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転生してきた悪役令嬢に聖女の座を奪われてました!  作者: 戸次椿
第4章 聖女の美しさは罪なのか
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聖女の美しさは罪なのか ーno sideー

彼女が美しいことはよくわかっていた




「ニキータに私のことをぶっ飛ばしてもらいたいの」

「頭どうかした?」


 良いことを考えた!と彼女が顔を輝かせていた時から、まぁロクなことを考えていないのだろうなぁとルーカスは思っていた。

 しかしまさかここまでロクなことを考えていないとは思ってもみなかった。

 ルーカスは呆れたように眉を寄せつつ、ほとんど睨むようにニケを見返す。


 ニケはその視線を受けても余裕綽々といった様子で笑っていた。

 そのニケ・ヴィクトリアという少女こそがーーーよりにもよって「聖女様」なのだ。


 聖女という人はこの世界で一番尊く、一番愛され、何よりも大切にされなければならない存在だと思う。

 この世界を救えるのは聖女様しかいない。

 だから誰もが喜んで聖女のために命を投げ出す、それが例え王様であったとしても。

 そんな存在。


 それなのにどうだ。

 目の前の聖女様ときたら、聖女だというのに聖女だと認めてもらえていない。

 聖女様なのに。

 間違いなく彼女はこの世で最も尊い、聖女様だっていうのに。


 それだけでも最悪だっていうのに、さらに最悪なこと。

 それは聖女の名を偽り、己が聖女だといって「聖女」としての名声や敬意、愛、そして立場を大いに利用している者がいるってこと。


 この世界が聖女(ニケ)を見つけられていないっていうならまだいい。

 世界は血眼になってニケを探すだろうし、ルーカスが運良く彼女を見つけたとのだとしたらさっさと引き渡してしまえばそれでいい。

 たったそれだけで彼女は聖女として認められる。


 けれど違うのだ、今は。

 「この世界に聖女様は既にいる」。

 だからニケが声をあげたところで、ニケは聖女様ではなくて偽物だと疑われる。罵倒される。殺意を向けられる。怒りを、憎しみを向けられる。


(ありえない。ご主人は聖女なのに)


 彼女は聖女として認められなければならない。

 そのためならば何でもしよう。

 けれどーーー……


「バカがご主人をぶっ飛ばして?僕は?」

「ルーカスはそこで見てて」

「おかしいの?頭」


 相変わらずニケは笑いながらそういったので、ルーカスはもっと眉を寄せる結果となった。

 何を考えてるの?


「俺様がぶっ飛ばして何になる?俺様は……待て?蜘蛛野郎、さっき俺様のこと『バカ』っていわなかったか?」

「あの人達の目の前で回復魔法を使おうと思っているの。目の前で私が回復したら疑いようがないでしょ?」

「僕に回復魔法をかけたらよくない?何か不満なの?」

「他人にかけると回復薬を疑われるから。自分で自分に回復薬は無理でしょ?システム的に」

「でも!」


 純粋な疑問を抱いたニキータをスルーし、ニケは自らを指差した。

 聖女と魔女の違い。

 回復魔法が使えるか、否か。

 確かに騎士達の目の前でニケが回復魔法を使ったとしたら、それは疑いようがないだろう。


 騎士は国王と聖女に絶対の忠誠を誓う。

 彼らがニケが聖女だと認めてくれれば、状況は大いに好転する。


 しかし、「疑惑」では駄目だ。

 もしかして聖女なのか?と思われたところで意味がない、彼らの忠誠はそんな

 そんな疑惑では握り潰されて、偽物の聖女を持ち上げ続けてしまう。

 「確実」にニケ・ヴィクトリアが聖女だと知らしめなければ、疑いようがないくらいに。


「だからってバカにぶっ飛ばされる必要はなくない?僕でいいじゃん」

「ダーメ」

「なんで」


 もしもニキータの攻撃で、ニケが死んでしまったら?

 ニケの身に何かがあったら?

 そのことを考えるとゾッとして、ルーカスは苛立ちながら聞き返した。

 頭の中に忍び寄る、嫌な気配を吹き消しながら。


「私が聖女だって認められた時、ルーカスが攻撃したことで問題になったら嫌でしょ?ニキータは最悪、魔王だからどうにだってなるだろうけど」


 そういわれると何もいえなくなる。

 ニケが聖女だと認められ、自分が攻撃したことが問題になってーーー……

 罰を受けるだけならばどんな罰でも受けよう。

 けれどもしも……もしも彼女から引き離されてしまったら?

