目覚め
蛍が僕の元へと飛んで来て…
僕の手の平へ止まった…
どうしてなのかは解らないが
涙がポタポタと流れ落ちた…
蛍の光が眩しい…
僕はゆっくり、ゆっくりと…目を閉じた‥。
◆
ピッピッピッ---
一定のリズムを刻む音が聞こえた‥
僕の手がピクリと動く‥
耳が聞きなれない音を捉える‥
僕は静かに目を開いた…
深い深い眠りからやっと目覚めたかのように‥
「先生、賢治が‥!」
聞き覚えのある声‥
母さん…
母さん…
母さん…母さん…母さん…お母さん…
「…ごめんなさい‥」
僕の瞳からは一筋の涙がこぼれ落ちる。
僕は母さんに握られた手を握り返した‥
母さんは僕にすがり付き大粒の涙を流していた‥
◆
そして1週間が経った…
コンコン---
部屋がノックされる。
「賢治、お前良かった!!本当に良かった!!」
田中だった‥
「おおぅ‥迷惑掛けたな‥」
「気にするなって。それより身体はもう大丈夫なのか?」
「もう大丈夫だって言ってた、もうすぐ退院出来る。」
「そうかそうか、良かった!」
そう言いながら、田中は僕の見舞い品のバナナを食べだした。
クスリと笑が溢れる。
◆
「…なあ、田中…1つ聞いてもいいか‥?」
「んー?なに~?」
「…登紀子さんって居ただろ?」
「……?ん…?」
「登紀子さんだよ。」
「…え?誰それ。」
田中はさほど興味がないらしく、次の果物を漁っていた。
「…お前、ふざけてるのか?」
「ハハハ~ふざけてるのはお前だろ?賢治。」
と首を傾げた。
「おいおい‥田中‥あんな目に合ったのに覚えてないのか?
登紀子さんだよ。僕がバイトに行って、毎日30分間しか会えなくて
日傘と鈴のキーホルダーあげてさ、それから、田中、お前と一緒に
星見に行ったじゃないか」
「…はぁ?賢治やばいって‥お前やっぱ頭打っただろ‥
何言ってるの?お前、バイトも行ってないし、俺と星も見てねーよ。」
僕は何がなんだかさっぱり解らなかった…
◆
「お前さ、きっと夢でも見てたんだろ。」
田中が笑いながらそう言った‥
夢…?
そんなはずはない‥
じゃあ僕は何故こんな目に遭ったんだ…
「だって…僕が登紀子さんを止めようとして、突き落とされて‥」
「待った、待った。記憶を塗り替えようとする気持ちは解るけど‥
お前は自殺しようとしたんだぞ‥」
「…え…?本当か?それ…」
田中はコクリと頷く。
「…いつ??いつの話しだ?それ‥」
田中がうーん‥と考える。
「たしか…大学の結果発表の後しばらく経って…
3月29日かな。」
3月29日‥?
僕は目を閉じ、考える…
あの時の事がフラッシュバックする‥
◆
たしかに‥
あの日僕は【死にたい】って思った。
でも、あの時、登紀子さんを見つけたんだ…
登紀子さんに出会ってときめいて…
それなのに何故…?
わけが解らない…
「俺さぁ…帰り道でお前を見つけてさ‥
確か夕方の4時頃だったよ。お前、すげー思いつめた顔しててさ。
なんか危ねーな‥って思って声掛けようとしたら
お前、もう身を乗り出しててさ…
ヤメロ、ヤメロって何度も叫んだんだぜ…。
1回俺の方へ振り返ったから辞めるかと思ったら…
そのまま…飛び降りたんだ…」
「………。」
僕は言葉が出ない‥
「でも…運が良かったよ。本当に。本当なら即死なはずなのに
何かクッションでもあったみたいに、お前はかすり傷だったんだ。
頭は打っちまったみたいだけどな。」
クッション…?
僕はあの三ケ池から飛び降りたのか…
あんな所から…
確かに…
そんな気もするけど…
何故か納得出来ない…
田中は「良かったな。」と言って僕の背中を叩いた。
「それとさぁ‥お前、1人で悩むなよな。俺が居るんだし、
何でも言えよ、彼女も紹介してやるからさ!」
そう言って、田中は帰って行った…
◆
僕は考える‥
一体どこまでが夢で、どこまでが現実なのか‥
田中の言っていたことが本当ならば、
【登紀子さん】は全て夢だったって事なのか?
こんなにリアルに覚えているのに…
【確かめよう】
…と僕は思った。
点滴を引っこ抜き、パジャマのまま病室を抜けだした。




