襲撃
「本当に申し訳ありませんでした」
正直さっきの飛行船の中で吸われた時より大量の血液を吸われたと思う。HP上限がさっきの倍くらい減ってる。頭もクラクラしてきたし、乾肝丸を食べなくては……でも2人に血液を与えるのに両手とも塞がってるし、深淵尻尾で食べるしかないな
「「んくっ、んくっ……」」
2人ともミルクを飲む赤ちゃんじゃないんだから……でも傷口から溢れる赤ポリゴンに視線が釘付けになっているみたいで僕が何か食べても気が付かないかも、深淵尻尾でインベントリから乾肝丸を取り出して少し噛み砕いて飲み込む。喉が詰まりそうだけど、なんかこの2人を見てるとあんな見た目の物を2人に見せない方が良いと思って頑張って飲み込んだ
「体調はどうでしょうか」
「良くなりました」
「貴方……血を貰っておいてだけど、よく倒れないわね?」
一応途中で貧血にならない様にこっちは回復してるからね。でも回復してなかったら倒れてもおかしくない
「……まぁ鍛えているので、そろそろよろしいでしょうか。日も落ちてお二人も動けると思うので先に進みたいのですが」
流石にずっと休憩していたのでもう動けると思う。それに若干ではあるが【察気術】で感知出来るギリギリの距離位にずっと動かない反応が複数ある。魔物の類なら別に問題無いが、人間だとこれは非常に厄介だ。とりあえず相手に敵意があるのか、こちらに用があるのかで対応は違ってくるが……
「夜動くのは構わないけど、貴方見えるの?」
「松明を持って歩くのは目立ってあまり良くないと思いますが」
「松明は必要ありません。それに、ちょっと囲まれているみたいなので、気を付けてください」
「「えっ!?」」
「急にキョロキョロせずに自然体で」
言われてすぐに周囲を見渡したら隠れている相手がこっちが気が付いた事に気付かれてしまう。寝起きで背伸びするくらいの動作でチラッと見るくらいに2人の動きを抑える。ここは2人を囮に周囲の奴を確認した方が良いのか、それとも相手から仕掛けてくるまで気が付かないフリをするか……
「スピさん、すみませんがお力を貸してください」
パンドーラを開き、影のスピリットのスピさんに協力を要請する。夜ならこの御方の力は絶大だ。確かにイベントの時のように影を使った高速移動は出来なくなったが、それでも影に入るという力自体は強力な物に他ならない。そして箱から何が零れ落ちて僕の足元の影と同一化する。ついでなのでパンドーラを持ってもらおう。パンドーラをベルトに魔糸でくっつけたり、フードの中に入れたりするなど両手フリー状態にする方法は他にもあるが、影に仕舞ってもらうのが一番安全だ
「今、何を呼んだの?」
「何か黒い液体みたいな物が……」
「わたくしの友にございます。これでいざ戦闘になったとしてもお二人を守れます」
影の中に突っ込んでしまえば戦闘する際に、邪魔にはならない。まぁ2人も影に仕舞うと僕の動きが遅くなるデメリットもあるが、深淵尻尾はその動きが遅くなるデメリットの範囲外みたいなので尻尾を主力に戦っても良い。流石に血を吸われまくってその後にポン君も召喚してブーストしようなんてしたら流石にカラカラになってしまうので今回はポン君の出番は来ないだろう
「戦闘にならなければ杞憂だったという事で戦闘準備は既に済んでいるので行きましょう」
2人に手を差し出し立ち上がらせる。タープテントもインベントリに仕舞い、移動の準備を済ませる。流石にサーディライまで到達出来れば敵も邪魔は出来ないんじゃないかな
「おっと、身なりの良い執事さんよ?馬車にも乗らずにどうしたんだ?」
「おいおい?後ろに居るご主人様を歩かせるのは良くないんじゃないのかぁ?」
「これはこれは……美味そうなのが居ますねぇ?」
なんか武器を構えた危ない人達が現れた。フォーシアスの周りで現れたあの呪いにビビってた盗賊団が可愛く見えるレベルだ
「な、なんなのよこいつら……」
「明らかに危険そうな……」
「何か御用でしょうか」
とりあえず平静を装う。確実に包囲網を狭めて来るだろうけど、まだ相手と距離があるから魅了の範囲には入って無さそうだ。これは逆に魅了してしまった方が楽に倒せるのでは?
「用?そりゃあお兄さん達は金目の物が欲しいんだよ!持ってる人は持ってない人に分け与えるべきだよなぁ!?」
剣を振り回して威嚇してくる集団。それ分け与えるじゃなくて奪い取るじゃないですかね
「確かに、そういう意見もありますね」
「「ちょっと!?」」
僕が相手の言い分に乗ったからか執事服を掴んでくる2人
「ほう?そこの執事さんよ。もし、命が惜しかったらその2人を置いて行けば見逃してやっても良いぜ?」
「おいおい、随分とあっさり見捨てられるじゃねぇか!」
「よっぽど主人に不満が有ったんじゃないのかぁ?」
なんかそういう意見も間違いじゃないと言っただけで僕がこの2人を見捨てた事になってる……
「ただ、貴方達は勘違いをしています」
「「「なにぃ?」」」
「そういう意見もあるだけで、貴方達はこのお二人を傷付けようとしてる。それを護衛のわたくしは見過ごせません」
確かにそういう意見はあっても今は賛同できない
「お二人とも失礼ですが、しばらくお待ちください」
「「はい…」」
若干ポカーンとした表情の2人から少し離れてこの集団のボスらしい相手に向き直る
「そもそもわたくしはお金は持っていません。ですがお相手はしましょう。【アビスフォーム】」
「「「「「んなぁっ!?」」」」」
相手を脅すのに【アビスフォーム】は超優秀なのだ