 それを思うと血が凍ってしまったような気がした。


「ま!聖女に攻撃するのは俺様の役目だからな!!」

「はいはい」

「だから」


 ルーカスが不安に思っていることも露知らず、ニキータは自信満々に笑う。

 筋肉質の腕を伸ばし、魔王様は聖女様の頬を大きな手で挟み込むようにガッと掴んだ。


「俺様以外に攻撃されんじゃねぇぞ!お前は!お前を殺すのは俺様の役目だからな!!」

「私を殺したらニキータと話してくれる人いなくなるけど?寂しくて死んじゃうんじゃない?」

「さび!!!!し……くねぇし!!お前がまた生まれてくるまで待つだけだし!!全然寂しくねぇし!!」

「はいはい」

「信じてねぇだろ!!絶対に待ってやるからな!!調子に乗るなよ!!俺様に二言はねぇんだからな!!お前なんて死んじまってもただで逃してやんねぇからな!!」


 ふとルーカスは思う。

 そうか、あいつは待てるんだ。

 ご主人がここで死んでしまったとしても、また彼女が生まれてくるまで待てるんだ。

 幾千の夜、幾億の朝を独りで待つことができるのだ、こうやって彼女を探しあてたようにーーー……



「それで!どれくらいの威力で攻撃したらいいんだよ!はっ!丸焦げにしてやろうか?」


 ニキータが笑う。

 それはもちろん冗談のつもりだった。


「それでもいいけど……丸焦げになっちゃうと回復した時の服問題が深刻だから。骨を折るくらいでなんとかならない?」

「は?」

「え?」

「あと窓の前に立つから窓ごとぶっ飛ばしてほしいの。外にいる騎士達にもわかるように。ここから隊長さんが窓の下に落ちた私を見てから魔法をかけるから」


 けれど大真面目にニケは返す。

 唖然とするルーカスとニキータに、ニケはさっさと計画を話した。

 自分と窓をぶっ飛ばして、落ちて、騎士団の目の前で死にかけの自分に回復魔法をかける……


「世界を破滅させた方が楽なんじゃねぇの」


 ニキータがひきつりながら、そういった。



そして彼女はこちらを見た

妖艶に微笑んでいたーーー



 桃色の髪が揺れていた。

 白い肌が赤に汚れ、紺色の眼がルーカスをとらえた。


 聖女(ニケ)は笑う。

 美しかった、恐ろしいくらいに。

 彼女はゆっくりと落ちていって、すぐに見えなくなった。


「嘘でしょ……なんで……」


 ドアの側で立ち尽くしているルーカスを押し退け、ジュンシー隊長は窓の近くに駆け寄る。

 既に窓があった場所から見下ろしていたニキータの顔色が青ざめているように見えるのは、自分が不安だからだろうか。

 もしもーーー……もしも下を覗き込んだ時、既にニケが息絶えていたらどうする?


 急に空が暗くなった。

 さっきまで雲ひとつないくらいに晴れ渡っていたっていうのに、厚い雲が太陽を覆う。

 あっという間に夜がやってきたようだ。



彼女が美しいことはよくわかっていた



 恐る恐る覗き込むと、彼女は地面に横たわっていた。

 真っ赤な髪の男が側にいるからだ、と、必死に理由をつけてみてもわかる。

 そこに広がっているのは彼女の血だーーー……



鐘が鳴り出した、恐ろしいくらいに

地の底からわきあがるように

天の上から降ってくるように



「ーーー!ーーー?」


 ジュンシーが何かをいっている。

 けれど聞こえない、鐘の音が大きすぎて。

 鐘の音を不審に思った町人達が、青ざめた顔で窓から外を覗き込む。


 鐘の音は神の声。そういわれている。

 ならば今、神は何かを伝えようとしている。

 その音は怒りに満ちていた、この世界から全ての音を消し去るほどに。


 鐘の音がうるさい。

 頭がおかしくなる。

 まるで耳のすぐ近くで鳴り響いているかのようだ。

 彼女を助けようとして彼女の周りに集まっていた騎士達が、お互いの顔を見遣ると恐れをなしたのか後退りする。



彼女は聖女様だ

神に愛された少女

彼女のためならば国王だって命を投げ出す



 雲が割れる、光が差し込む。

 真っ直ぐに彼女に向かって。

 太陽は今、彼女のためだけに輝いている。


 まるで星が舞い降りてきたのかのように、彼女の身体は光に満ちた。

 輝きは彼女の身体の中に飲み込まれ、白い肌と桃色の髪がキラキラと輝いた。



けれど本当はわかっている

聖女様は生贄だ

魔獣は彼女を探し出す


だから国は、国民は、我々は

彼女を森の奥深くに閉じ込めて

聖女様だと愛し子だと

讃えて誉れて憧れて

彼女を魔獣に喰わすのだーーー



 むくりと起き上がった彼女は、確かに微笑んだ。

 さっきまで死にかけていたことが嘘のように立ち上がり、こちらに笑顔を向ける。

 ジュンシー隊長は青ざめた顔で囁いた。


「聖女様…………」


 ピタリと鐘の音が止んだ。

 光はまだ彼女にだけ差し込んでいる。

 キラキラと輝くニケ・ヴィクトリアのなんと美しいことかーーー……


 我々は気づいていた。

 いつか神の怒りを買う、と。

 神の愛しい子を生贄のように差し出して、逃げ出せないように深い森の中に置き去りにして。



彼女が美しいことはよくわかっていた

けれどその美しさが恐ろしいと初めて思った



 ルーカスはゆっくりと手を伸ばし、ニケに向かって手を差し出した。

 美しき聖女様はそれに気づくと同じように手を伸ばし、白い歯を見せてにっこりと笑う。



「おいで、ルーカス」



 その瞬間にルーカスは部屋を壊してしまうほどに大きくて醜い蜘蛛の姿に身体を変え、壁を這いずって下に降りていった。

 悲鳴が聞こえたが、そんなことは関係がない。


 あの日彼女は自分の前にやってきた。

 ニキータがどれほど聖女(ニケ)を待っていたかなんて関係ない。

 幾千の夜と幾億の朝?

 そんなもの、ルーカスだって超えてきた。

 たったひとりの「主人(ニケ)」に会うために。


「私の名前はニケ・ヴィクトリア」


 大きくて醜い黒い蜘蛛を這わして。

 いつの間にか這いずって来たスライムを這わして。

 美しき聖女様は微笑む、どう見たってその姿は「聖女様」とは程遠い。



「私が聖女ではないというなら相手になるわ。

 私と戦いましょう」



 鐘の音が鳴った。

 鳴り響いた。

 太陽が彼女のためだけに差し込んだ。


 真っ黒で美しい少年と、褐色肌の逞しい青年に守るように囲まれて少女は笑う。

 桃色の髪に紺色の瞳。


「負けやしないわ。だって私、神様に愛されているもの」




第4章終わりました!

評価、ブクマ、感想嬉しいです!!

めっちゃ嬉しいです!!(°▽°)


次は第5章!

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