4月12日
昨日は長い1日だった。たった1日会えないだけで…。
今日からバイトだ。
今の僕は勉強に仕事に恋にと輝いている気がする。
田中の言った通り、受験に失敗して良かったのかもしれないな…
フッと笑顔になっている自分に気がついた。
まあ、田中の言った通りってのが気に食わないが…。
コンビニにつくと、大田さんという人とそこそこ可愛い女子高生が居た。
どこかで見た記憶がある。
「私、三浦明里と言います。」そう言って頭を下げた女の子は
あの卒業式の時に僕に手紙を渡して来た子だった。
「あ。。僕は立花賢治です‥よろ…」
よろしくと言いかけた時に
「知ってます!立花さん、あの、私の事覚えてますか?」
と聞かれてしまった。
「え、まあ…はい…。」
僕は少し気まずくなったが、
「覚えていてくれて嬉しいです。」と三浦さんは言った。
「私ここでは先輩だけど、気にせず敬語なんて使わないで下さいね!後解らないことは何でも聞いて下さいね!」
そう言って、あの時から少し茶色くなったポニーテールを揺らしながら歩いていった。
明るい子だな…。
あの明るさが、もう少し登紀子さんにもあればいいのにな。
なんて思いながら僕は初めてのレジ打ちに挑戦した。
◆
時計を見ると15時35分を回っていた。
「すいません。僕はこれで上がります。お疲れ様でした!!」
僕は急いで荷物をリュックに詰め込んだ。
「あっ‥先輩!!」
店を出ようとすると三浦さんに呼び止められた。
「はい。何?」僕はイライラを悟られまいと三浦さんに笑顔を振りまいた。
一応仕事仲間だしな…。
「先輩、アドレス交換しませんか?これから仕事も一緒だし何かと便利な事もあるかもしれないし…」
「ああ、いいよ。」
僕はハイっと言って携帯を渡した。
「私の言いますから登録してくださいよ~」
三浦さんはニコニコと僕に言ってくる。
「どっちでもいいから登録して、時間がないんだ。」
「じゃあ、赤外線にします?それとも手打ちの方がいいかなー?あ、でも赤外線の方がいいか~。えっと、どれだっけ…」
三浦さんは時間を稼ごうとしているのかわざとらしく、僕の携帯と自分の携帯をあれこれいじくる。
時計を見る。15時45分。
ここから猛スピードで帰ったところで20分はかかる。
おいおい‥早くしてくれよ…。
「あ、あのう…明日じゃだめかな??僕、今日は急いでいるんだ」
「明日はダメなんですぅ。平日だし学校あるし‥」少しふくれっ面になった
三浦さんは、ああでもないこうでもないと言いながら携帯をいじっていた。
「出来た!はい。これどうぞ」三浦さんからやっと携帯を返してもらった。
「あ、私のアドレスちゃんと入っているか確認しときましょ。」
そう言ってもう1度僕の携帯をひったくる。
「…オッケー!いつでもメールしてくださいね。私すぐ返事返しちゃいますから。」
ふふっと笑顔を振りまいた三浦さんが少し憎く思えた…。
時計を見ると15時55分。
クソッ!!!15分もオーバーしてしまったじゃないか。
しかも1日ぶりだと言うのにたった15分しか一緒に居られないとか…
ツイてない‥。
僕の大切な時間を…
バイトなんてやめときゃ良かった…。
僕はヘトヘトになりながら自転車を漕いだ。
ああ、でも、お金を貯めたらまずはバイクを買うのもいいかもしれないな…。
◆
やっとあの橋が見えて来た。
登紀子さんはあのベンチに座っていた。
「ハァハァ…登紀子さ…ん!」
後、10m程で近づくと思ったら思わず声が出てしまった。
僕の声が聞こえたのか、登紀子さんはベンチから立った。
「ハァハァ…す、すいません‥遅くなっちゃって‥バイトが…」
そう言いかけた時に登紀子さんの顔を見ると…。
顔をグチャグチャにして泣いていた。
ボロボロと涙を流しながら…
「‥えっ…すっすいません…本当に。時間に遅れてしまって…」
僕が泣かせてしまったのかと思うと本当に申し訳なくなった。
「…もう来てくれないのかと思いました…」
登紀子さんは涙をこらえながらそう呟いた。
思わず、僕は登紀子さんを抱きしめた。
「遅れても必ず会いに来ますから。登紀子さんが大丈夫な日なら必ず‥。
だから心配しないで待っていてください。」
「はい‥」
僕は登紀子さんを抱きしめながら、何故この人はこんなにも愛おしいのだろうか…と。
出来る事ならこのまま家へ連れ帰りたいと思った。
何分時間が経ったのだろうか。
僕は時計を見る。25分。
あと5分しかないのか…。
でも今日は何も話さずにこうしていたかった。
登紀子さんが安心出来るように。
登紀子さんとの時間は本当にあっという間で、29分を過ぎていた。
あの時のような顔はさせたくないから、僕は時間を守る事にした。
「もう30分だから行きますね。」
「はい…。」
と言って登紀子さんは僕から離れた。
涙の跡はついていたけれど笑顔になってくれていた。
「じゃあ…また明日…」
とってもとっても名残惜しいけれど、僕は男だし。
かっこ良く見せたいから片手を上げてその場を後にした。




