表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生してきた悪役令嬢に聖女の座を奪われてました!  作者: 戸次椿
第4章 聖女の美しさは罪なのか
PR
26/38

聖女の美しさは罪なのか ー04ー

「あの人、私のことを『命の恩人』っていったわ。森の中で自分達を回復したのが私だって気付いてたのね」


 15分だけ時間を貰った室内で、ニケは静かな声でいった。

 3階建ての宿屋の3階。

 この階にも下の階にも幾つもの部屋があるはずなのに何処からも物音は聞こえなかった、きっと騎士団が踏み込む際に出て行かせたのだろう。


「まーーさか後を尾けられてたとはな!俺様の後を尾けるなんて大した度胸だ!殺す前にそれだけは褒めてやる!!」


 静かに、とニケはニキータの唇に人差し指を突き付けた。

 ニキータはニケの指に噛みつこうとしてきたので、ニケは軽く魔王の顔を叩く。

 ニキータは苛立った様子で、小さく舌打ちをした。


 さっきまで揉めていた男が下にいるとわかり、ニキータは見るからに苛立っている。

 後を尾けられているとは夢にも思わなかった。

 よく考えればわかることなのに。

 ニケと目が合ってすぐに、隊長様は部下達を人混みに紛れこませていた。

 あの時点で、ニケが森の中にいた少女だと気付いていたに違いない。


 窓の外には騎士団がいる。

 ぐるりと宿屋を取り囲んでいるのだろう。

 真っ赤な髪が白亜の鎧のせいで嫌ってくらいに目立っている「弟」ーーー……ズーハオ・リーは窓の下、ひとつだけしかない出入り口の前でこの部屋の窓を睨みつけている。

 兄であり隊長様であるジュンシー・リーはドアの前にいるのだろう、人の気配がしていた。


「それを踏まえて、あいつらが想定しているのは3通りだと思う」


 ルーカスが指を3本立てた。


「1つ目。聖女の名を騙る偽聖女。この世界で回復魔法を使えるのは聖女様しかいない、でも回復薬は存在する。それを上手く使って、自分は聖女だってパフォーマンスをして金を奪ったりするお馬鹿さんは何人もいる」

