2022/04/16
2955.
「よぅみずき兄。見舞いに来てやったぜ」
「誰のせいでこうなったと思ってるんだ」
「痔の完治なんざ蹴られるかどうかじゃ変わらんだろ。むしろ私のお陰で休む口実ができたと思うんだな」
「まぁそれは否定できんな。始業式の日はまだ立つ座るの動作で痛んだし。階段なんか歩けたもんじゃなかった」
2956.
「で? 春休み1週間延長になってどう過ごしたんだ?」
「ゲームに決まってるだろ?」
「断言するな?」
「じゃあ聞くな?」
2957.
「てか今もゲーム手に持ってるもんな・・・女子高生が見舞いに来てやったんだから中断しろよ」
「病院送りにした張本人にそれを言われてもな・・・」
「私のお陰で平日もゲームができてんだ。私が来た時ぐらいもてなすのがスジってもんだろ?」
「なぜ入院してる身で健常者、しかも加害者をもてなさねばならんのか・・・まだクシャミとかすると痛いんだぞ」
2958.
「そういえば美々香ちゃんだけなのか? 他の連中は?」
「ん? あぁ・・・そうそう、良いニュースと悪いニュースがあるんだが、どっちから聞く?」
「自分が悪いニュースを持って来れる立場にあると思ってるのか?」
「ここに来る伝令員が誰であれ事実は変わらんからな。受け入れろ」
2959.
「それじゃあ、良い方から聞こうか」
「サバ部に新入部員が入った」
「それは果たして“良いニュース”なのか? どうせロクでもない奴なんだろ?」
「断言すんなよ・・・まあ、最低でもひとクセはありそうな奴だが」
2960.
「でもこっちを“良いニュース”として扱わないと“悪いニュース”が2つになっちゃうだろ?」
「それじゃあ、“悪い”としか捉えようのない方のニュースを聞こうか」
「もう1人部員が増えないとお前らは卒業できない」
「ほんとに信じられないほど悪いニュースなんだが」
2961.
「それで? 何のゲームやってんだ?」
「待てよ話まだ終わってないだろ」
「私は伝令員としての務めを果たした。終わったんだよ」
「詳細を聞かせる権利をくれよ」
2962.
「あとで部長に聞け。で? 何のゲームだ?」
「これか? “レディの工房”だ。平たく言うとアイテム作れる系のRPGだな」
「尖った言い方をすると?」
「主人公を爆弾魔にするゲームだ」
2963.
「尖った言い方しすぎだろ・・・しかも主人公私より8倍可愛いじゃねぇか」
「性格は120倍いいぞ」
「爆弾魔なのにか?」
「自分が爆弾魔以下であることに気付いてくれ」
2964.
「マジで爆弾でワンパンじゃねぇか・・・これでさっきから少女漫画の主人公みたいに振舞ってるの完全にサイコだろ」
「まぁ爆弾ばっか作らせてるのはプレイヤーがやってることだしな」
「いやマジで“クマと戦うなんて怖いですぅ~!”とか言ってプルプル震えてんのシュールなんだが」
「クマに爆弾投げるのも勇気いるんだろ、多分」
2965.
【あたしのとっておきだよ! て~~い!】
「めっちゃノリノリじゃねぇかよ天性の爆弾魔だろコイツ」
「周りに変なのが多くて巻き込まれ体質だからストレス溜まってるんだろ」
「コイツも十分に周りを巻き込むタイプだろ・・・」
2966.
「嘘だろ・・・クマ3体も爆弾でワンパンしちまったよ・・・」
「そりゃそうさ。このアイテム作んの作中期間で3日も掛かるんだぞ」
「やっぱサイコだろコイツ爆弾作りで3日引き籠るとかタダモンじゃねぇよ」
「ゲームの主人公がダダモンだったら困るだろ?」
2967.
「あ、なんかイベント始まった」
【ふぅ~。なんとか次の街に着いたぁ。モンスターは怖かったけど、2人のおかげでここまで来れたよ! ありがとう!】
「いやほとんどお前が爆弾で片付けたんだが?」
「さすがにどんな戦闘をしてきたかでセリフが変わることは無いからな」
「剣とか斧持ってる仲間が不憫で仕方がねぇ・・・」
2968.
【ん、何? 私に来て欲しいって?】
<メンバーが多すぎます。誰かを解雇してください>
「“解雇”って何だよ面白すぎんだろこのゲーム」
「今日は昔のやつをやってたからな・・・表現が割と直球だったりする」
2969.
「ちなみに、しっかり雇用費も掛かるぞ」
「仲間とは一体」
「心配しなくても交友度を上げれば安くなる」
「ゼロにはならねぇのかよ」
2970.
【そっか、残念だなあ。気が向いたらまた誘ってくれよ】
「でも金は取るんだろ?」
「まぁ冒険者だって商売だからな」
「しかしその本業も主人公の爆弾を前には無力」
2971.
「そう言ってやるな・・・生活はできてるみたいだしそれなりに仕事は来るんだろう」
「でもよくよく考えたらコイツの装備も主人公の金で買うんだよな。それを他の仕事でも使われるとか腹立つな」
「心配するな。主人公が強いから仲間の装備を整える必要はほとんどない」
「お前がこの一見おしとやかそうな少女を爆弾魔にした気持ち、私にもわかった気がするよ」