聖女の愛は偉大 ー02ー
ふと視線を落とすと、膝の上に精霊が姿を見せていた。
二等身ほどの可愛い姿をしている彼らは、ニケの膝の上でごろごろと寝転がったり飛び跳ねたりしている。
「えっいつの間に!?町の中にはいなかったわね、魔獣除けの中には入って来れないの?」
ニケが思わず声をあげると、ルーカスとニキータは驚いた様子で目を丸くした。
精霊王以外の精霊の姿は普通の人間には見えない。
つまりふたりからしてみると、ニケが突然何もないところに向けて話し始めたことになるーーー……
自分がどう見られているかに気づいて、ニケははっとした。
「違うの。ここに精霊がいて」
「ご主人……僕はわかってるよ……」
「ルーカス!」
「ご主人がおかしいのは今に始まったことじゃないし」
「何もわかってないじゃない!あと、すっごいディスってるけど私聖女だからね!?」
「知ってるけど?」
「知った上でのディス……!!」
こんなにディスられるなんて……!
これも全部ジョゼフィーヌが悪いのよ!
今回のことに関しては完全に八つ当たりをしながら、ニケはニキータに視線を向けた。
ニキータなら信じてくれるはず!という淡い期待を抱いて。
「ニキータ!精霊がいるのよ、ここに」
小人のような精霊達はニケにまた出会えたことが嬉しくてたまらないらしく、肩までのぼってくるとニケの頬に抱きついてくる。
可愛らしい……なんてほっこりしながら、ニケは精霊達を撫でつつニキータに弁解をした。
「ニケ、安心しろ!俺様は蜘蛛野郎と違って教養があるからな!聖女っつーのは精霊が見えるもんだ!ただのヒトは精霊王以外見えやしねぇけど俺様レベルになると感じることはできる!!」
ドヤ顔をしつつ、ニキータは何か上から落ちてくるものを受け止めようとするかのように手の平を広げた。
にやりと笑うと八重歯が覗く。
「完全無敵の俺様にはわかるぜ……!俺様の麗しい手の上には!精霊がいやがるな!!」
ドヤァァァ。
もうそんな擬音が聞こえてきそうなくらい堂々と、ニキータは言い切った。
ニケと、ニケにハグをして喜んでいた精霊達はお互いに顔を見合わせ合う。
「いませんけど?」
「ぶん殴るぞ!今すぐ俺様の手の上に来い!!握り潰してやる!!」
「やだ!ルーカス!大変!あの人野蛮だわ!」
「こわーーーい……」
「ぶん殴るぞ!!」
真顔で怯えたフリをする実はノリのいいルーカスと、からかってやろうという純粋なイタズラ心しかないニケに散々からかわれてスネたニキータはさておき。
洞窟の中で精霊が燃えたりなんだしていたことも、聖女が精霊を見えるということも知っているルーカスの理解も得られ、ようやくニケは堂々と精霊達と会話ができる。
といっても、この小人のような精霊達は言葉を発せられない。
精霊達同士でたまにケンカをしているところを見るに、ただヒトにわかる言葉を話せないだけなのかもしれないが。
身振りと手振りで精霊達が伝えるには、町や城、学園など至るところにかけられている魔獣避けの魔法は別に精霊には及ばないらしい。
そもそも魔法というものは精霊から授かったものなのだから当然と言えば当然なのだが。
だが精霊達は読んで字の如く「人見知り」をするらしい。
ニケが森の中で倒れたことでパニックになっている間に、ルーカスとニキータによって知らない人が多い町の中に運ばれてどうしようもできなくなった、とのこと。
またニケがこうやって町から出てくれたので精霊達は大喜びでニケのもとにやって来たらしい。
「そういうことなの!また会えて嬉しいわ!」
ニケは上機嫌のまま、指を動かしてくっついてくる精霊達をくすぐったり撫でたりする。
くすくすと笑う精霊達は大きさも相まって、ハムスターみたいでとんでもなく可愛らしい。
ニケが癒されていることを感じ取れるのだろうか、それとも精霊達がいう「人見知り」が解けていっているのだろうか。
森の中にいた精霊達とは少し違った形の精霊達も、箱の中に次々と顔を出す。
「あら。少し大きな精霊達が来たわ」
今までニケにくっついていたのは小人のような精霊達。
次に箱にやって来たのは、世間一般でいうところの「妖精」のような精霊達だった。
小人達はほとんど男女差がないように見えたが、その妖精のような精霊達は髪型にこだわっていたりワンピースのような服で着飾っていたりしている。
それでもニケを好きなことは変わりないらしく、妖精のような精霊達はニケを見るとぱぁっと笑顔になってくっついてきた。
『にけ!すき!』
「えっ喋った!」
『にけ!にけ!』
観察するに、この妖精のような精霊達は言葉を覚えたばかりの子どもくらいには話せるようだ。
精霊王がヒトと変わらぬくらい話せるのだから、こうやってヒトの言葉が話せる精霊がいるのも当然なのかもしれない。
「本当に凄いのね、この世界って……」
しみじみとニケが呟くと、ルーカスが笑った。
「まるで他の世界から来たみたいだね」
他の世界で死んだからここにいるんだけどね。
ニケは胸の中で呟きながら苦笑いを浮かべた。
『お楽しみのところ恐縮ではございますが』
甘い声が頭の中に響く。
精霊達と遊んでいたので気付いていなかったが高速で移動していた証である、ごうごうと唸るような風を切る音がしなくなっていた。
スネたまま眠っているニキータをニケが指を差すと、起こしてくれと読み取ったルーカスは躊躇なく彼に蹴りを入れる。
魔王様ですけど!?
ニキータが大きな欠伸をしながら起きたので、ニケは見なかったことにした。
『王都の前に到着致しました。少し揺れますのでお気をつけください』
外に出た時には、双竜の魔獣と化していたジュンシーとズーハオは白亜の騎士に戻っていた。
相も変わらず隊長様はにっこりと笑う。
その何を考えているのかわからない笑顔で。
「申し訳ありませんがフードを被っていただけますか?そして俯いていてください」
「顔を隠せってことかしら?」
「ええ。お願い致します」
ルーカスが何か文句をいいたそうだったがそれを制し、ニケはいわれた通りにフードを被った。
荘厳な壁と強固な門に囲まれた王都。
既にここは魔獣除けの魔法が張り巡らしてある中らしい、騎士達の姿もヒトに戻っている。
少々ここでお待ちください、といわれ、フードで顔を隠したニケと騎士に取り囲まれているルーカスとニキータは素直に従う。
門を守るように立つ黒い鎧をまとった騎士達とジュンシーは何かを話し出した。
微笑んだままだが、何度かニケ達に視線をやるので何かを伝えているのだろう。
「逃亡者を連れてきたっていってんぞ」
ニキータの水色の瞳が揺れる。
ルーカスが小さく舌打ちし、苛立った様子で顔を背けた。
ローブの中や自分の周りに精霊達がいることを確認しながら、ニケは改めて決意する。
「やっぱり……ジョゼフィーヌのことを4回殴るわ」
「5回にして。1回は僕が殴る」
「静かにしろ」
ズーハオが吐き捨てるように短くいった。
「まぁ黙って見とこうぜ。いざとなったら俺様が世界を壊してやるからよ」
「静かにしろっていってんだろ」
多分ズーハオはニキータのそれを冗談だと受け取ったのだろう。
しかし、ニキータのそれは冗談でも何でもない。
よく知っているニケとルーカスは目配せをしあい、薄く微笑んだ。
「さて、どんな歓迎を受けるのかしら。楽しみだわ」
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