9780回目の真実
もう何年前なのか
何十年前なのか
それとも何百年前なのか…
私には解りません…
私には婚約者が居ました。
名前はもう覚えていません…
でもとても愛していました。
ある日、婚約者は不慮の事故で亡くなりました‥
彼の居ない人生がこんなにも辛いなら
彼の元へ行きたいと願いました。
来る日も来る日も願いました。
だから…
私は彼が亡くなったこの場所で…
彼の元へ行こうと決めました。
きっとまた会えると思っていたのです。あの世で…
背中に夕日をあびて彼の思いを胸に
私はここから飛び降りました…
だけど、私は死ねませんでした。
目が覚めました…
身体中に激痛が走りました。
私は気が付きました。
死ねなかったんだと…
だから私は、もう一度死ぬことにしました。
彼の元へ行きたかったから…
だけど、毎回…目が覚めるんです…
このまま眠っていたいのに目が覚めるんです…
覚めてしまうのです…
◆
彼女が話し終わった時…
僕の携帯が鳴る…
田中からだった。
無視しようと思った。
呼び出し音は切れた。
…と思ったら再び呼び出し音が鳴る。
ひつこい奴だ…
仕方なく通話を押す。
「はい。どうした?」
「賢治!今どこだ??」
電話の感じでえらく慌てているみたいだった。
「どこって…家だよ…。」
「嘘つけ!今家に行ったけど居ねーじゃないか!!まさか…
あそこじゃないだろうな?!逃げろ!今すぐ逃げろ!!
待ってろ。すぐに行くから!!!」
「何言ってるんだ?もう解ってるさ。
慌てたって仕方ない。落ち着けよ…僕はもう大丈夫だから。」
「待て!!切るな!!お前、殺されるぞ!!
俺の母ちゃんの知り合いにすげー見える人がいて、昨日俺の家に
来たんだ。そしたら…すげー地縛霊だと。一緒にいたら引きずり込まれるって!
泡吹いて倒れたんだ。そのババアが!いや、だからとにかく、ババアが
倒れるくらいすげーヤバイんだって!!」
「解った解った。知ってる。だから落ち着け…」
…と言った時だった。
僕の背中がゾクリとする…
時計を見ると16時35分…
◆
もの凄い殺気を感じる…
僕の背後からギリギリと迫って来る…
後ろから青白い手が伸びて来る…
「エッ‥?」と振り返った時には
僕はもの凄い力で橋の手すりに押し付けられた‥
「クッ…」
ギリギリ‥まるで金属を擦り合わせたような不快な音
ギリギリギリギリ……
登紀子さんが歯を食いしばっている音だ…
ニヤリと笑う…
笑った歯茎から血が滲み出ている…
胸ぐらを掴まれ、僕の…足が…宙を浮く…
「や…やめろ…やめろ…」
手を掴もうとするが僕の手は宙を切る…
首が締まって息が出来ない…
身体中の血液が全て頭へと登って来る‥
「た‥助けて…助けて・・…」
僕は…
ここで死ぬのか…
意識が朦朧とする…ここで意識を失ったら…
僕はこの橋から真っ逆さまだ…
ギリギリギリギリ…
ギリギリギリギリギリ…
登紀子さんはニヤニヤと笑い続けている…
「ネエ…一緒に…死のう?ワタシの事…好きなんデショ…
ヒトリで寂しかッタ…サミシカッタ‥サミシカッタ…」
僕は必死で手すりに捕まる…
片足を壁につけ踏ん張る…
だけど…だけど…もう…
もたない…
クッ…。
田中…
もう少しお前の言うことをちゃんと聞いておけばこんな事に
ならなくて済んだのに…
ごめん…
◆
涙が滲み出て来た…
朦朧とする意識の中で…もう一度…
ぼやける視界の中で登紀子さんの顔を見つめた…
短い間だったけれど、楽しかった。
貴方に会いたくて、会いたくて
一日たった30分が楽しみで…
コーヒーを美味しそうに飲んでいる貴方が可愛くて
日傘を差しクルクル回る貴方が眩しくて…
鈴をつけた貴方がとても素敵で…
僕に夢と希望を与えてくれた…
僕は…これでいいのかもしれない…
貴方と一緒に死ねるのなら。
…と。
◆
「賢治!!!」
遠くから田中の声が聞こえた…
「賢治!!ヤメロ、ヤメローー!!」
田中…
ちょっと遅かったな…
僕はもうだめだ…
でもこれでいいんだ…
これが僕にしか出来ない事だから。
僕は…
全身の力を…抜いた…
僕の身体が宙を舞う…
重力に逆らって僕は宙を舞う…
ゆっくりとゆっくりと……
暗い暗い底なし沼へと落ちて行くように…
◆
「…賢治さん…」
最後に…
登紀子さんの声が聞こえた気がした‥
【【【 ドスン!! 】】】
「賢治---けんじぃぃぃぃ……!!」




