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5月1日

昨日、あれから僕に一体何が起こったのか。

頭の中で整理しようと考えるんだけれど、整理出来ない。



ただ1つ、明確なのは


【彼女は僕の目の前で飛び降りたという事。】



何故彼女は飛び降りたのか…


彼女は一体…



僕はハッ!となる。



携帯と財布をポケットにねじ込み部屋を飛び出す。



リビングから母さんが「賢治、朝ごはん食べて行きなさい!」と

叫んでいたけれど無視して家を飛び出した。


自転車に飛び乗る。



橋へ向かった。




そこには誰も居ない。



「登紀子さん、登紀子さん!!登紀子さんっ!!」



何度か呼びかける。



朝の日差しが僕を照りつける。

小鳥のさえずりが聞こえる…


本来なら背伸びをして気持ちいいと感じる朝だろう。



「登紀子さん!!…居ないか…」



僕は、ドスッっとベンチに腰掛けた。

「不法投棄」と書かれた紙をベリッっと剥がす。



背もたれに書かれた、相合傘が無性に悲しくなる…

これを僕が書いた時、登紀子さんはどんな思いで見つめていたのだろうか…




ズリッ…

ズリッ…ズリッ…



聞き覚えのある音が聞こえて来た。


朝日が眩しくてハッキリとは見えないけれど。


お化けは夜にしか出ないと言ったやつは一体何処のどいつだ。

こんな天気のいい朝にもちゃんと出るんじゃないか。



さすがに、朝のこんな時間だから昨日ほどの恐怖はない。



ズリッ…

ズリッ…ズリッ…




登紀子さんの姿が見えた…


真っ白なワンピースにはドス黒い血が染み渡り、

ポタポタと血を流し、アスファルトに血が落ちているはずなのに

落ちた瞬間にスーっと消える…



「登紀子さん…」

僕は立ち上がる。



「貴方、やっぱり…ここで亡くなったのですか…?」




登紀子さんは俯いたまま何も話さない。





「なぜ、こんな事を続けるんですか!!」




僕は、怒りと恐怖の中で怒鳴った。




「…アト…245カイ…デ…死ねる……」




「…。」



「…アト…245カイ…デ…死ねる……カナラズ…」




「…アト…245カイで10000カイ…ニ…ナルカラ…」





後245回で1万回…





貴方は…こんな事を何回も続けていたのか…





何度も何度も飛び降りて



地面に打ち付けられて…



何度飛び降りたって死ぬことなんて出来ないのに…



だってもう、肉体は滅びているのだから…



【魂】だけが永遠の時を刻み

【記憶】だけとなった念がこの場所に留まる。




たった一人で



雨の日も風の日も、朝から晩まで無限の時間の中で…







僕の胸が…

張り裂けそうになる…

この僕に何が出来るのか…









【時が経つのを待っているんです‥】




あの時の言葉を思い出した。




僕は、1つ大きく息を吐き出し、携帯を取り電話番号を押す。


「あ、もしもし。店長ですか?

立花です。すいません、今日は急用が入って行けません。

すいません。はい、失礼します。」



ピッ。



電話を切る。




「登紀子さん…

今日僕は1日ここに居ます。」




登紀子さんは黙ったまま俯いている…




「僕は必ず貴方を止めて見せます。」



だから、これで最後、いや....

今日で最後にしましょ...




お願いだから....



だけど...僕の願いは今の登紀子さんには届かない....





登紀子さんは手すりに身を乗り出す…




「…コレデ…死ねる…コレガ、きっとサイゴ…」




そう言って、登紀子さんは僕の目の前から姿を消した…




僕は、呆然としながら橋の下を覗きこむ。




やはり…


死体なんてなかった。



だけど解っていてもやるせない...


