聖女の美しさは罪なのか ー03ー
「弟がご迷惑をおかけしたようで……」
「かけてねぇよ!」
「ズーハオ、うるさいですよ。何かあったら騎士団の宿舎まで来てください。私が対応します、ジュンシー・リーを呼べといってください」
「隊長様」ーーージュンシー・リーはそういうと、柔らかな笑みを浮かべる。
飛びかかりそうな赤髪の男性ーーーズーハオにも笑顔を向けたが、その顔を見た瞬間にズーハオの顔が青ざめた。
にっこり。
ジュンシーは改めて、ニケ達に向けて微笑む。
それにしてもよく似てる。
コピーしたみたいに同じ顔だ。
弟といっていたから兄弟なのだろうけれど、それにしたってここまで似るだろうか?
違いは眼鏡をかけているかいないかくらい。
それなのに、目の前にいるふたりはまるで正反対のように見えた。
双子……なんだろうか?
それにしたってこんなに同じ顔なのか……
「ありがとうございます。行こう、ミランダ。ニキータも」
「ミランダ?」
ルーカスが手を引っ張る、立ち去ろうとして。
これ以上関わりたくないというように。
相変わらずニキータは眉を寄せていた。
ニケはそんな中、かすかな声で囁いた。
「ステータス」
ふたりの赤毛の青年に向けて。
ニケにしか見ることのできない半透明の板が2枚現れ、文字が表示される。
名前、騎士団所属、強さ……
ジュンシー・リー
双竜の魔獣:SSS★
火属性
ズーハオ・リー
双竜の魔獣:SSS★
水属性
(やっぱり兄弟なのね……そしてSSSで星付き……ん?待って?)
双竜の魔獣なんて見たことない。
それよりも気になることは「星付き」ということ。
星付きはそのランクの中で一番強い者にしかつかない、ルーカスに星が付いているのは蜘蛛の魔獣の中で一番強いから。
それなのに何で、星付きがふたり?
(???同じくらいの強さってことかしら……)
よくわからないが、考えても仕方ない。
ニケはルーカスに引っ張られながら、ちらりと赤毛のふたりを振り返る。
こんなにも強い人達やルーカスみたいに最高ランクの強さを持つ魔獣なんていたら、絶対に話題になっているはず。
けれど学園から逃げる、なんて聖女様なら有り得ないルートにしか出てこないのならば到底出会えるはずもないのは当然。
もはや今、この状況は本編からはかけ離れていることをニケは改めてひしひしと感じた。
(私が聖女様じゃない時点で違うんだけれど)
そこまで考えて、ニケはふと眉を寄せる。
この兄弟の名前には見覚えがあることを思い出したのだ、この町に入ってから何度も見た名前と。
ステータスの下部にニケは視線を落としていく、多分そこにも「あの」名前があるだろう。
「やっぱり……」
小さな声でひとりごちた。
この町に入って以来、何度も何度も見た名前。
町にいるほとんどの男性のステータスの下部、『解放者』の欄にあるその名前ーーー……すぐに予想はついた、それは前の聖女様の名前だと。
聖女様でないと本当の意味での呪いからの解放にはならない、新月だけ魔獣に戻るような危険は犯せないからこそ確実に呪いが解けた者たちだけが町に定住できる。
町の人達には首元に印があった。
太陽と鐘の印。
神の声を示す鐘があるということは、それは聖女の証。
急死したという先代の聖女様に呪いを解いてもらった者達なのだろう。
その聖女様の名前はーーー……
「チェンシー・リー……」
よくある名前ではない。
『リー』。あの彼らと同じ苗字。
ニケの記憶を遡ると、確かに先代の聖女様は赤毛だった。そして緑色の瞳。あの2人と同じように。
(先代の聖女様の親族……?)
人混みの中でもよくわかる、燃えているような真っ赤な髪。
双子で、同じ顔で、双竜というよくわからない魔獣で、何故かわからないけれどふたりとも星付きで、そして先代聖女様の血縁者?
うーん、これは…………
「ルーカスさん、ニキータさん……誠に残念なお知らせがあるんですが」
「ご主人の性格以外に残念なことなんてあるの」
「失礼すぎない??」
「ミランダって誰だよ」
「まだその話してんの?」
何とか無事に宿屋に帰ってこれて一安心したことも束の間。
ニケは大真面目な顔をして、ふたりに向き合う。
それなのに何だこいつらは!
