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4月2日

僕は一晩、登紀子さんについて考えていた。


彼女は何処に住んでいるのか。

話を聞くところ橋の向こうらしいが、それなら僕と同じ地区ではないか。


小学校や中学校で1度もあったことがないのは何故なのか。

最近、越して来たのだろうか。


それに…



何故、服がいつも一緒なのだろうか。

よほど気に入っていたとしても年頃の女の子が同じ服を毎日着るっていうのは、どうなのだろうか。


貧乏なのだろうか…。




この話はよそう。




彼女を傷つけるわけにはいかないから。







16時になるまで、僕はひたすら時間と戦った。

さしてする事もなく、TVも見ることもなく音楽だってさほど興味はない。


後は読書といったところだが、哲学や心理学をもう今更読んだところで

仕方ない。

今度、小説でも買いに行くか。





昼ご飯を食べ、再び時間と格闘した。

時間まで長すぎるから無理やり目を閉じて昼寝をすることにした。



ピピピッ…

目覚ましが鳴る。



予想外に眠りすぎたようだった。



時計を見ると15時半を回っていて、僕は慌てて身だしなみを整えた。




どうしようか。


16時丁度に行った方がいいのか。

それとも5分前?それとも5分後…?



いやいや…。




彼女はなんだか不思議な人だし、男が早く行こうが遅れようが

そんな事は関係ないように思えたから、

僕は時間を逆算して16時ぴったりに向こうに着くようにしようと思った。





自転車を跨ぐ。


腕時計を見ると丁度16時ぴったりだった。



登紀子さんはまだ居なかった。




と思ったら向こうの橋から白いワンピースが見えた。




来た。




向こうで微笑んでいるのか登紀子さんから白い歯が見えた。



僕は軽く手を振る。




手を振りながらふと気持ちが沈む…



何故だろうか。





その原因は登紀子さんの顔を見たら解ったような気がした。




徐々に近づいてくる登紀子さんの顔。




笑顔なのに泣いている…?





頬には枯れてない涙の跡があった…







「おまたせしました。」

登紀子さんが微笑んだ。




「い、いや、全然待ってないよ。時間きっちりに来たし。」




「そうですか、良かった。」

登紀子さんは橋の定位置に着くと、再び滝壺を覗きこんだ。




「あの…今日何かあったんですか?嫌な事でも…」



「……」


登紀子さんは黙ったままだった。



「あの…僕も実は嫌な事があったんですよ。

てか現在進行中です。ハハッ‥

嫌な事ってよりも人生が嫌になったっていうか‥その…」

  




登紀子さんは振り返り「ありがとう」と言った。




僕は何故お礼を言われたのかイマイチ良くわからないまま、

「はい」と答えるしかなかった。





「良ければ、賢治さんの嫌な事話して下さい。」




僕は、「賢治さん」と呼ばれた事にすっかり舞い上がってしまった。






「あ、はい!!あのぅ…実はですね…」

僕はこのテンションで話すべきではないと気づき、コホンと咳払いをした。



「情けない事ですが…」

僕は、これまでの人生や大学受験、人間関係、親子関係、

溜まっていた鬱憤を晴らすかのように登紀子さんに話した。




その間登紀子さんは一言も話さず静かに聞いてくれた。







「…とまあこんな感じなんです。」







「……。」




  


僕が話終わっても登紀子さんは何も言わなかった。





何か僕が嫌な事でも言ったのか、気に障る事でも言ったのか、

不安になりたまらず、






「あの…僕、何か失礼な事でも言ったかな…もし、な、なんか気に障る事でも

言ったならすいません!!」






「……。」







「あの…っ」と言いかけた時に

















【じゃあ、一緒に死にますか?】










-----------------------

----------------

---------




僕はあの後、まったく記憶が無い。


気がついたら僕の部屋に居た。


どうやって帰ったのか。


僕はあの言葉になんて返したのか。


最後どうやって別れたのか。



僕の頭の中でガンガンと鐘を鳴らしているかのように頭が痛い。














ふぅとため息をつく。





こんな時は…

と携帯を持ち電話番号を押す。




呼び出し音と共に脳天気な声が返って来た。





「はいはい~!賢治じゃーん。どーしたのー珍しいな~お前から掛けてくるなんて。」

こいつは田中と言って、僕の幼馴染だ。



小学校は同じで中学から別れてしまったけれど、家が近所なせいもあって

いわゆる腐れ縁となっていた。



俗に言う3流大学に行って、

今まさに頭からチューリップが咲いている頃だろう。




「あのさ…聞きたいことがあるんだけど」




「何々~?勉強の事以外ならなんでも教えちゃうよー!」




お前から勉強の事を聞いたら世も末だ。




「あのさ…好きな子がいるんだけど…。」





「えっ!まーじでぇー!いや~賢治、お前大学落ちて良かったよ。

人生捨てたもんじゃないよな。お前が恋するなんて。

で、どんな子?名前は?住所は?美人か?ん?ん?」




コイツは僕の一言に対して何十倍もの返事が返って来る。



こんな事さえなければコイツに電話する事なんてなかったのに…。

しかも一応僕にも彼女居たし…。





「名前は登紀子って言うんだ。」





「へぇ~今時しぶい名前だね。で?」





「終わり。」





「え?名前だけ??」






「うん。」





「お前さー‥ハァ…」

と電話口からわざとらしく大きなため息が聞こえてきた。




田中からため息を付かれるとは考えた事もなかった…




「苗字は?」





「知らない…」





「お前さ、今時小学生でも苗字と名前くらい聞くよ?お前は小学生以下か?」





「じゃあ、もういいよ。」

イラッと来た僕は電話を切ろうと思った。





「わわわわ、まあ、待てよ。賢治、切るな。まあ、女の事は俺に任せとけって。いいか、メモを取れ。」




僕は言われた通りにメモと鉛筆を持ちだした。




「いいか、まずは苗字、名前はOKとして、電話番号、携帯のだぞ。今時、家電に掛けるやついないからな。

それから家族構成、これは以外と大事なんだ。とくに親父が厳しいかどうか、ここ重要な。OK?」





「うん。」




「それから、住所、これは曖昧でもいい、苗字が解れば探せるから。あと年齢に誕生日、学生なのか社会人なのかあと、これが一番大事。

彼氏はいるのかだな!まあオマケとしてスリーサイズも聞いとくといいよ。」



最後の言葉は聞き流して



「OK、サンキュー。」と言って電話を切った。




これ以上田中と話すと僕の脳みそのシワが全部なくなってしまうからだ。



とりあえず、登紀子さんに聞く内容はまとまった。



後は…

って田中に肝心な事を聞くのを忘れていた。

 



好きな人に「一緒に死にますか?」と言われたらどうするのかと…。




普通なら「何を言っているんだ、僕と一緒に生きよう!」とか

「僕は死にません!貴方が好きだから(古)」とか

言うんだろうけど、登紀子さんにそんな上辺だけの事を言ったところで

僕の気持ちが伝わる気がしないし。



まあ、こんな難しい事は田中の脳みそでは理解出来ないだろう。

僕だけで考えよう。



明日…





もう1度、登紀子さんに会おう。

僕は登紀子さんの笑顔を思い浮かべながら眠りについた。


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