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『底辺配信者の俺、異世界素材でパワードアーマーを作る ~町工場から始める異世界ヒーロー計画~』  作者: バックドロップ


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第7話 その石は、エネルギーを生み出す



 翌朝。


 神代拓真は、目覚まし時計が鳴るより先に目を覚ました。


「……六時十二分」


 まだ眠い。


 昨日、真帆に「絶対寝ない」と言われたものの、一応は寝た。


 午前二時を回っていたが。


「四時間か」


 足りていない。


 分かっている。


 分かってはいるのだが――。


「追加の反応って、なんだよ……」


 気になって眠れなかった。


 三枝から届いたメッセージ。


『核について追加の反応が確認されました。明日、研究室へ来てください』


 それだけ。


 詳しい説明はなし。


 電話して聞こうとも思った。


 しかし時刻を見て諦めた。


 さすがに深夜二時に内閣府の人間へ電話をかけるほど非常識ではない。


 たぶん。


「エネルギー反応……だったらいいな」


 ベッドから起き上がる。


 左肩の傷も、もう日常生活に大きな支障はない。


 軽く腕を回してみる。


「……痛っ」


 少しだけ痛かった。


「まだ無理するなってことか」


 当然だ。


 巨大な獣の爪が掠めた傷だ。


 これだけで済んだこと自体、運が良かった。


 拓真は自室の壁を見る。


 そこには昔から一枚の絵が貼ってあった。


 小学生の頃に描いたものだ。


 空を飛ぶ人間。


 全身に鎧。


 腕から光。


 あまりに下手で、今見ると人間なのかロボットなのかすら怪しい。


 それでも捨てていない。


「……電源」


 昨夜も考え続けた。


 外骨格。


 装甲。


 生命維持。


 センサー。


 飛行。


 全部作れる。


 少なくとも、理論上は。


 だが、それらを一つへまとめようとすると必ず同じ問題にぶつかる。


 エネルギー。


「もし、あれが……」


 魔獣の胸から出てきた赤い核。


 あれが本当に高密度なエネルギー源なら。


 拓真は首を振った。


「期待しすぎるな」


 未知の物体だ。


 都合よく自分の欲しいものだと思い込むのは科学ではない。


 何度も検証し、そのうえで使えるか判断する。


「……でも使えたら最高だよなぁ」


 口元が緩む。


 科学者としての慎重さと、発明家としての好奇心。


 どうにも後者の方が強かった。


     ◇ ◇ ◇


「四時間しか寝てない?」


「四時間十二分」


「十二分を足せば許されると思ってる?」


「十二分は大事だろ」


「大事じゃない」


 午前八時過ぎ。


 大学。


 研究棟へ向かう廊下を歩きながら、真帆が呆れた顔をしていた。


「昨日、寝なさいって言ったよね」


「寝たよ」


「一般的には、それを睡眠不足って呼ぶの」


「今日は実験だけだから」


「実験する人が一番寝ないと駄目でしょ」


「正論だな」


「帰る?」


「それは嫌だ」


「即答すると思った」


 真帆がため息をつく。


 二人が研究室へ入ると、すでに久世教授が来ていた。


 それだけではない。


 三枝。


 相馬。


 さらに、見知らぬ男女が三人。


 机の上には複数の機器が並べられている。


「おはようございます」


「神代君」


 久世が時計を見る。


「早いな」


「気になって」


「だろうと思った」


 教授の視線が拓真の顔へ向く。


「寝たか?」


「四時間十二分」


「寝不足じゃないか?家に帰った方がいい」


「先生まで!?」


「冗談だ」


「先生が冗談言うの珍しいですね」


「半分は本気だ」


「半分なんだ……」


 三枝が声をかけてきた。


「体調に問題は?」


「大丈夫です」


「本当に?」


「三枝さんまで疑うんですか」


「あなたについては、自己申告を少し割り引いて判断するようにしています」


「そんな評価になってるんですか?」


「この数日で」


 真帆が横で頷いている。


「妥当ですね」


「真帆はどっちの味方なんだ」


「安全の味方」


「強い」


 三枝が小さく笑う。


「では、本題へ入りましょう」


 空気が変わった。


 拓真もふざけるのをやめる。


 相馬が研究室奥の扉を開く。


