4月13日
今日も朝からバイトだ。
だけど今日は三浦さんも居ないし平和かもしれない。
今日は15時30分きっちりには上がって時間に余裕を持って行こう!
2日で大体の仕事の流れは解った。
まあ僕にとってこのくらいの仕事なら楽勝だ。
時計を見ると15時15分になっていた。
仕事をしていると時間が経つのも早いし良かった。
店に誰かが入ってきた。
「いらっしゃいませ~」僕は引き継ぎの準備をしながら声掛けをする。
「先輩、お疲れ様ですー」
三浦さんだった。
「ああ、もう来たの?月曜ってそんなに終わるの早いの?」
「はい、てか早退してきちゃいました~!」
ヘヘッと笑うとカウンターに頬杖を着く。
「あの、早く準備しないといけないんじゃ…?」
「先輩~あと12分もありますからっ!12分タダ働きとか嫌ですから。」
そう言った三浦さんはカウンターの外から僕の動きを見ていた。
「なーんだ‥先輩、もう仕事覚えちゃったんですか?せっかく教えてあげようと思って早く来たのに‥」三浦さんは少し頬を膨らませて僕を睨んでいた。
あの顔が気に入っているのだろうか…。
◆
「よぉ~!賢治!」
今は聞きたくない声が僕の耳に入ってきた。
田中だった。
「ここで働いているのか~最近電話もないしさ…」と言いかけて、
三浦さんに気がついた。
「ちょ、ちょ、君ここのバイト生?賢治ぃ~ここで働けて超ラッキーだよな!こんな可愛い子いるのか~俺もここで働こうかな~なんて、ハッハッハッ。」
「こんにちは。三浦明里と言います。」
ペコリと頭を下げた三浦さんを見て再び田中が話しだす。
「ちょ、賢治、この子が例の子か??えっ?どうなんだ?うん?うん?」
うざいくらいにニヤニヤしている。
「違うし…」
僕は小さく返事を返すと
「えっ?例の子って誰の事なんですか?」
と三浦さんが身を乗り出す。
「こいつさ~、今、恋してんだよ。恋!」
また田中が余計な事をペラペラと話しだす。
やはりコイツに相談したことが間違いだった…。
「ええっ、そうなんですかぁ…明里、ちょっとショック!」
「でさ、賢治さ、顔に似合わず、すげーウブな恋愛してるんだよ。」
「え~っ‥どんな人なんですかぁ?」
「んとね‥確か‥ともこだったかな、とさこだったかな…ああ、としこだったかな」
僕は心の中で【登紀子】だ!馬鹿野郎と叫んで、
「もう上がるわ。お疲れ。」
と言ってタイムカードを押した。
丁度15時30分だった。
よし。今日は間に合う。
2人に捕まらないように、さっさと店を出た。
「おいー賢治、たしか、としこだったよなぁ?」
田中の言葉を無視して。
◆
一生懸命自転車を漕ぐ。
ああ、そうか今日は時間にも余裕あるし‥そんなに慌てなくてもいいか。
自販機でコーヒーでも買っていこう。
僕は2本買うと鼻歌まじりで自転車を漕いだ。
橋が見えてきた。
腕時計を見ると57分。
丁度いい時間だ。
今日は登紀子さんを泣かせたりはしないぞ。
向こうの橋から登紀子さんの姿が見えた。
3分前だ。
僕の姿を見つけたら走ってきてくれてもいいのに…
なーんてちょっと不満思いつつも
僕はベンチに腰掛けて手を振った。
心なしか、登紀子さんはヨタヨタとしているように思えた。
体調が悪いのだろうか…
やはり右足を引きずり右腕を抑えて居た。
僕は時計を見ると59分だった。
体調が悪そうだから僕が行こうと立ち上がろうとしたら、、
登紀子さんがブンブンと首を振っているのが見えた。
【来るな】と言いたいのか。
僕は仕方なく、もう一度ベンチに腰掛ける。
時計の針を見ると丁度16時になった。
その途端に登紀子さんは走ってこっちへ駆け寄って来た。
僕は不思議に思った。
怪我してたみたいだけど…?
でも今走って来たし…。
「お待たせしました。賢治さん。」
「ううん。全然少し早く来ちゃっただけだよ。
それにしても怪我してたんじゃないの?」
僕は、登紀子さんの足と腕を見つめる。
「いえ…そんな事はないです。大丈夫だから気にしないで下さい。」
「そう‥それならいいんだけど…。」
僕の顔を不安そうに見つめながら、登紀子さんは、僕の腕に視線を移し
「あっ…」といって缶コーヒーを指さした。
「ああ、これ買って来たんだ。飲む?」
「はい。」
と笑顔になった。
「あー美味しい。」
登紀子さんは嬉しそうだった。
穏やかな時間が過ぎる。
今日は、田中が店にやって来たことを話した。
田中が登紀子さんの名前を呼び間違えた話をすると、
登紀子さんは楽しそうにケタケタと笑っていた。
田中はネタになるな…。
田中の事とついでに三浦さんの話もしたら、登紀子さんは少し暗い顔をした。
俗にいう「ヤキモチ」というやつかな?
僕は、登紀子さんに悪いと思いつつも、ヤキモチを妬いてくれている事が嬉しくて少し意地悪をしてやった。
「その、三浦さんって方が羨ましいですね‥」
と登紀子さんが呟いた。
「うん?なぜ??」
「賢治さんと一緒に働けて。きっと、その三浦さんって方は賢治さんの事が好きなんだと思います。」
登紀子さんは缶コーヒーをさすりながら言った。
女の勘ってやつか。
さすがに鋭いな…。
変に誤解されても困るし、三浦さんの話をするのは辞めようと思った。
ああ、もう30分か。
僕は、登紀子さんの肩を抱き寄せる。
「じゃあ帰るね。」
「…はい。」
登紀子さんは泣きそうな顔をしながら頷いた。
ああ、もう!!
登紀子さんとの30分は超ゆっくり過ぎて、受験までの1年はさっさと過ぎてくれないかな。
大学4年の間も一瞬で過ぎて社会に出たら、登紀子さんを迎えに行けるのに!!
僕は勝手な都合を考えながら、家へと向かった。




