3月30日
僕は自分の部屋でぼーっと…
夢も希望も失った僕には、もはや時間なんてどうでもよかった。
1ヶ月前までは、机にかじりついて勉強していたっけ。
当時は時間が足りない、足りないと焦っていた。
今じゃどうだろう。
1分がこんなに長かったのかと、初めて知った。
1日がたまらなく長い。
これといった趣味がない僕には、好きなものもない。
僕の誕生日に買ってもらったAQUOSのクアトロン80型すらTVを見ない僕には邪魔なだけで埃を被っている。
フーッと息を吹きかけ埃を落とす。
とりあえずやることもないので、TVをつけた。
ニュースでは政治についてコメンテーターが必死に喋っている。
お前の政治評論なんて聞きたくもない。
チャンネルを変える。
「今流行りの春コレ最新ファッション特集」
流行りなんてまったく知らない僕は、まるで別次元の物を見るかのように赤や黄色、黒に白と次々に変わる服を見ていた。
僕ってかなりの時代遅れだよな…。
Tシャツにジーンズ。
僕のクローゼットには3色しかないTシャツ。とりあえず同じ色だと着替えていないと思われるのも癪に障るので。
今日は白。
明日は黒。
次の日は灰色。
の3色。
まあ、流行りなんてどうでもいいか。
流行りで思い出したけど、あの子も今時にしたら相当時代遅れの服着てたよな…。
今時あんなワンピース探そうと思ったら、死んだおばあちゃんのタンスから引っ張り出したって見つかりっこないかも…。
ふと窓を見た。
日光避けの青い分厚いカーテンを開ける。
あのワンピースの彼女は…
「居ないか…。」
観光か何かで来ていたのだろうか。
落し物は見つかったのだろうか。
そんな事を思いながらカーテンを閉めようと手にとった時、白い人影が見えた。
「あ…居た…。やっぱ見つからなかったのかな‥」
僕は、財布と携帯をポケットに乱雑に押しこみ部屋を出た。
自転車に跨り、風を切り突き進んで行く。
彼女を目で捉えたから自転車を降りた。
自転車を押しながら1歩1歩と近づく。
彼女はやはり橋の上から滝壺を覗き込んでいた。
高鳴る心臓を抑えて
「こんにちは。」
と声をかけてみた。
彼女はゆっくりと振り返る。
「こんにちは…」
僕は「ども」と言いながら何故か照れ笑いする…。
昨日とは違って目をまん丸にすることはなかった。
「あの、探しものまだ見つからないんですか?」
「いえ…そうじゃないんです」
彼女はゆっくりと髪を耳に掛けながら微笑んだ。
「そうなんですか…てっきりまだ見つかっていないのかと…」
彼女は首を振り再び視線を下に戻した。
「あ、あの‥観光ですか?」
今度は彼女は下を見つめたまま
「いえ‥ここに住んでいます。」と答えた。
「ここなんですか‥初めてみる顔だしてっきり観光の方かと‥。
あの‥家は何処らへんなんですか?」
会って2日目でこんな事聞くのも変だとは思いつつも口が勝手に動いていた。
「向こうの方です。」
彼女は僕の家と反対方向を指で差した。
「なるほど。僕の家はここから見えるんですよ。
ほら、あそこの赤い屋根の青いカーテンを引いているところです。」
僕は怪しい物じゃないという意味も込めて、僕の家の方を指差した。
「素敵なお家ですね。」
「ははっ、そうかな‥。あの部屋は僕の部屋なんです。
僕の部屋からここよく見えるんですよ。今日も…」
「貴方を見つけて」、と言いかけて口を噤んだ。
いきなりそんな事言ったらストーカーみたいだし…。
彼女はクスッと笑いながら、
「私もう帰らないと…」と言った。
「あっ、はい!僕も帰らないと…」
「はい…」
彼女は微笑んだ。
「あ、貴方の名前聞いてもいいですか?」
「私は登紀子といいます。貴方は?」
「登紀子さんですか‥僕は賢治と言います。」
「賢治さんですね、ではまた…」
ペコリと会釈をした。
「はい!また!」
僕は再び自転車に跨り家路に着いた。
登紀子さんか…
何をしているのか聞きそびれてしまったけど、また明日聞こう。
何故かは解らないけど明日も会える気がした。