「最悪だな!俺様の前に現れたら捻り潰してやる!」

「うるさい、お馬鹿さん」

「その場合はどんな罪になるのかしら?」

「聖女様を騙るのは重罪。終身刑だろうね」


 ジュンシーはニケのことを「命の恩人」だといった。

 ニケが自分達を回復したってことは理解している、ただそれが本物なのかパフォーマンスなのかは決めかねているだろう。

 だって要塞学園の中には確かにーーー……「聖女様」はいるのだ。


「2つ目は?」

「学園からの逃亡者。聖女を偽り、聖女様と国を守る義務から逃れた重犯罪者。この場合は死刑だろうね」


 ニキータと枕を投げ合い、子どものような喧嘩をしていたルーカスがさらりという。

 軽くいってるけど死刑ってやばいからね。

 しかし残念なことに、今のニケは聖女様ではないので逃亡者という立場が一番近い。

 思わず溜め息を吐き出してしまった。


「で、最後は?」

「正真正銘の聖女様」


 ニキータの問いに、ルーカスは返した。

 自分の服を引っ張って首筋を晒すと露わになる、それ。

 ニケのイニシャルと鐘と青い薔薇の紋章。

 神の声を意味する鐘が紋章の一部に組み込まれているのは、多種多様な紋章を持って生まれるこの世界の人間の中でも聖女だけしか有り得ない。

 ルーカスは無言で示したのだ、ニケは正真正銘の聖女だと。


「ただそれをあいつらが信じるかはわからない」


 聖女様は既に存在している。

 要塞と化した学園の中、国のために戦っている。

 それを全ての人は信じているーーー……そして聖女様に対する侮辱や疑心なんて許されない。

 この世界を救ってくださるのは彼女だけだから。


「ご主人を聖女様だと信じないなら、ご主人は逃亡者として殺される。よくて終身刑」

「は?ニケが死ぬ??馬鹿いってんじゃねぇ!俺様が全員蹴散らしてやるよ!!」


 ニキータの指先が水のように揺らいだ。

 美しい褐色の肌が透明に変わっていくーーー……ヒトの姿ではなく、スライムの姿に。


「絶対にニケを殺させねぇからな!俺様がどれだけ待ったと思ってんだ!!世界を破滅させたとしてもニケだけは絶対に殺させねぇ!!」

「ニキータ!」


 ニケは躊躇なく、上半身がスライムとなりつつあった彼に向けて手を差し出した。

 宥めるようによしよしと撫でると、逆再生していくようにスライムはまたヒトの姿に変わっていく。

 頬を撫でる形となったニケの手から逃れ、ニキータは大きく舌打ちした。


「僕がご主人を引き渡すと思う?ご主人が殺される可能性があるっていう時点で渡すつもりはない」


 ルーカスはルーカスで殺気立っていた。

 普段からほとんど表情が変わらないのでわかりにくいが、金色の瞳が狩りをする獣のようにギラギラと輝いている。

 どうやらふたりは平和的に解決するつもりは余りないらしい、全面的に対決することを選ぶって顔だ。


(どうしようかな……)


 ドアの前にいる兄と窓の下にいる弟は聖女という存在をよく知っている、多分だけれど。

 ならばジョゼフィーヌ・マルが聖女らしくないことだって重々承知しているだろう。

 ルーカスもそれは同意してくれた。

 きっとあの兄弟はジョゼフィーヌに対して疑惑を抱いているーーー……

 ただ彼らがジョゼフィーヌをこのまま聖女として称えるつもりなのか、全面的にニケを信じてくれるのかはわからない。

 わからないから、ルーカスとニキータはニケを守ろうとしている。

 一か八でニケを危険に晒したくない一心で。


(でもあの兄弟を味方につけることができたら、私が聖女だってことは国中の人達に信じてもらいやすくなるはずよね)


 彼らはこの国を、そして聖女を守る騎士団の一員。

 町の人達がジュンシー含めて、騎士団に向けていたあの敬意の視線をニケは思い出す。


「私、あの人達に何としてもわかってもらいたいの。私が聖女で、あなた達は間違いを犯したってことを」


 ニケは間違いなく聖女だ。

 それを信じてもらうにはどうすればいい?

 疑いなんて全て吹き飛ばし、圧倒するほどの信頼を得るためにはどうすればいい?


「一気に大勢に信じてもらおうとするにはダメだと思う、段階を踏まないと。でも少人数すぎてもダメ。握り潰されちゃったら意味がないから」

「今日が新月ならなぁ!あいつらの目の前でニケが魔獣を解放したら、否が応でも信じるだろ!」


 魔女と聖女の違いは幾つかある。

 魔女は呪いを一時的に解くことができても、新月になると呪われた子達は魔獣に戻る。

 完全に呪いから解放できるのは聖女だけ。

 回復魔法を使えるのも聖女だけ。

 聖女は神に愛されているから。

 ああ、そうかーーー……ならば。


 頭の中に稲妻が走る。

 ニケは両手を突き上げつつ、ベッドから勢いよく立ち上がった。


「いいこと思い付いちゃった!やっぱり私って天才!今日から私のことジーニアスちゃんって呼んでいいわよ!」

「時間がないってわかってる?ジーニアスちゃん。どうでもいいから早く話してくれない?ジーニアスちゃん」


 ちょっとしたジョークじゃん?

 そんなに怒る?私、聖女ですけど?

 無の顔でルーカスに急かされ、ニケは泣きたくなるのを堪えつつ「その前に」と口に出す。


「ルーカス、ニキータ。何があっても絶対に私のことを信じてくれる?」


 ルーカスとニキータが目を見合わせた。

 何だかんだいいながら仲がいいんだから!

 ふたりが聞くと怒りそうなことを思うニケに、ルーカスが絞るような声で告げた。


「とんでもなく嫌な予感がするんだけど……」

「それは了承と取るわよ?いい?」


 そしてニケはふたりに計画を述べる。

 ああやっぱり、というようにルーカスは頭を抱えた。


「世界を滅亡させた方が早いんじゃねぇか……?」


 魔王様がとんでもないことを呟いた。



ブクマと感想いただけたことが

嬉しすぎてはしゃいでいたら

早めに更新できました(°▽°)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