に“講師料”を払っているのですね」
「なんじゃそりゃ・・・どんな神経してるんだコイツら?」
「党員や支援者が納得してるなら良いですけれどね・・・ですがこれでは、我ら世界サバ・フィル・ハーモニーが寄付をするには値しませんね」
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「こんなん誰だって寄付する気になれないだろ」
「ところがどっこい、この政党には既に億単位の金が集まってるぞ」
「マジかよ・・・」
「情報弱者を集めるためのサクラも混ざってそうですけれどね」
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「私も自分のスマホで見るか・・・うわこれだな、アピールしてる政治塾っぽいやつ」
「謳い文句がマジで情報商材みたいだよな」
「これでこの党に入るやついんの? しかも金払ってまで」
「いるから成り立ってるんだろ。知らんけど」
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「わたくしから言わせれば、党費を徴収すること自体が賛同できるものではありませんわよ」
「でも政治活動って金かかるんじゃね?」
「それはそうですけれど・・・では美々香さん、もしあなたが今のニッポンを変えたくて、例えば革命軍を作るとして、そこに集まった同志からお金を取りますか?」
「あぁ~・・・いやさすがの私もそれで人が集まるとは思えないな」
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「それがそのまんま答えですわよ」
「確かに、“俺たちと一緒にニッポンを変えたきゃ金払え”、だもんな。何言ってんだコイツって感じだ」
「まぁ、普通の民間人では機会のない経験ができるという意味ではお金を払う価値を見出す方もいらっしゃるとは思いますが、その党費の使途がこれですからね」
「“外部講師呼ぶと金かかるから自分らでやろうぜ”、じゃないもんな。自分にまで講師料払ってんだから」
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「おい美々香、この“会場借り上げ料”のところ見てみろよ」
「ん? 普通に法人に対して払ってるみたいだが?」
「その会社名で検索してみろ」
「どれどれ・・・うわこれA氏が取締役やってんじゃん! 自分で会場用意したのに党の金そこに流してんのか!」
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「とんでもないなコイツら。この党に寄付してもコイツらの懐に入るだけじゃん」
「これを堂々と公表してるのも凄いよな。選管が受理してるのも。こういうのって調べても分からん個人的な友達とか親族にカネ流してると思ってたぜ」
「堂々と公表しているからこそ、“知らずに寄付した”、“知らずに入党した”というのも通用しなくなりそうですけれどね」
「いやーさすがに金払う相手の会計報告も見ずに入党なり寄付なりする奴がいるはずないでしょー」
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「まぁ熱心なファンでもいるんだろ。“Aさんは凄い人だからAさんがお金もらえるのは当たり前!”とかな」
「仮にそういう思想の党員がいたとしても、党の代表者個人や自ら経営する法人に党費を支出するというのは頂けませんわね。この人が“変えたい”と言っている今のニッポンの惨状そのものではないですか」
「確かに。こいつらが政権とったところでニッポンが変わるとは到底思えないよな」
「もはや変えるつもりがあるのかすら怪しいですわ。実態としては、政党という名の政治塾といったところでしょう」
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「ひっでぇ話だなあ・・・こんなのまで顔デカくして出て来るなんて、世も末だぜ」
「本当ですわよ。こんなところに寄付するお金なんて持ち合わせておりませんからね。サバを独占するために各方面に回す費用も安くないんですから」
「お前らのやってることも大概だよな・・・」
「他のお魚に比べてサバだけ異様に安いという形で庶民にも恩恵が出るのですから、感謝して欲しいですわね」
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「いやマジで、こんなヤツらの金儲けにまんまと引っ掛かるバカがワンサカいるなんて、世も末ってレベルじゃないんだが」
「まぁいいだろ。引っ掛かるバカがいるから俺らが被害に遭わずに済んでるんだからな」
「あぁそうか。経済を回すのばバカどもに任せて、私らは穏やかに生きて行こうぜ」
「さあ、今日もサバを探しに行きますわよ。当ハーモニーの財力を持ってすれば政治の影響なんて受けませんから」