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転生してきた悪役令嬢に聖女の座を奪われてました!  作者: 戸次椿
第6章 聖女のことはわからない
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聖女のことはわからない ー01ー

「ニケ様!この度は本当に、本当に!何と謝罪をすれば良いか……」

「本当にもう大丈夫ですってば!」


 王はもう何度目かわからないくらい頭を下げる。

 改めて見てみてもダンディーだ、ハリウッド映画にでも出てそうなイケオジっぷり。

 初めて見たときは強張っていた顔は、奥さんが戻ってきたことで柔らかくなっているので張り詰めた雰囲気もない。

 つい先程、魔獣となって暴れたとは思えなかった。

 ただその暴れた名残は、破壊された大理石の床にありありと残っているが。


「もちろん君のことを聖女として認めるとも」


 と、王はいった。


「この後に続く言葉を当てていい?『けれど』」


 簡易的に椅子を用意され、腰をかけているニケの隣を陣取っているルーカスは小声でそういう。

 体育科のような広々とした空間にどどん、と豪華な椅子が置かれている様は面白い。


「けれど」


 王の言葉を聞いて、ルーカスは「ほらね」という顔をした。

 ニケは口元に指を当て、ルーカスに静かにするよう促す。

 ルーカスは薄く笑った。


「それを国全体に伝えることはできない。今は」


 この椅子がここに来る前、王は緊急事態を宣言した。

 ニケを聖女だと知る者をここに集合させ、扉を完全に封じたのだ。

 と、いったってニケを聖女と知る者は、最初からここにいた王の側近の者と騎士団第二分隊の隊員達。

 建前上は「解放されていなかった者が魔獣となって暴れ、王が怪我をした」ため。


 死んだはずの王妃が生き返った、なんてうまく理由を作らないとパニックになってしまう。

 それ以上に、既に聖女が存在している世界で「本当の聖女」が出てきたとなればーーー暴動が起きたっておかしくはない。


 聖女だけが魔獣になる呪いから解放できる。

 魔女に一時的に呪いを解いてもらっていたって、聖女によって真の解放をされていなければこの国の男性は新月になると魔獣となって理性を失う。


 王都と学園付近の町では人々は、そのほとんどが聖女によって『祝福』をされているーーー男性は14歳になると魔女の呪いによって魔獣と化すようになるが、14歳になる前に聖女が呪いから解放されることをこの世界では『祝福』と呼んだ。

 聖女様に祝福された者は、理性を失って魔獣になることはないのだ。

 自らの意思で魔獣になることはできるけれど。


(いつ魔獣が攻めてくるかわからないからね)


