4月29日
あの日から5日が経った。
田中も少しずつ忘れたのか、自分の家に帰るようになった。
でも‥それでも僕は「あの日」からカーテンは閉まったままだった。
雨戸は何故か開けられていた。きっと母さんが勝手に開けたのだろう‥。
今日はバイトも休みだ。
昨日、三浦さんがデートしようと言ってきた。
断る理由もなかったのでOKと言っておいた。
ブーンブーンと携帯が鳴る。
【11時ね。約束だよ。遅れたらダメだからねっ?】
三浦さんからのメールだった。
【了解】と返事を返して、フゥと溜息を着く。
これが、18歳の僕の普通な付き合い方だよな。
もうすぐ19になるけれど。
お化けと付き合っていたらこうは行かない。
うん。そうだそうだ。と自分に言い聞かせた。
さあ、そろそろ家を出よう。
まずは、飯を食って、映画見て、それから買い物だったかな…
僕は歩きながら頭の中で整理をしていた。約束の公園へと向かう。
◆
「お待たせ~」
三浦さんが10分も遅刻してやって来た。
白いミニスカートにピンクのTシャツを着ていた。
髪は可愛らしく巻き髪になっていた。
それで時間がかかったのだろうか…
メールでは自分で遅れるなと言っていたくせに‥。
「いいよ。気にしないで。」
と一応僕は言う。
「先輩、走って来たから喉乾いちゃった。」
三浦さんが手をパタパタとしながら仰いでいた。
「ああ、解った。何か買ってくるよ。」
僕は自販機へと向かう。
何を飲むか聞いてなかったからとりあえずコーヒーを2本買った。
「はい、どうぞ。」
僕は三浦さんに渡す。
「やだー先輩ったらもう。。女の子にコーヒーはタブーですよ。
歯も黄色くなっちゃうし。お水買って来て下さい。」
水なら後ろに公園の冷水器があるじゃないか。
それを飲んでおけばいいのに‥
と言う勇気もなく、僕は渋々と自販機を目指す。
僕の片手にあまったコーヒーを見つめながら
【彼女】が美味しそうにコーヒーを飲む姿を思い出していた。
ブンブンと首を振る。
彼女の事を思い出すのはやめておこう。
今は三浦さんが僕の彼女なんだから…
◆
とりあえず、近くのファミレスへ行き、映画も見た。
ファミレスでは田中に負けないくらい自分の事を話し、
映画も謎のモンスターアニメを見させられるハメとなった。
疲れたな‥と思い出した頃
三浦さんの携帯が鳴る。
「あっ、もしもー?チイ子?なに?え?まじでー!行く行く、うん、解った。
じゃあ後でね!」
電話を切ったと思ったら、すぐさま僕に手を合わせて、
「ごめんなさい!先輩、私の友達がどうしてもって言うので行かなきゃいけなくなりました、本当にごめんなさいっ!!」
今、ここでノリノリで「行く行く。」と言った言葉を忘れたのだろうか…?
アルツハイマーなのか?もしくは超ド天然なのか…
面倒臭くなった僕は「いいから気にしないで。」と言っておいた。
「今日の穴埋めは必ずしますから!先輩、また明日ねっ!」
勝手に投げキッスを飛ばし、疾風のごとく駆け抜けて行った。
ハァ…と溜息を着く。
今時の女子高生って皆こうなのか…
仕方なく、僕は1人でショッピングでもして帰る事にした。
初給料も入った事だし。
◆
服やアクセサリーを見て歩く。
こういった事が今までなかったから新鮮な気持ちだった。
ふと女性物のワンピースが目に入った。
真っ白だけど黒のストラップも入っていて落ち着いた感じだ。
あの人に似合うだろうな‥と思った瞬間、僕は手にとってレジへと並んでいた…。
帰り道…
僕は激しく後悔する。
なんでこんな物買ってしまったのか。
相手はおぞましい幽霊だぞ。
僕の頭はおかしくなったのか…。
川にでも捨てて帰ろうかと思ったけれど…
やっぱり出来なかった。
三浦さんが入るのならこの服、あげよう。
なんて思ってもない事を思い浮かべながら。
◆
三浦さんにデートを途中ですっぽかされたし
時間もまだたっぷりあるけれど、僕は帰る事にした。
家に着き、シャワーを浴びた。
部屋に居ると、やはり【彼女】の事を思い出す。
なぜ僕は【彼女】と呼ぶのか…
それはまだ、「登紀子さん」と「あのおぞましい物体」とが同一人物だとは
考えたくもなったからだ。
ザザザーッ。
バチバチッ。
窓に激しい雨粒が降りかかる。
三浦さん、残念だね。こんな雨の中。
僕とのデートを途中ですっぽかすからバチが当たったんだ。
僕はニヤリと笑う。
母さんが勝手にカーテンを開けていたから僕は締めようと…
手を伸ばした時だった。
僕の視界の中に白い物が見えた。
「……?!」
僕はすぐさま壁時計を見る。
16時10分…
「…」
恐る恐る視線を戻す…
ここから…
【彼女】が見えた…
あの橋のところで【彼女】が立っている…
僕の身体が激しく拒絶する。
足がガクガクし、カーテンを握った手からは大量の汗が。
それでも顔だけは血の気が引いていくのを感じた。
鳥肌が立ち、胃液が込み上げてくる…
視線をそらしたいのにそらせない。
僕の目はしっかりと【彼女】を捉えていた。
「あ‥ああ…アアァ…あぁ…」
僕は声にならない声を…
【彼女】がこっちを見た。
僕に気がついたのか?
走り寄って来るのか?
それともあそこから瞬間移動でもして、この窓枠に手を掛け・・
それとも、もう後ろを振り向いたら居るのか?
僕を呪い殺そうとして、この部屋に入って来るのか。
取り憑くのか?
肉をボタボタと落とし僕をあの滝へ引きずり落とすのか?
僕の頭の中はありもしない妄想でグルグルと引っ掻き回されていた。
ザザザーッ
雨が激しくなる。
「……。」
ここから【彼女】の顔はハッキリとは見えないのに
見えるはずなんてないのに
【彼女】はこっちを見て
泣いていた…
髪を額にはりつけ、真っ白な服は、重い灰色に‥
「賢治さん…」
と僕を呼んでいる気がした…
あの時の彼女の顔が思い浮かぶ。
「‥ろよ…」
「‥やめ…ろよ…」
「やめてくれ!!!」
僕は思いっきり叫んで、カーテンを閉めた。
呼吸が乱れる。
「登紀子さん」と「あのおぞましい物体」が頭の中で入り交じる。
「…もう…辞めてくれよ‥辞めてくれよ…」
僕は…
そのまま意識を失った。