 その先。


 昨日も見た測定室。


 中央の台には、透明な保護容器。


 その中に。


 暗赤色の石。


 魔獣の胸から回収された核が置かれていた。


「昨日の反応についてです」


 相馬がモニターへグラフを表示する。


「覚えていますね?」


「もちろん」


 遠隔地で小規模なゲート現象――三枝たちが《境界変動》と呼んでいるものが観測された。


 ほぼ同じ時刻。


 この核から、既存の電磁波とは異なる微弱な反応が出た。


「その後も観測を続けました」


「また反応した?」


「はい」


 拓真の目が細くなる。


「何回?」


「三回」


「全部、ゲート現象と同時?」


 三枝が答えた。


「正確には、境界変動です。ゲートが実際に開口した事例はありません」


「でも何かは起きた」


「はい」


「場所は?」


「言えません」


「ですよね」


 もう慣れてきた。


 相馬が別のグラフを表示する。


「こちらが核の反応」


 そして。


「こちらが、境界変動の観測値です」


 二つの波形。


 全く同じではない。


 だが。


「……似てる」


 真帆が呟く。


 拓真も頷く。


「遅延は?」


「ほぼありません」


「距離は?」


 三枝を見る。


「言えない?」


「詳細は言えません。ただ、今回の大学から十分以上離れた地点です」


「少なくとも近所ではない」


「はい」


 拓真は顎に手を当てた。


「それなら、振動とか音が伝わったわけじゃない」


「当然、その可能性は排除しています」


 久世が答える。


「電力網や通信設備由来のノイズも調べた。今のところ、既知の原因では説明できない」


「……」


 拓真は容器を見る。


 赤い核。


「向こう側の何かに反応してる」


 久世がすぐに口を挟む。


「あくまで可能性の一つだ」


「分かってます」


「ならいい」


「でも」


 拓真は続けた。


「三回同期したなら偶然で片付けるには厳しくなってきた」


「我々も同じ認識です」


 三枝が言う。


 そして。


「もう一つあります」


 拓真が振り返る。


「まだあるんですか?」


「むしろ、今日あなたを呼んだ理由はこちらです」


 相馬が画面を切り替えた。


「昨日、境界変動が発生した直後」


 数字。


「核の質量に変化はありません」


「はい」


「温度も、ほぼ変化なし」


「はい」


「ところが」


 相馬が指す。


「内部エネルギーに相当する何らかの状態量が、変化した可能性があります」


「……何らかの?」


「適切な言葉がありません」


「どうやって分かったんです?」


「これです」


 容器の周囲に配置されたセンサー。


 拓真が初めて見るものもある。


「既存の電磁計測器だけでは検出が安定しない。そのため、複数方式を組み合わせた試作センサーを使っています」


「政府の?」


「共同研究です」


「前から作ってたんですね」


 三枝は答えなかった。


 答えない。


 ということは。


 やはりゲート研究はかなり前から行われていたらしい。


 拓真はそれ以上追及しなかった。


 今は核の方が重要だ。


「つまり」


 拓真は尋ねる。


「ゲート現象が起きると、この核に何かが入ってる?」


「そう見える」


 相馬が答えた。


「……充電?」


「その言葉は、まだ使わない方がいいでしょう」

「入ってきたものがエネルギーであることすら確定していない」


 教授が言った。


「はい」


 拓真は素直に頷く。


 だが。


 胸が高鳴った。


 もし。


 本当に。


「じゃあ、出せるか試した?」


「当然、その話になりますよね」


 相馬が笑った。


「試しました」


「どうでした?」


「出ませんでした」


「……あれ?」


 拓真が固まった。


 真帆が小さく笑う。


「期待してた顔」


「いや、もう少し何かあるかと」


「もちろん、そこで終わりではありません」


 相馬が次の資料を出す。


「加熱」


「反応なし」


「冷却」


「変化なし」


「磁場」


「反応なし」


「電場」


「ほぼなし」


「レーザー照射」


「変化なし」


「振動」


「一部で微弱な反応。ただし再現性が低い」


「圧力?」


「変化なし」


 拓真が腕を組む。


「頑固だな」


「石に性格つけないで」


 真帆が言う。


「でも、何か条件がある」