僕はグシャグシャと頭をかきむしる。






どの位経ったのだろうか…




ズリッ…

ズリッ…ズリッ…



やっぱり戻って来た…



ズリッ…

ズリッ…ズリッ…



「…マタ…死ねなかった…ドウシテ…ドウシテ…」




ズリッ…

ズリッ…ズリッ…




やはり、さっきよりも醜くなっていて

足は折れ曲がり、腕は力なくダラリとし、左手で心臓を掴んでいた…




ズリッ…

ズリッ…ズリッ…



僕の前を通り過ぎる。



「ツギハ…キット…死ねる…カナラズ死ねる…」



そう呟いて、


彼女は再び僕の目の前から消えた…








「マタ…死ネナカッタ…ドウシテ…」

    ・

    ・

    ・

    ・

「マタ…シネナカッタ…ドウシテ、ドウシテ…」

    ・

    ・

    ・

「マタ、死ねなカッタ…ドウシテ…」

    ・

    ・

    ・



「アト…238‥カイ…」






何度、僕の前に現れては消えを繰り返したのだろうか…

もう見てられないほど、彼女の姿は酷く醜く…

思わず目を背けたくなる…





彼女が再び、橋に身を乗り出そうとした時、




「貴方は、僕を本当に好きで居てくれていましたか?」

僕は呟く…




彼女の動きが止まる…






声がもう出ないのかもしれない。

喉がパックリと開きヒューヒューと呼吸が漏れる音がする。





「…アナタがスキ…」




もう…


視点など合わない瞳でボロボロと泣きながら


彼女は僕の事が好きだと言った…。





「…ダカラ…死んで…もう1度…ヤリナオシタイ…」





彼女は再び橋から身を乗り出す。







「ツギは…死ねる…カナラズ…し…ね…る…アト…220カイ…」




僕は思わず、彼女の腕を掴んだ。



「もう、辞めろ。もう辞めてくれ!いい加減にしろよ!!」




彼女を掴んだ手はヒンヤリと冷たく、形などあるはずなんてないのに

僕の手に大量の血が流れ落ちる…




肉体なんてもうとっくにないはずなのに、彼女の魂が

肉体を創りあげてしまっているのだろうか…




それとも僕の錯覚なのだろうか…











もう…


何も解らない…








涙が止まらない…





僕にしてあげられる事なんて何もないのかもしれない…








「貴方はもう死んでいるんです…だから…だから‥こんな事したって

何の意味ももたない…もう、辞めて下さい…辞めて下さいよ…」








「…私ハ…マダ…死んでイナイ…。

死ンデ…もうイチド…アナタニ…会いたい…」






登紀子さんは…





僕の腕を振り払い…再び、橋に身を乗り出した…





「ツギは…カナラズ…死ねる…モウ一度…ヤリナオシタイ…貴方のタメニ‥」






「ヤメロ---!!!」



僕は大声で叫んだ。






だけど…




彼女には届かなかった。





僕の声が…





絶望と言うのだろうか…




嫌、そんな簡単な言葉では済まされない…



身体の力が抜け、地面へとへたり込む。



結局、「止めて見せます。」なんてカッコイイ事言ったって

僕には何も出来ない…




何一つ助けて上げる事が出来ない…



何一つ…









再びあれから、どの位時間が経ったのだろうか…









「賢治さん…」





不意に声が聞こえて顔を上げた。


ハッ!となる…




そこには、「登紀子さん」が居た。



でも、何処も怪我などしていない。



真っ直ぐ透き通った瞳で僕を見つめていた…



僕は、時計を見る。



16時



そうか…




登紀子さんは16時にリセットされる?


だから僕との約束が16時だったんだ…






「登紀子さん…」






「……ごめんなさい…貴方を苦しめるつもりはなかった‥」

登紀子さんはポロポロと涙を流す。





「僕と話しをしましょう。僕には何もしてやれる事がないかもしれない。

でも、貴方は僕を助けてくれました。だから…僕に出来る事があれば

力になりたい…話してくれますよね?」





登紀子さんはコクリと頷いた…



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