4月17日
14,15,16日と何事もなく登紀子さんに会うことが出来た。
僕は、今日もバイトに行く。
早く仕事に行けば、早く時間も過ぎる気がしたから。
「おはようございます。」
先輩の大田さんに声を掛ける。
大田さんは眠そうに欠伸をしながらカウンターの下でこっそり
少年ジャンプを読んでいた。
「あ、新商品入ったんですね。」
「うん。」
携帯用の折りたたみ傘だろうか。
真っ白でレースのついた可愛らしい傘だった。
「これ、買っていいっすか?」
「うん。いーよ。」
大田さんは、まったく興味がないみたいで漫画がよほど面白いらしい。
片手でバーコードを読み取り、「1200円」とぶっきらぼうに言った。
漫画から目を離さずに傘にシールを貼った。
「まいど~…」
今日これ登紀子さんにプレゼントしよう。
いつも日差しの中で話しているし、
まあ夕方だからそんなにきつくはないんだけど。
でもこの「白」を見ると登紀子さんを思い出すんだ。
大田さんが帰り、僕はしばらくの時間一人で働かなくてはいけない。
朝のピーク時間を1人で乗り越えるのは大変だ。
いつもなら店長夫婦が手伝ってくれたりするんだけど。
どうやら昨日、夫婦喧嘩して奥さんが実家に帰ったらしい。
そして店長が奥さんを追って今は居ない‥
まあ、ハタ迷惑な話だが僕にとってはそれも羨ましい。
少なくとも喧嘩出来るほど
一緒に居れるんだから。
◆
ふぅと一息着く。
もうすぐ三浦さんが来るな‥
「先輩!おはよぅございまーす!」
来た…。
この絶妙なタイミングを三浦さんは決して裏切らない‥。
(悪い意味で…)
僕は三浦さんがやはり苦手だ‥
何故かは解らないけど、いつも静かな登紀子さんと居るからかな‥
登紀子さんは俗に言う「聞き上手」なのかもしれない。
僕の話しをいつもニコニコしながら聞いてくれているから。
「先輩~昨日どうしてメール返事してくれなかったんですかぁ?」
三浦さんが頬を膨らませて怒っている。
メール?
僕は携帯を見ると「未読メール」が1件入ってた…
「あっ…ごめん。寝ちゃってて。」
「寝ちゃっててって、昨日メールしたの8時ですよ!先輩、8時に寝るんですかぁ??」
「うん。」
これまた否定するのも面倒で僕はそう答えた。
「じゃあ、これからは7時にメールしますからねっ!!ちゃんと返事返して下さいよ!」
「…。」
そう言って僕の返事も待たずにスタッフルームへ入って行った…。
はぁ…女って面倒だな。
メールを見る。
『先輩♪明里はエリコとカラオケに来てますっ!返事待ってます♪』
だから、何だよ‥
エリコって誰だよ…
パタンと携帯を閉じた。
時計を見る。
11時。
今日はやけに時間が経つのが遅い…
着替えを済ませた三浦さんは、品出しを始める。
昼時のピークが過ぎ、店はやっと落ち着く。
「あ、電球切れ掛かってますね。明里、ちょっと変えるから先輩、これお願いしますー。」
「あ、電球は僕が変えるからいいよ。」
僕は裏へ脚立を取りに行こうとした。
三浦さんが走って来て、
「私がやりますから、先輩、麦酒お願いしますぅ、重いし‥」
と僕から脚立を奪う…
「じゃあ、よろしく…」
僕はそう言って三浦さんに渡した。
僕は麦酒やジュース缶の品出しを始めた。
◆
しばらくすると…
【ガタガタ…ガシャン!!】
と大きな音がして…
立ち読みをしていた少年達がビクッっとなった。
慌てて走り寄ると、尻餅を着いた三浦さんから肘から血を流して
半泣きになっていた…
「…いっ痛い~…。」
だから僕がやると言ったのに…
「だ、大丈夫??」
スタッフルームで待機していた店長が
慌てて店に出て来た。
「明里ちゃん、大丈夫か?オイ!立花!なぜ明里ちゃんにさせたんだ!
電球を変えるのは普通男がやるもんだろっ!!」
奥さんを連れ帰る事に失敗した店長は機嫌がすこぶる悪い…
「…はい…すいません‥」
「お前が責任とって病院へ連れて行け!!」
三浦さんはシクシクと泣いている…
僕は三浦さんの肩を抱き、病院へ連れて行くことにした。
時計を見ると2時を過ぎていた…
◆
「ごめね…先輩。迷惑掛けちゃって」
タクシーの中で三浦さんが謝る。
「…いや。僕が悪いんだ。三浦さんにあんな事させたから…」
三浦さんがちょこんと頭を僕の肩に持たれかかった。
僕は、小さくため息を着きそのまま我慢する事にした…
◆
「肘はかすり傷で、手首は捻挫してますね。
まあ1、2週間もすれば治りますから、
ただし重い物を持ったりはしないで下さいね。」
先生がレントゲンをみながら言う。
「「はい、ありがとうございます。」」
僕と三浦さんは頭を下げ診察室を後にした。
大した事なくて良かった。
時計を見たら15時20分になっていた…
病院というのは何故こんなに時間が掛かるのか。
辺りを見回すと、常連らしきおじいさん、おばあさんが沢山居る‥
待合のロビーは老人ホームの憩いの場の様になっていた‥
後、会計だけだが僕達の番号札を呼ばれるのはまだ先のようだ。
ここからタクシーで帰るのにも20分は掛かる…。
「三浦さん、ごめん。僕もう行かないと…」
財布から1万円札を取り出し、三浦さんに渡す…。
「これ、病院代とタクシー代。もし足らなかったら後で言って」
三浦さんはお金を手で押し返すと、
「一人で居るのも、帰るのも嫌です!」
と横を向いた。
「…でも‥。」
「だいたい、先輩が私の代わりにやってくれたらこんな事にならなかったんだし、先輩にも責任があるって店長も言ってたでしょ。
最後までちゃーんと居て下さい!」
僕は仕方なくお金を財布へ戻す‥
時計が気になって仕方ないが、出来るだけ見ないようにした‥
もう三浦さんとタクシーに乗った時には
16時10分になっていた。
登紀子さんの為に買った、日傘を鞄の中で握り締める。
今日は会えなくてごめん…
そう心の中で呟いて。
◆
その頃
登紀子は
ベンチに書かれた相合傘を愛しそうに指でなぞる‥
動く事のない青いカーテンを見つめながら…