「そう考えています」


 相馬が答える。


「そこで」


 全員の視線が拓真へ向いた。


「……俺?」


「昨日、あなたが興味深いことを言いました」


「何か言いましたっけ」


「この物体が、生物のエネルギー代謝に関与しているのではないか、と」


「ああ」


「もしそれが正しいのであれば」


 相馬が核を見る。


「そもそも我々は、無機物として刺激する方法を間違えているのかもしれない」


「生体側から刺激する?」


「その可能性です」


 拓真は少し考えた。


「でも、人間につなぐのは駄目ですよ」


 三枝が僅かに眉を上げる。


「意外ですね」


「何がです?」


「あなたなら『俺で試す』と言うかと」


「言いませんよ!」


 拓真が即座に反論する。


「正体不明の臓器を人間につないで何が起きるか分からないでしょ」


「安心しました」


「俺、そんなマッドサイエンティストじゃないですからね?」


 真帆を見る。


「なんで目を逸らす」


「いや……」


「俺、人体実験なんかしないから!」


「そこは信じてるよ」


「そこ“は”って何?」


 久世が咳払いした。


「生体接続をする必要はない」


「じゃあ?」


「核へ接続していた組織を調べている」


 画像が表示される。


 魔獣の胸腔。


 核。


 そこから筋肉や血管のような組織へ伸びる、細い繊維。


「神経?」


 拓真が聞く。


「似ている」


 相馬が答える。


「電気信号は?」


「微弱ですが、死後しばらくは残っていました」


「……なるほど」


 拓真の頭が動き始める。


 生きている間。


 魔獣の身体。


 核。


 神経。


 何かを制御していた。


 なら。


「電気で刺激するんじゃなくて」


「神経信号を再現する?」


 真帆が言った。


 拓真が彼女を見る。


「それ」


「同じこと考えた?」


「うん」


「やっぱり」


 相馬が笑う。


「実は、我々もそこまで考えています」


「もうやった?」


「まだです」


「どうして?」


「神経信号の再現には、元データが少なすぎる」


「なるほど」


 拓真が画像を拡大する。


「戦闘映像、使えるかも」


 三枝が反応する。


「どういう意味です?」


「こいつが動いてた時の映像ありますよね」


「はい」


「それと、死骸回収直後の電気的データ」


「あります」


「なら」


 拓真の声が少し速くなる。


「行動と残留信号を対応させられる可能性があります。走ってる時、攻撃してる時、俺に殴られた直後――」


「最後は必要?」


 真帆。


「大事だよ。負傷時の生体反応だ」


「そうだけど」


「それを機械学習で推定して」


 拓真が真帆を見る。


「疑似信号を作れない?」


「データ量が少なすぎる」


「分かってる。でも、完全再現じゃなくて反応条件を探すだけなら?」


「……」


 真帆が画面を見る。


「波形候補を作ってスイープさせる?」


「そう」


「周波数と振幅を変えて?」


「うん」


「組み合わせ爆発するよ」


「絞ればいい」


「何で?」


「死骸から取れた残留信号」


「……」


「基準がある」


 真帆の顔が変わる。


 完全に研究者の顔。


「できるかもしれない」


「でしょ?」


「でも制御システム組むの、時間かかるよ」


「俺も手伝う」


「拓真はハード側でしょ」


「だから電極作る」


「勝手に話進めない」


「久世先生」


 二人が同時に教授を見る。


「……」


 久世は眉間を押さえた。


「君たちは」


「はい」


「こういう時だけ息が合うな」


「褒められた?」


「褒めてはいない」


     ◇ ◇ ◇


 三時間後。


「……できた」


 真帆が椅子の背もたれへ身体を預けた。


「速くない?」


 相馬が少し驚いている。


「既存の刺激装置と制御基板を流用しました。ゼロからじゃないので」


 真帆が答える。


「プログラムも簡易版です」


「十分」


 拓真は測定台を見る。


 核そのものには触れない。


 回収された接続組織の一部へ、特殊な電極が接触している。


 そこから微弱な電気刺激を送る。


 あくまで生体信号を模したもの。


「出力は?」


 三枝。


「かなり低く始めます」


「危険性は?」


「異常が出たら即停止」


 久世が答える。


「容器内部は隔離。万が一、急激な発熱やガス発生が起きても外部へ影響しない構造になっている」


