1ファンとして
「って、事なんだけど、どうしよう?」
「今回の調整で何らかの悪影響が体に出たら、即座に元の値に戻す事は出来ます。我々としては、今の彼はリミッターをもう少し許容してあげた方が、体にとって良いのではないかと考えています」
「そうなんですね……今の影人にとっては、そのリミッターの値を調整した方が、体に掛かる負担が減るというのであれば、許容しても良いとは思いますが……」
「本当に危険は無いんですよね!?大丈夫なんですよね!?やっぱり一度帰国した方が……」
お父さんとお母さんに電話で連絡してみたけど、結構心配しているっぽい。それも当然だとは思うけど、また帰国しようとしてる……
「色々と彼から話を聞いたり、機器から読み取ったデータ等を確認すると、彼は日常生活の中でも世界が時折スローになっています。自身に向かって来る物は何でもスローに見えるという事は、それだけでも生活するのは大変でしょう。ですが、リミッター値の調整によって、自身に危険性の無い速度域の物はスローに見えなくなる可能性もあるのです」
これが嘘か本当かは正直今の僕にも分からない。あくまで可能性の話だし
「僕としては、機器の数値を弄るだけらしいから一回はやってみたいんだけど、一応両親の了承が無いと出来ないって話だから……」
「分かったわ。ただ、ちょっとだけ、私達と先生だけで話をさせてくれないかしら?」
「そうだね。大事な話だから」
「分かりました。影人君はあっちで休んでいてくれ」
「はい」
大事な話か。まぁ、これは僕が首を突っ込まない方が良いかな。大人しく向こうで休んでいよう
「先生。もしかしてとは思いますが、影人を実験台にしようしてませんか?」
「どうしても、そう捉えてしまうのは影人の親だからね」
「そう捉えられてしまっても仕方ない事だとは思います。私としても初めての事象ですし、影人君の協力を得られればより多くの人を救えるかもしれないのです」
ほぼ全身不随状態からあそこまでの復活を遂げた影人君のデータは間違いなく医療の世界では貴重なデータだ
「先生。今から言う事は聞かなかった事にしてください」
「はい」
「私は他の人間がどうなろうとどうでも良い。ただ影人が健康で幸せでいてくれる。それだけで良い。だからこそ、そんな影人を他の人間の為に実験台にするなんて事はして欲しくない」
「はい……」
本人も居ないからこその本音だろう。その気持ちだって分かる
「でも、影人自身がそれを望んでいるのなら我が子の選択を阻みたくはない。だからこそ、しっかりと説明をしてください」
「私としても、社会貢献やら世界の為にという自己犠牲の精神を蔑ろにはしたくないが、それはあくまで対岸の火事みたいな話だったからだ。我が子の事になれば話は変わる。都合の良い人間だ。だからこそ、本人がその話の本質をキチンと理解しているかが知りたい。東郷さん。貴方自身も何か思っているのなら言ってください」
影人君の両親の言葉はある意味とても人間らしい言葉だ。社会の為に行動するというのは分かるが、自分達の子供に何かしらの不幸が振りかかるなら、それは拒否したい。当然だ
「分かりました。私としては、他の人間の実験台にするつもりは毛頭ありません」
「「え?」」
「影人君。彼は、人類にとって新たな一歩を踏み出すかもしれない。だからこそその一歩を共に歩みたい」
ならば、私も言おうじゃないか
「半身不随からの復活。ゲーム内とは言え自身の肉体とは違う器官の複雑な操作。そしてある意味任意発動可能な超思考速度とも言えるタキサイキア。彼の脳は今の人類よりも一歩先に行こうとしています。もし、これで彼が何らかの職に就くとしたら……軍人が適職という事になってしまう」
銃弾を躱せる彼がその力を活かすとなると割と本気で軍人が一番適職かもしれない
「「そんなっ!?」」
「でも、彼はゲームの中でとても面白い事をしています」
「「え?」」
「彼は我々が作ったゲームを楽しく遊んでくれているし、その中でもイベントを起こしたら乗っ取って更に良い終わりを演出したりします」
戦争イベント、無人島イベント、海賊イベント……軽く思い返すだけでも色々ある
「その身体能力と事故によって得たと言っても良い能力。仲間の協力。様々な力を用いて他の人を楽しませるという事をとても楽しそうにしているんですよ。彼のファンだって我が社に沢山居ます」
ちょっとカメラをずらすと、そこには何人もの社員が何か団扇やらペンライトみたいな物を持っている。ファンの社員を見せるつもりではあったが、何やってんだアイツら……
「あれが、影人のファン?」
「なんだかちょっとしたアイドルみたいだね?」
「こほん、まぁ、こんな感じで開発陣ですら魅了してしまうのが彼です。私としては、彼にはもっと色々とやって欲しい。その為にも彼を縛る物を少しでも減らしたい。そうする事で、彼はもっと自由に色々出来る様になると思うんです。私としては、高校を卒業したら、すぐにでも我が社で来て欲しい人材なんです」
運営として、彼がゲームの中で築いたネームバリューが無かったとしても、イベント力や能力があってもクセのある人材を懐柔する力など、欲しいと思える物は沢山ある
「未来の仲間になってくれるかもしれない存在の障害を減らしたい。その能力をより成長させたい。私も彼に魅了された1人なんです。如何でしょう?」
仮にこれで許可が貰えなかったとしても、影人君の能力が陰る訳でもない。だが、更に輝ける可能性があるのなら、私はそれに賭けたい