いいから話を聞いて!とニケは強引に話を続けることにした。
「先代聖女様の血縁者?あー……そういえば確かに先代の聖女様も赤毛だったね。あの双子と同じように」
ニケには簡単な情報が見えることを含め、ざっくりと経緯を説明するとルーカスは納得したようだった。
曰く、あの若さで騎士団の隊長というのは珍しいと思っていたらしい。
けれど聖女の血縁者というならば納得できる。
「あ、やっぱり双子よね?」
「あんなにそっくりで双子じゃないっていうならドッペルゲンガーだよ」
「前の聖女ってあの弱っちいやつかー……」
ぽつりと呟いたニキータを、ニケとルーカスは同時に見た。
先代の聖女様が急死したことは周知の事実。
もしかして急死の原因はーーー……?
室内に不穏な空気が漂う。
はたとそれに気付いたニキータは「違うからな」と、目の前で手を振った。
「俺様は殺してない!!」
「ニキータ……いいのよ。あなたは魔王様だから、そういうことをすることが宿命なのだし」
「違う違う!ていうか勘違いすんなよ!!俺がこうやって会いに来たのはニケだけだ!!いや寂しいからじゃねぇし!!ニケが一番ぶっ潰しがいがあるな!と直感で思っただけだし!!」
「そういうの聞いてないし」
ニキータは近くにあった枕をルーカスに思い切り投げ付ける。
あまりに近くから投げ付けられ、避けることも出来なかったルーカスは顔面にまともに枕を食らった。
無表情のまま、ルーカスは大きく舌打ちする。
「うわーーダッセーーー蜘蛛なだけでもダセェのにクソダセェ!」
「語彙力が乏しくて可哀想」
「は?なんだって?やんのか?かかって来いよ」
「後悔するのはアンタってことを理解できない頭なのも可哀想」
「やっぱりもう一度、あのふたりには会っていた方がいいわよね」
一触即発の空気を全くもって無視したニケの一言に、ルーカスが固まった。
作り物みたいに綺麗な顔を向け、「え?」と声を漏らす。
「会うの?追われてるのに?殺されるかもしれないってわかってる?」
「でも聖女様の血縁者だったっていうなら聖女の生態を知ってるでしょ?少なくとも他の国民よりは詳しいはず。それなら偽物と本物の違いだってわかってくれるんじゃないかしら」
この世界では「聖女」という存在は絶対。
私が聖女様です!なんていったところで、簡単に信じてくれるとは思えない。
ジョゼフィーヌとニケのどちらかが聖女だと示す時、「聖女」という者をよく知る人達はきっと力になる。
ルーカスは頷いた。
「なるほどね……何いいだしたんだこいつ正気か?と思ったけど、ご主人にしては珍しく一理ある」
「いつも一理ありますけど!?私に対しての信用度低くない!?」
「そうなるとスライム男の存在が邪魔だね。魔王だし。やっぱり物理的に消そうか」
「は?戦争か?相手になるぞ?」
再び部屋の中に不穏な空気が流れた時ーーー……ひとつの音がした。
コンコン、という小さな音。
誰かがドアをノックした音。
「……だれ?」
一番ドアの近くにいたルーカスはすぐさま、窓際近くのニケの元に移動した。
ドアを睨みながら、ニケを守るように自分の後ろにやる。
「こんにちは。先程お会い致しました、ジュンシー・リーと申します。よければ少しお話ししませんか?」
ドアの向こうから優しそうな声が聞こえた。
声を聞いているだけで微笑んでいることがわかるような、甘い声。
その声は優しそうだけれど、何かを企んでいそうで、そして……
「変なことを考えないでくださいね、ここは既に包囲されております。私だって命の恩人に手荒なことはしたくありません……どうしてもというならば手段は選びませんが」
絶対に有無をいわせないって声。
ニケは窓から外を見下ろす。
窓の下には白亜の鎧を着た騎士達と、その真ん中で赤毛の青年が不機嫌そうに立っていた。
彼はニケの視線に気づくとこちらに向けて指を差す。
「気が効くね、まさかあちらからいらしてくださるとは」
ルーカスが皮肉っぽく笑った。
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