 拓真が保護ゴーグルを装着する。


「始めます?」


 三枝。


「お願いします」


 真帆が操作。


「刺激レベル一」


 ピッ。


 信号。


 全員が核を見る。


「……」


 何もない。


「二」


 ピッ。


 変化なし。


「三」


 なし。


「四」


 なし。


「五」


 相馬がセンサーを見る。


「微弱な変化」


「本当?」


「誤差範囲かもしれない」


 真帆が条件を変更する。


「周波数上げる」


「ゆっくり」


 久世。


「分かってます」


 六。


 七。


 八。


「……」


 何も起きない。


「これも違うか」


 拓真が呟く。


「次の波形」


 真帆が設定を切り替える。


 今度は単純な周期信号ではない。


 死骸から取得された残留信号を参考に、揺らぎを加えたもの。


「開始」


 ピッ。


 一秒。


 二秒。


 三秒。


 相馬が顔を上げた。


「待って」


「何?」


「上がってる」


「どれ?」


「未知反応値」


 モニター。


 ゼロ付近だった線。


 少しずつ。


 上昇。


「……来た」


 拓真が息を止める。


 赤い核。


 何も変わらない。


 見た目は。


 だが。


 センサー。


 反応値。


 上がる。


「出力下げます?」


 三枝。


 久世が数値を見る。


「まだ安全範囲だ。継続」


 真帆が信号を維持する。


 そして。


「温度上昇」


 相馬。


「核?」


「違う」


「どこ?」


「……周囲」


「え?」


 核そのものは。


 二十三・一度。


 変化なし。


 だが。


 容器内部の空気。


 二十三・三。


 二十三・七。


 二十四・二。


「なんで?」


 真帆が呟く。


 拓真が身を乗り出した。


「核は熱くなってない」


「はい」


「でも周りが温まってる」


 赤い核。


「……放射?」


「赤外線では説明できません」


 相馬。


「電磁波も?」


「既知帯域では異常なし」


 温度。


 二十五度。


 二十六。


「止めるぞ」


 久世。


「停止」


 真帆が信号を切る。


 ピッ。


 反応値。


 低下。


 温度上昇。


 止まった。


「……」


 研究室が静まり返る。


 拓真は核を見つめる。


「もう一回」


「神代君」


「同じ条件です」


 久世を見る。


「再現性を確認しないと」


 久世は数秒考える。


「五分冷却してからだ」


「はい」


 五分。


 全員が待つ。


 室温。


 元に戻る。


 同じ波形。


「開始」


 信号。


 反応。


「上昇」


 そして。


 また。


 容器内の温度が上がった。


「再現した……」


 相馬が呟く。


 真帆は画面を睨んでいる。


「投入した電力は?」


 拓真。


「ほぼ無視できる」


「数値」


「平均〇・〇八ワット以下」


「発生熱量は?」


「今計算する」


 数秒。


 真帆が止まった。


「……おかしい」


「どうした?」


「投入電力だけじゃ説明できない」


 拓真の心臓が跳ねた。


「どのくらい?」


「まだ簡易計算だけど」


 真帆が数字を出す。


「少なくとも数十倍」


 沈黙。


 三枝。


 相馬。


 久世。


 全員がモニターを見る。


 拓真だけが。


 核を見ていた。


「エネルギーが」


 小さく。


「出てる」


 久世が即座に言う。


「神代君。慎重に言え」


「はい」


 拓真は息を整える。


「既存の測定範囲では、入力エネルギーより大きな熱量が確認された」


「それならいい」


「でも」


 拓真の声が。


 少し震えている。


「どこから?」


 誰も答えない。


 物理法則に従うなら。


 エネルギーは無から生まれない。


 何かがある。


 核内部に蓄えられていたのか。


 それとも。


「……昨日」


 拓真が言う。


「境界変動の時に、反応値上がりましたよね」


「はい」


「その後に」


 核を見る。


「今、この現象が起こせる」


 相馬の表情が変わる。


「つまり?」


「分からないです」


 拓真は首を振る。


「まだ分からない」


 断定しない。


 でも。


「もし」


