驚愕
右足と右手ははあらぬ方向へ‥
頭からは血を流し…
顔はパンパンに膨れ上がり…
腹からは腸のようなものが飛び出し…
視点はどこを向いてるのかさえも解らなかった…
◆
本当に登紀子さんなのか…
それすら僕には解らない…
ガンガンと金槌で頭を打ち付けられているかのように頭が痛い。
キ-------ンと警告音のような耳障りな音がする…
頭が錯乱する‥
グルグル、グルグルと…
僕は思わず、胃の中から熱いものが込み上げる。
「ウォエエエ…」
ベチャベチャと僕の胃の中のものが飛び出る。
ゼエゼエとしか呼吸が出来ない。
足が動かない。
田中に助けを求めようと無理やり後ろを向く。
田中は…
目玉をひん剥かんばかりに目を見開き、ガタガタと震えていた。
「たっ…た‥たなか…」
声を振り絞った。
「うっ、け‥けん‥じ…」
田中もまるで足に力が入らないようで
ガクンと跪き、その場でゲロゲロと吐いた。
僕は…
再び前を見る…
「…登紀子さんなの…?」
もう1度声を振り絞った。
僕の身体はガタガタと震える。
前に見た…
赤茶色く見えたのはこの色だったんだ。
血と身体の体液が入り混じった‥この色…
僕の目からは沢山の涙がこぼれ落ちる…。
見たくなんてないのに、瞬きも出来ない…。
「…け…ん‥じ…さん…」
「う…嘘だろ…な、なあ…嘘だろ‥」
声にならない声を出した時、
後ろから田中に腕を掴まれた。
「賢治!!逃げるぞ!!!」
田中は震える手で僕を引きずって走りだした。
「「うわあああああああああああああああああああ!!!」」
やっと声が出た僕達は…
声が枯れるほど叫び続けた。
◆
もうどうやってここへ帰って来たのか記憶すらない…
2人で玄関に倒れこむ。
呼吸がおかしい…
ヒイヒイ、ゼーゼー、ヒュウヒュウ…
田中も同じなのか苦しそうに胸を掴んでいた。
落ち着く事なんて出来なかったけれど、
とりあえず無事家にたどり着いたという安堵感から、
田中を掴み引きずって僕の部屋まで連れて行った。
窓が開いている…
僕は慌てて、雨戸とカーテン、それに2重ロックを掛ける。
雨戸を閉める時はぎゅうっと目を瞑った。
ロックを掛けてやっと、落ち着いた気がしたけれど
田中も僕もまったくといっていいほど話す気にはなれなかった。
時計の針の音だけが聞こえる。
あれから2時間は経ったのだろうか…
田中が口を開いた。
「…なあ…あれって…本物だよな…」
「…お前も僕も見たんだから本物だろ…」
「…だよな…やっちまったなぁ…俺これから1人で眠れないよ‥」
田中が自分の頭を掻きむしる。
「僕もだよ‥」
小さく呟いて、大きくため息を着いた。
それよりも何よりも…
あのおぞましい物体が登紀子さんなのか‥。
今は登紀子さんの事を考えるだけで胃の中から湧き上がるものを感じた。
カッチカッチ…
時計の音が聞こえる。
田中は疲れきって眠ってしまった。
毛布を掛けてあげる。
コイツが居なければ、僕はあそこでショック死していたかもしれない‥。
田中が居てくれて良かった。
今の僕は、田中がこれから毎日泊まらせてくれと言って来たら
絶対に断らないだろうという自信があった。