 理性を失った魔獣は脅威だが、理性を持つ魔獣は戦力である。

 村々や町を守るために男性は時に魔獣となって戦い、その力は特に戦力となって戦争にも使われる。

 この国は魔獣によって人々は恐怖に怯えているが、魔獣によって大国を保っているのだ。

 とてつもなく皮肉なことに。


 聖女の任務はいつも学園にいることではない。

 時に王都に戻り、村や町、都市を巡って祝福を与え、人々を呪いから解放する。

 頻繁に聖女が立ち寄る場所ではそんなにもいないかもしれないが、魔獣によって家族や友人を失っている人は多いーーー既に何度か試したが、ニケは再び過去には戻れなかった。

 王妃だけが生き返った!と憤怒する声もあがることもあるだろう、ないとはいえない。


「なんで。何でご主人が聖女だといえないの。ああそうか、バレるもんね、アンタ達が無能だってことが」


 長い足を組み、仰反るように座り直したルーカスは至極冷たい眼差しを向けていい捨てる。

 そんなルーカスの頭をニケは思いっきり叩いた。


「オホホ。ごめんあそばせ!ルーカスちゃんったら私のことが好きすぎるようでして……ついつい攻撃的になっちゃうの」

「違うし」

「あーーーれーーー?耳まで真っ赤でちゅよ〜〜〜蜘蛛野郎ちゃ〜〜〜ん」


 ニケを挟んで反対側にいるニキータは、ルーカスをからかうチャンスを絶対に逃したくないらしい。

 身体を前のめりにし、ニヤニヤとした顔でルーカスを指差す。

 満面の笑みを浮かべるニキータの顔に手をやり、ニケは押し返そうとした。

 しかしビクともしない。こういうところはさすが魔王である。


 ルーカスは無言のままニキータを睨みつけた。

 途端にニキータは勢いよく、椅子ごと高い天井に叩きつけられた。

 みるみるうちにニキータと椅子は真っ白い糸でぐるぐる巻きにされ、繭のような状態となって天井の柄の一部となる。

 本当に一瞬のことだったので誰もがぽかんとしていた。


「蜘蛛が獲物を保存しておくみたい」

「最高の部屋を用意してあげた。大喜びみたいだね」


 「てめぇ覚えとけよ!絶対に許さねぇからな!!」と、激怒しているニキータのくぐもった叫び声が漏れ聞こえる。

 ニケは聞こえなかったことにして、改めて王を見た。


「ルーカスは蜘蛛の魔獣なんです」

「あ、いや……ああ……魔獣にならないまま、魔獣の特性を使ったのか?」

「できないの?」


 戸惑ったような王の問いに、ルーカスは相変わらず無愛想に答える。

 そういわれれば、ジュンシーも「弟がいなければ魔獣になれない」といっていたことをニケは思い出した。

 ふたりでひとつの魔獣だからひとりの時は魔獣にはなれない、と。


「身体の一部分だけを魔獣化してるんだよ、コントロールできるようになる」

「ジュンシー隊長!」


 王は顔色を変え、近くで隊員達に指示をしていたジュンシーを呼んだ。

 隊員達はそれぞれに分かれ、破壊した場所を確認していたのだ。


「何か」


 ニケと目が合うと、ジュンシーはにこっと口角を持ち上げる。

 相変わらずその性格に関わらず、ジュンシーの雰囲気や見た目や声は甘くて柔らかい。

 王がすぐさま目の前であったことを説明した途端、ジュンシーの顔色が変わった。


「一部分だけを魔獣になることが可能だっていうんですか?」

「君も見ただろう、彼は蜘蛛の糸を出した」

「何か道具を使ったのかと思っておりました、姿は変わっていませんでしたので……」


 ふたりの顔色を見るに、それはどうやら重大なことらしい。

 ルーカスはニキータの姿を見てすぐさまそれをやってのけたので、それが重大なことだとニケは想像もしていなかった。

 もしかしたらルーカスですら思っていなかったのかも知れない。

 ジュンシーはすぐに弟の名を呼んだ。

 率先して補修場所を確認し、動き回っていたズーハオは腕まくりを直しながら側にやってくる。


「何事ですか」


 ジュンシーが弟に噛み砕いて説明している間、王はニケとルーカスに向き合った。

 その表情は実に真剣だった。


「ニケ様。もしご迷惑でなければ、貴女様のパートナーの知識をこのふたりに授けていただきたい。彼らはふたりでひとつの魔獣だ、その力は巨大だが常に揃っていなければ無力だと今まで思われていた。もしもひとりでも魔獣になれる可能性があるなら……」

「それはいいんですけど、力が分散される恐れはあると思います。よくわかんないですけど」

「試してみる価値はありますね」


 説明が終わったジュンシーはにっこりと笑う。

 ジュンシーとズーハオの顔色は悪い。

 その理由は、ニケにはわからなかった。


「教えていただけますか、ルーカスくん」

「なんかいった?聞こえなかった」

「絶対に聞こえてんだろうが!くだんねぇことやりやがって!」

「ハオ。黙れ」


 その笑顔は変わらないはずなのに、恐ろしく見えるのは何故だろう。

 ズーハオは舌打ちをし、ルーカスを睨みながらそっぽを向いた。


「ルーカス……」

「やだ。やらない。教えない。やりたくない。無理。知らない。しない」


 めちゃくちゃ拒絶するじゃん。

 何でそんなに攻撃的なの、この人。

 もしかしてカルシウムが足りていないのかしら。


「ルーカス、これから毎日朝晩に牛乳を飲もう?私も付き合うから」

「…………僕の身長が低いっていいたいなら」

「身長なんて些細なことどうだっていいのよ。とにかく私を助けると思って、ジュンとハオに教えてあげて?」

「…………」

「ね、お願い」


 キョロキョロと辺りを見たニケは足元に落ちていた大理石の破片を拾い、そっとルーカスの手に握らせた。

 さぁこれでもとっとけ、というように。

 ルーカスは無言で破片を見て大きく溜め息を吐き出す。

 躊躇なく破片を投げ捨てると、ルーカスは立ち上がった。


「わかった。教える」

「投げ捨てた!!!」

「ありがとうございます、ルーカスくん」

「さっさといえよ」


 ジュンシーに笑顔で足を踏みつけられたズーハオの声が王の間に響いたのだった。



2部スタートです!

評価、ブクマ、感想嬉しいです(*´-`)♡

ありがとうございます!

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