 言葉を選ぶ。


「境界変動の時に、この核が何かを取り込んでいたとしたら」


 真帆が続けた。


「それを今、熱として放出した?」


「可能性はある」


 久世が認めた。


「検証は必要だがな」


 三枝は。


 黙ったまま。


 核を見ていた。


     ◇ ◇ ◇


「次」


 拓真が言った。


「まだやるの?」


 真帆が聞く。


「条件変えたい」


「何を?」


「波形」


「それは分かる」


「さっきの刺激」


 拓真はグラフを表示する。


「一種類しか試してない」


「うん」


「もし信号によって出力が変わるなら」


「……」


 真帆が理解する。


「制御できる?」


「かもしれない」


 三枝を見る。


「試していいですか?」


 三枝は久世を見る。


 久世が答える。


「上限を決める。温度が三十度を超えたら即停止」


「了解」


 波形変更。


 刺激。


 弱い。


「温度上昇〇・三度」


 次。


「〇・八」


 次。


「ほぼ反応なし」


 次。


「……一・六」


 拓真の顔が。


 どんどん真剣になっていく。


「同じ電力なのに違う」


「波形依存」


 真帆。


「つまり核側が信号を認識してる?」


「認識って言葉が正しいか分からないけど」


「特定の入力へ選択的に反応している」


 久世。


「少なくとも、それは言える」


 拓真は画面を見る。


 頭の中。


 また。


 構造が生まれ始める。


「……制御できる」


「拓真?」


 真帆が見る。


「これ」


 核。


「スイッチみたいにオンオフできる」


「今のところは熱だけだけどね」


「それでもだよ」


 拓真は興奮を抑えきれない。


「熱を出せるってことは、エネルギーとして取り出せてる」


「熱電変換すれば電気にもできる」


 真帆。


「効率悪いけど」


「最初はそれでもいい」


 拓真は核を見る。


「直接電気へ変換できる方法があるかもしれない」


「そこはまだ未知」


「分かってる」


 でも。


 長年。


 ずっと探していた。


 高密度。


 軽量。


 小型。


 大出力。


 そんな都合のいいエネルギー源。


 現代科学では存在しない。


 少なくとも、拓真が使える形では。


 だが。


 今。


 掌に収まる程度の石が。


 明らかに。


 入力以上のエネルギーを外へ出した。


「……これ」


 拓真が。


 無意識に笑った。


「何?」


 真帆。


「使える」


 三枝が眉を上げる。


「何に?」


 拓真は一秒も迷わなかった。


「アーマー」


 久世がため息をつく。


「やはりそこへ行くか」


「だって」


 拓真は両手を広げる。


「先生、考えてくださいよ」


「考えている」


「今まで最大の問題だった電源が」


「まだ電源と決まったわけではない」


「分かってます」


「顔が分かっていない」


「でも可能性はある」


 真帆が言った。


 久世が彼女を見る。


「水城君まで」


「だって先生」


 真帆も核を見る。


「もしこれが制御できたら」


 声が少し真面目になる。


「ロボットだけじゃないですよ」


 拓真も気づく。


 自動車。


 航空機。


 発電。


 宇宙開発。


 インフラ。


 エネルギー問題。


 この小さな石が。


 本当に。


 再利用可能な高密度エネルギー媒体なら。


「……世界変わるな」


 誰ともなく。


 拓真が呟いた。


 三枝の表情が。


 僅かに硬くなった。


「だからこそ」


 低い声。


「扱いには慎重になっていただきます」


 拓真が三枝を見る。


「分かっています」


 今度は。


 ふざけない。


 兵器にもなる。


 当然だ。


 アーマーを作ろうとしている自分が、一番理解している。


「でも」


「はい」


「調べないって選択肢もないですよね?」


 三枝は。


 少しだけ。


 笑った。


「ありません」


     ◇ ◇ ◇


 その日の夕方。


 追加実験が終わった後。


 拓真は一人で研究室のホワイトボードを眺めていた。


 そこには。


 核について分かっていることが書かれている。


 生物の胸部に存在。


 周辺組織と接続。


 外部の《境界変動》に同期して状態変化。


 特定の疑似神経信号で反応。


 反応時、周辺に熱を発生。


 入力電力以上のエネルギー放出。


 そして。


 まだ。


 分からないこと。


 何を蓄えているのか。


 どこから取り込むのか。


 なぜ赤いのか。


 なぜ熱を出したのか。


 別の生物の核ならどうなるのか。


「……別の生物」


 拓真が止まる。


 三枝たちは言っていた。


 似た生物は過去にも確認されている。


 なら。


「三枝さん」


 少し離れたところで端末を操作していた三枝が顔を上げる。


「何でしょう」


「過去に回収した核」


「……」


 また。


 答えない顔。


「ありますよね?」


「なぜそう思います?」


「甲殻犬型以外にも、異世界由来と思われる生物が出てるんですよね?」


「その質問には」


「回答できない?」


「……」


「でも」


 拓真はホワイトボードを指す。


「もし別の核があるなら、比較した方がいい」


 三枝の目が細くなる。


「何を比較します?」


「色」


「色?」


「構造」


「はい」


「反応する信号」


「はい」


「そして」


 拓真は赤い核の写真を見る。


「出てくるもの」


 三枝が黙る。


「こいつが熱を出したのって」


 拓真は続ける。


「偶然じゃないかもしれない」


「どういう意味です?」


「あの狼」


 戦闘を思い出す。


 黒い体毛。


 甲殻。


 赤い目。


 ただ。


 火を吐いたわけではない。


「いや……まだ材料が足りない」


「珍しく止まりましたね」


「仮説を言うには早すぎます」


「それが普通です」


「三枝さん、俺を何だと思ってるんですか」


「非常に頭の回転が速く、その結果たまに手順を飛ばしそうになる人です」


「……否定しづらい」


 三枝は少し考えた。


「比較試料については」


「はい」


「上と相談します」


 拓真の目が輝く。


「あるんですね?」


「そうは言っていません」


「今の完全にある人の言い方ですよ」


「回答できません」


「便利だなぁ」


 拓真が笑う。


 三枝は端末へ戻る。


 その時。


 研究室の扉が開いた。


「拓真」


「真帆?」


「教授が呼んでる」


「何かあった?」


「ううん」


 真帆が拓真の手元を見る。


 ホワイトボード。


 核のデータ。


「またそれのこと考えてた?」


「当然」


「まだ使えるって決まってないよ」


「分かってる」


「じゃあ、その画面は何?」


「え?」


 ノートパソコン。


 いつの間にか開いていた。


 そこには。


 アーマーの三次元モデル。


 背中。


 今まで大きなバッテリーパックが配置されていた部分。


 それが。


 小さくなっている。


「……」


 真帆が呆れた顔をする。


「もう載せる場所考えてるじゃん」


「仮だよ」


「何が『分かってる』なの?」


「可能性を検討してるだけ」


「楽しそうだね」


「楽しいよ」


 拓真は。


 素直に答えた。


「だってさ」


 人間を少し強くするだけの機械。


 でも。


 昨日まで。


 絶対に埋まらなかった空白。


 そこへ。


 初めて。


 何かが入りそうになっている。


「あと少しなんだ」


「何が?」


「子供の頃から」


 拓真は画面を見る。


「ずっと作りたかったもの」


 真帆は何も言わなかった。


 ただ。


 少しだけ笑う。


「研究室を爆発させないでよ」


「そこ?」


「一番大事でしょ?」


「努力します」


「努力じゃ駄目」


「じゃあ絶対」


「それならよし」


 拓真はもう一度。


 赤い核のデータを見る。


 この時。


 地球側の研究者たちは。


 まだ。


 それを《異常生体核》と呼んでいた。


 なぜエネルギーを蓄えるのか。


 なぜ周囲の環境に反応するのか。


 なぜ個体によって性質が異なるのか。


 誰も。


 正確には知らない。


 そして。


 ゲートの向こう側では。


 その石は。


 あまりにもありふれた名前で呼ばれている。


 魔力を蓄え。


 魔獣の力の源となり。


 火を生み。


 氷を生み。


 時には雷すら生み出す。


 ――《魔石》。


 神代拓真の夢を根本から変えていくことになる。


 異世界のエネルギーだった。

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